川内倫子(写真家、1972年生まれ)の作品の被写体は、主に「地球」と「生命」である。上空から遠くの地平線を写した作品は、人間などは小さな存在であり地球の営みのごく一部に過ぎないことを思わせる一方で、樹木のみずみずしさや鳥の飛来などが、地球のスケールに比べればミクロなものにこそ生命力は存在するのだということを感じさせる。柔和な表現による作品の数々をぼーっと見て歩くのはなかなか心地よく、いつの間にか川内の世界の中を自然な感覚で旅している自分がいることに気づいた。
さまざまな場面が切り替わるよう構成された映像作品も、心の落ち着きどころというのが今の不安定な世界のどこかにあって、見ているとそこに導かれるような気持ちになる。特にストーリーがあるわけではないのに、次の場面へといざなってくれるのだ。
そうしたテーマがこの上なく魅力的に見える大きな要素として、撮影する際の光のさまざまな回り込みを川内が極めて巧みに制御しているということがある。かすんだり、虹のような反射がレンズに入り込んだりといった、扱い方を間違えれば失敗写真にもなりかねないような写し方を川内は自在に使って、人の意識を現実よりもむしろ夢の世界と連れて行ってくれる。光の魔術師ぶりに感じ入る経験をさせてくれる展覧会だった。
【展覧会情報】
展覧会名:川内倫子 M/E 球体の上 無限の連なり
会場名:東京オペラシティアートギャラリー
会期:2022年10月8日〜12月18日
空間設計:中山英之(建築家)