書評、などという大それたことは自分にはできないので、感想文のようになってしまって恐縮だが、この本は布施英利さんの講座で紹介されていて、目にすることとなった。書評については布施さんが日本経済新聞の2025年1月25日付で書かれているので、そちらをご参照いただきたい。
本稿は、近藤滋氏の著書『エッシャー完全読解』を基盤としつつ、M.C.エッシャーの作品世界が誘う「夢想」の深淵を探求しようと企図するものである。エッシャーの作品は、一見すると錯視やトリックアートとして語られがちだが、その背後には科学的精密さと哲学的深遠さが潜んでいる。本稿では、近藤氏の科学的解読を起点に、エッシャーが追求した無限、永遠、そして視点の問題、さらには自然界の秩序への崇敬といったテーマを掘り下げ、特に「神の視点」という概念を通して、スピノザやデューラーといった北方ヨーロッパの知的巨匠たちとの歴史的・思想的連関を考察する。鑑賞者が抱く「謎解きが謎解きで終わらずに、謎のままで残る部分」への関心こそが、本稿の核心となる。なお、noteの図版の制限の都合でこの初稿では必要な図像を配置することができなかった。こちらについては後日記事を分割して、図版を増やすことを予定している。
著者の近藤滋氏は美術の専門家ではない。その『エッシャー完全読解』は、美術の専門家ではない異分野の研究者による、エッシャー作品への斬新なアプローチを提供する。近藤氏は1959年生まれの発生学、理論生物学者であり医学博士である。長年大阪大学の教授を務め、2025年1月からは国立遺伝学研究所の所長を務めている 1。彼の研究は、アラン・チューリングが提唱した生物の体表の縞模様が分子の反応が作る「波」であることを世界で初めて実証したことで知られ、その成果は『波紋と螺旋とフィボナッチ』(学研メディカル秀潤社、2013年)や『生きもののカタチ』(学研プラス、2021年)といった著書にまとめられている。
続きは以下のリンク先へ
https://note.com/kkatsumata/n/nc728b34c972f