「日本美術応援団」シリーズ第1弾!
赤瀬川原平・山下裕二『日本美術応援団』(ちくま文庫・2004年)
秋丸 知貴
「日本美術応援団」を標榜する二人――前衛芸術家・芥川賞作家で『老人力』『超芸術トマソン』『路上観察学入門』等の著者として知られる赤瀬川原平(団員1号)と、明治学院大学教授で室町時代の水墨画を専門とする美術史家である山下裕二(応援団長)の対談集。2001年に日経BP社から出版され、2004年にちくま文庫に入った。
本書は、『日経アート』1996年5月号から約3年間、隔月で18回連載された日本美術を巡る対談を基に、装幀の南伸坊(団員2号)を加えた鼎談「第一回特別ゼミ」からなる。ゼロ年代の日本美術再評価ブームの基点となった快著であり、その後10年以上続いている日本美術応援団シリーズの最初の1冊である。
本書の刊行当時、一般に日本で行われる展覧会や出版される書籍は、まだ西洋美術偏重の傾向が強かった。これに対し、本書は、幅広く明快に日本美術の魅力を紹介し、日本美術をより身近に感じさせる新しい鑑賞方法を提案する。
取り上げられるのは、雪舟、等伯、若冲、写楽、北斎、光琳、応挙、蕭白、蘆雪、円空、木喰、また高橋由一、青木繁、佐伯祐三、安井曾太郎、さらに縄文土器、装飾古墳、根来塗、龍安寺の石庭等である。記述は平易な対話形式で、各章の分量が適度に短く、図版も数多く掲載されているのでとても読みやすい。主に、赤瀬川氏が芸術家の観点で自由な見解を提出し、山下氏が美術史家の立場から補足するという体裁を取る。
従来の日本美術の見方を変えたとされる本書の特徴は、その一貫した実感主義と反教養主義にある。通説による一面的な理解や、国宝・重要文化財といった権威付けを排し、「ナマ」の現物との直接的な鑑賞体験から生まれる快感を称揚する。「雪舟は長嶋と野茂を足したような奴」、「典型的な成り上がり者で俗人の極みみたいな等伯」、「光琳とスケベは切っても切れない」、「手擦れニコン的根来の美」等の指摘に、本書の真骨頂がある。
画家を分類して、着地点から逆算して作業する「デザイナー」と、着地点が分からないままとにかく描き進んでいく「絵描き」という二つの要素から見る視点や、単なる荒々しさではなく抑えきれない精神の発露が生む力強い表現を「乱暴力」、その裏返しの異常に繊細な表現を「丁寧力」とする定義も面白い。
多少下ネタに走りすぎるきらいはあるが、日本美術を難しい専門用語ではなく、平易な日常感覚で語る姿勢には好感が持てる。表紙の著者二人の学ラン姿も、エンターテインメントに徹しているという意味では成功している。
ただし、語り口は斬新でも、取り上げる作品はやはり従来通りの権威主義的なビッグネームばかりではないかという問いは残る。また、日本美術のカルさを強調するあまり、逆に真摯な精神性についてはほとんど全く言及されていないのも残念である。願わくば、日本美術の裾野の広さや重厚性までを含んだ、包括的な「日本美術応援団」の輪が広がることを期待したい。
※初出 秋丸知貴「赤瀬川原平・山下裕二著『日本美術応援団』日経BP社・2001年」『日本美術新聞』2012年3・4月号、日本美術新聞社、22頁。