「色彩と質感の地理学-日本と画材をめぐって」中村ケンゴ×三木学×岩泉慧(4)

色彩と質感の地理学-日本と画材をめぐって (4)

西洋と比較における日本人の色彩と質感の感覚

中村:先ほど三木さんから、どうして日本の街の景観はひどいのかという話がありましたが、議論を分かりやすくするために、ヨーロッパ、今回はフランスを例にして、西洋と日本の色彩感覚の違いというのはどういうものなのかお話していきたいんですが。要するにフランス人っていうのは芸術家ではなくとも色彩を立体的に捉えて、バランスよく対比しながら配色することが自然にできると。それを日本人が後から勉強して会得するのは難しいんじゃないかということですよね。

三木:そうですね。僕はある種、嫌味と同時に参考にしてほしいという思いで作ったんですけど、無理だなっていう結論に途中でなりました。これちょっと後から勉強しても無理かもしれない。非常に感覚に根付いたものなので。なので、質感でやった方がいいんじゃないかなというような、そういうこと。

中村:例えば、サッカーのイタリア代表ユニフォームの「アズーリ」と言われる青色や、フェラーリの赤色、とても素敵だなと思うんですが、それに比べてガンダムの青、赤、黄色は結構ダセえなっていう(笑)。でも、今の日本の街の色ってあのガンダムの色ですよね。もしガンダムが、アズーリとフェラーリレッドだったら結構かっこいいかもと思うんですが。そういう意味で日本人は色彩じゃなくて素材の質感で勝負すればいいんじゃないのという話になるわけですよね。

三木:岩泉さんも詳しいでしょうけど、平安時代の「襲」なんかもあるわけなんで、色彩が発達していた国の一つだと思うんですけど、西洋思想的な色彩を取り入れるのは非常に難しいとは思います。厳密に言うと、天然の素材ではなくて、ケミカルなものが明治頃に入ってきて、大正時代頃に結構良いバランスになったんです。戦争でそれがデリートされたんで、余計にひどくなったっていう状況です。だから、戦争がなかったらもう少し良かったかもしれないとは思っております。

中村:色彩じゃなくて素材の質感ということで、建築を例に取ると分かりやすいってお話をされてたと思うんですけど、例えば、安藤忠雄さんであれば、コンクリート、坂茂さんであれば、

三木:紙。

中村:妹島和世さんであれば、

三木:ガラス。

中村:そして、このお店の設計はどなたでしたっけ。

岩泉:隈研吾さんです。

中村:隈研吾さんであれば、

三木、岩泉:(声を揃えて)木(会場笑)。

中村:ということですよね(笑)。基本的に日本の建築家、素材勝負なんじゃないのってことです。確かに色でやってらっしゃる建築家あんまり…

三木:見たことないですよね。

中村:聞かないですね、確かに。なるほどなるほど。

三木:いるっていうことであれば後で囁いてくれれば。

中村:例えば、これも三木さんが言っていたんですが、吉岡徳仁さんのように色彩を使ってるようで実はそれプリズムだという場合もあるし、ファッションであれば、コム・デ・ギャルソンやヨージ・ヤマモトの黒、イッセイミヤケのプリーツにしても素材の質感ですよね。そういうものが多いんじゃないか。そこで三木さんがフジタが凄いって言ってた話にも繋がってくる。

三木:そうですね。なんかわりとその時代にわりと俺これ勝てねえわっていう、ここだったら勝てるっていうのを見つけたのがわりと早かったなって感じがします。その後の岡本太郎の原色使いから比較すると、その点ではフジタの方が上だなって気がします。僕は岡本太郎の論文も書いていますから大好きなんですけど(笑)。

中村:今日は絵画の、内容の話じゃなくてあくまで色と質感の話しようということで、三木さんの言うところによれば、色の組み合わせについて日本人はちょっと苦手なところがあるけども、素材の質感の感覚については非常に強いものがある。だから、単純に日本人がフランス人の真似して頑張るっていうことではなくて、自分たちの強みをもっと生かしていけばいいんではないかと。そういえば、展覧会でも、日本人って、かなり絵の近くまで行って、じっとディティールを見てるじゃないですか。玄人筋は、何で絵の全体を見ないんだ、見方がなってないみたいな話をよくしますけど、それも今までの話を踏まえて考えてみると、近くから見てるっていうのは、質感もチェックしてるのかなと。

三木:そうだと思います。

目次
イベント概要
登壇者の紹介/中村ケンゴによる問題提起
「フランスの色景」と絵画の色彩分析
西洋と比較における日本人の色彩と質感の感覚
なぜ日本の芸術大学では色彩学をきちんと教えないか
風土による視覚の感覚の違い。地域と移動の問題
画材の特性の観点から見る色彩の地理学
認知科学からのアプローチ。質感を醸成する重要なファクターとしての語彙の問題
質感に関する研究について
産業界との関連(自動車や化粧品業界などにおける色彩の研究&ファッション)
まとめ

※トークイベントの記録を随時アップしていきます。

初出「色彩と質感の地理学-日本と画材をめぐって」『芸術色彩研究会』2017年。

<芸術色彩研究会(芸色研)>
芸術色彩研究会(芸色研)は、芸術表現における色彩の研究を、狭義の色彩学に留まらず、言語学や人類学、科学、工学、認知科学など様々なアプローチから行います。そして、色彩から芸術表現の奥にある感覚や認知、感性を読み解き、実践的な創作や批評に活かすことを目指します。
ここで指す色彩は、顔料や染料、あるいはコンピュータなどの色材や画材だけではなく、脳における色彩情報処理、また素材を把握し、質感をもたらす要素としての色彩、あるいは気候や照明環境など、認知と感性に大きな影響を及ぼす色彩環境を含むものです。それは芸術史を、環境と感覚の相互作用の観点から読み直すことにもなるでしょう。
http://geishikiken.info/

三木 学
評者: (MIKI Manabu)

文筆家、編集者、色彩研究者、美術評論家、ソフトウェアプランナーほか。
独自のイメージ研究を基に、現代アート・建築・写真・色彩・音楽などのジャンル、書籍・空間・ソフトウェアなどメディアを横断した著述・編集を行なっている。
共編著に『大大阪モダン建築』(2007)『フランスの色景』(2014)、『新・大阪モダン建築』(2019、すべて青幻舎)、『キュラトリアル・ターン』(昭和堂、2020)など。展示・キュレーションに「アーティストの虹─色景」『あいちトリエンナーレ2016』(愛知県美術館、2016)、「ニュー・ファンタスマゴリア」(京都芸術センター、2017)など。ソフトウェア企画に、『Feelimage Analyzer』(ビバコンピュータ株式会社、マイクロソフト・イノベーションアワード2008、IPAソフトウェア・プロダクト・オブ・ザ・イヤー2009受賞)、『PhotoMusic』(クラウド・テン株式会社)、『mupic』(株式会社ディーバ)など。
美術評論家連盟会員、日本色彩学会会員、大阪府万博記念公園運営審議委員。

Manabu Miki is a writer, editor, researcher, and software planner. Through his unique research into image and colour, he has worked in writing and editing within and across genres such as contemporary art, architecture, photography and music, while creating exhibitions and developing software.
His co-edited books include ”Dai-Osaka Modern Architecture ”(2007, Seigensha), ”Colorscape de France”(2014, Seigensha), ”Modern Architecture in Osaka 1945-1973” (2019, Seigensha) and ”Reimaging Curation” (2020, Showado). His recent exhibitions and curatorial projects include “A Rainbow of Artists: The Aichi Triennale Colorscape”, Aichi Triennale 2016 (Aichi Prefectural Museum of Art, 2016) and “New Phantasmagoria” (Kyoto Art Center, 2017). His software projects include ”Feelimage Analyzer ”(VIVA Computer Inc., Microsoft Innovation Award 2008, IPA Software Product of the Year 2009), ”PhotoMusic ”(Cloud10 Corporation), and ”mupic” (DIVA Co., Ltd.).
http://geishikiken.info/

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