東京都美術館で開催中の「ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展」(4月3日まで)の目玉作品、フェルメールの《窓辺で手紙を読む女》が大いに話題になっている。壁だった部分が作家本人ではなく別の画家の加筆だったとの研究結果を受けて加筆部分を削る修復プロジェクトが実施され、塗り込められたキューピッドの姿を浮かび上がらせたからだ。やはり見たいという気になる。
以前、ベルリンの国立絵画館で《真珠の首飾りの少女》を見たときにフェルメールの壁の描き方がすごくいいなと思ったので、自分の中では今回の修復は気分が微妙だった。そして、美術品はやはり実物を見てなんぼの世界。これはぜひ自分の目で確かめたいと思って実際に東京都美術館に見に行った(プレス内覧会には行けなかったので、普通に見に行った)わけだが、そのときにも修復後の姿には何となく違和感を覚えていた。展示室には親切なことに修復前の状態の模写を、真横ではなかったが比較的近くにおいており、見比べることも可能だった。その日は結局違和感はなくならなかった。しかし、もやもやを解消したいなあという思いもあって、会場出口のショップにあった修復前と修復後の絵はがきを購入した。
展示室で見た時にはまだ、キューピッドはちょっと邪魔だなと感じていた。これによって画面に余白がなくなるし、あまりに存在感が大きく、主人公である女性とどちらを主に見ればいいのかがわからなくなるように思ったからだ。
しかし、自宅で絵はがきを見ていて、感想がだんだん変わってきた。絵の具のくすみを洗浄したあるいは削り取った効果からか、手前の布や窓枠、カーテンの赤と青の対比がとても鮮やかだ。もちろんこれは実物を見たときにも感じた…はずなのだが、そのときはキューピッドにとらわれすぎていたのだろうか。あまり印象に残っていなかった。そして、絵はがきを眺めていると、光が当たった女性の姿や色彩の鮮やかさに目が行くようになった。やはりそれがフェルメールの仕掛けなのだろう。画中画のキューピッドはあくまでも背景としての立場を貫いているように見えるので、あまり気にならなくなった。女性が読んでいる手紙が恋文であることを暗示しているわけだし、目立ちすぎてはならないということにもなろうか。そして今度は、修復後の姿に慣れた目には、修復前の姿が物足りなくなってきた。
このたびは、「見慣れていない物への違和感」「見慣れていない物を見慣れることによる意識の変化」「見慣れていなかった物に接したときの新鮮な発見」等を、絵はがきによって経験することができた。
もちろん複製なので実物のような質感を求めるのは無理だが、絵はがきにもある程度の「アウラ」が存在するとも思う次第である。絵はがきを買ってよかった。
ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展
【以下公式ウェブサイトより引用】
17世紀オランダを代表する画家ヨハネス・フェルメールの《窓辺で手紙を読む女》は、窓から差し込む光の表現、室内で手紙を読む女性像など、フェルメールが自身のスタイルを確立したといわれる初期の傑作です。1979年のX線調査で壁面にキューピッドが描かれた画中画が塗り潰されていることが判明、長年、その絵はフェルメール自身が消したと考えられてきました。しかし、その画中画はフェルメールの死後、何者かにより消されていたという最新の調査結果が、2019年に発表されました。 本展では、大規模な修復プロジェクトによってキューピッドの画中画が現れ、フェルメールが描いた当初の姿となった《窓辺で手紙を読む女》を、所蔵館であるドレスデン国立古典絵画館でのお披露目に次いで公開します。所蔵館以外での公開は、世界初となります。加えて、同館が所蔵するレンブラント、メツー、ファン・ライスダールなどオランダ絵画の黄金期を彩る珠玉の名品約70点も展示します。
※本記事は、つあおのアートノートより転載したものです。