1994年に始まったVOCA賞は、現代美術家を顕彰する重要な賞の一つだ。平面作品であることが出品の条件とされる中で、作家たちはさまざまな可能性を開き続けてきた。VOCA展はその多様性を確認できる場にもなっている。今年もたくさんの刺激を得られたので、気になった作品を3点ほど紹介させていただきたい。
■大関智子《不確かな庭》
「日本画ウォッチャー」を自任し、近代になって概念が生まれた「日本画」という技法でどんな創造ができるのかということを常に気にしながら美術界に接してきた筆者として、特に引きつけられた作品である。
ひょっとすると、日本の片田舎のありふれた風景にしか見えないかもしれないが、実は近代を表した側面を持つ。セイタカアワダチソウという外来植物が日本で旺盛に繁殖した様子が描かれているのだ。そしてよく見ると、日本古来の植物であるススキが、背の高さでは負けないぞとばかりに主張している。いわば日本の中での在来種と外来種のせめぎ合いが密かに表現されているのだ。
非常にしっかりした技術で描かれているゆえか、一見そうしたせめぎ合いのような気配は感じない。実際に画家が秋田の野原で見たという2匹のかわいいうさぎ(ニホンノウサギだそうだ)は画面を引き締める要素になっており、モノトーンに近い色調ともあいまって、バランスの取れた穏やかな風景と映る。しかし、観察を深めると、その異様さが心にじわりと来る。会場を出た後も、ずっと心に残り続けた1枚である。
■小森紀綱《絵画鑑賞》(大原美術館賞受賞作品)
西洋と東洋の入り混じりが小気味いい。さまざまな絵画が引用された中で特に気になるのは、俵屋宗達の《風神雷神図屏風》に乗り移っている国籍不明の黒装束の2人の人物の絵である。文化というものにはこんな融合の仕方もあるのかと思わせる。そこで生まれた新しい文化は、また人々の心を豊かにしてくれるのだ。
■川内理香子《Raining Forest》(VOCA賞受賞作品)
絵画というのは、カンヴァスや紙の上に絵の具で何かを描くものである。ところがこの作品は、その常識に抗っている。カンヴァスと絵の具を使っているところは、普通の油彩画である。しかし作家は実は彫って表現しているのだ。まるで泥を塗り固めたかのような絵の具の層の上に、動物などの形を彫る。
この作品で真ん中の辺りに彫られているのは、ジャガーだという。よく見ないと動物の形は浮かび上がってこない。逆に、じっと見つめて認識したときの存在感は格別だ。絵画が物質であることをも深く印象づける。そしてもう一つこの作品から感じ取れる重要なことがある。「線描」という手法の持つ力強さである。ぐりぐりと描く。そこには、大きなエネルギーの痕跡が認められるのだ。
【VOCA展とは】(公式ウェブサイトより)
VOCA展では全国の美術館学芸員、研究者などに40才以下の若手作家の推薦を依頼し、その作家が平面作品の新作を出品するという方式により、全国各地から未知の優れた才能を紹介していきます。
【展覧会情報】
展覧会名:VOCA展2022
会期:2022年3月11日〜 3月30日
会場:上野の森美術館(東京・上野)
公式ウェブサイト:https://www.ueno-mori.org/exhibitions/voca/2022/