日本でもたくさんのゴッホ展が開催されてきましたが、今回のように静物画だけを集めた展覧会は珍しい!そして想像以上に見ごたえがありました。なぜなら、花や食器や果物といったゴッホの一番身近にあったものたちを描いているので、彼の日常が生き生きとあふれ出てくるからです。きれいな色、良い香り、ささやかな音、はたまた痛みや寒さなど、ゴッホが五感で感じたことが今ここにあるような新鮮さを感じます。
今展では、ゴッホの同時代前後(17世紀から20世紀初頭まで)の静物画の中にゴッホの静物画を織り交ぜて飾ってあるので、ゴッホの絵の特徴がより際立って見えました。彼の絵に描かれた静物画たちは、突出して「フレッシュなままで今ここにある」のです。そのような絵の数々から感じたのは、「ゴッホはきっと生きるのが好きだったんだ」ということ。
気性が激しく、様々な挫折を経験した上に悲劇的な最後を遂げたというイメージが強いゴッホですが、それを全てひっくるめても、画家として懸命に生きた日々が好きだったのではないでしょうか!ひどく苦しいことがあれば、対極には特大の喜びがあったのかもしれません。そのように感じられた作品を展示からいくつかご紹介します。
描き始めたばかりの頃の静物画もゴッホテイスト
ゴッホが描き始めたばかりのころの習作。いわゆるハーグ派とともにあったころの作品です。ただ冷たくそこに横たわっている日用品ではなく、今使われたばかり、またはこれから使われようとしている物たちといった空気感が魅力的です。
とにかく美味しそうな野菜や果物
赤と白の格子模様が入った可愛らしい壁紙の前に、レモンとオレンジがコロコロ。水差しの水もういういしく、爽やかに目覚めた朝を感じました。
約一年後にゴッホが描いたこちらにも、同じくレモンとオレンジと水差しがあります。でも雰囲気が全然違いますね。黄緑色の壁はシンプルで、黄色いテーブルの上に黄色とオレンジの果物がコロコロ。この頃のゴッホは同じ系統の色彩を用いながら筆致の違いだけで対象を描き分けようと試みていたそうです。実験しながら着実に技術を上げていったゴッホ!
そして驚くべき作品はこちら。
玉ねぎ、本、手紙、燭台、パイプなどが心地よい色彩と共に小躍りしていますが。。。なんとゴーギャンとの共同生活が2ヶ月で終わりを迎え、自らの耳をカミソリで切り落とした事件から少しあとくらいに描かれた作品なのです!
想像を絶する悲しみと絶望を経験してもなお、手紙は嬉しいし、玉ねぎを見ると何か料理をしたくなる。ろうそくに火をともしてタバコでも吸ってと、徐々に日常に戻りながら、やっぱり生きていることや描けることがうれしかったのではないでしょうか。
更にこの絵をじ~っと見ていると、ゴッホは料理が上手で、食べるのが好きだったに違いないと思えてきました。
賛歌を歌っているような花々の色
水色の花瓶に多彩な色彩と筆触が咲き乱れていてウルトラエレガント!うっとりして立ち尽くした絵がこちらです。透明感のある明るい色彩のハーモニーが無限に湧き出てくる感じ。この頃ゴッホは、花以外は描かずに、補色など色彩の研究に没頭していたようですが、生あるものの美しさに毎日魅了されていたのではないかと想像します。
ハイライトは、お隣同士で展示してあるゴッホの「ひまわり」と「アイリス」です。両方ともパワフルな黄色と筆遣いが強烈にアピールしてきてその場を動けなくなる作品です。
特にひまわりはSOMPO美術館所蔵でおなじみではありますが、このように同じ花のモティーフの名品と隣り合わせて見ると、改めてダイナミックな傑作だという事が分かります。
そして「ひまわり」は「黄色い背景で、黄色い壺にいけた、黄色いひまわり」という実験的な作品ですが、「アイリス」は背景の黄色に補色の紫をもってきて際立たせることに成功した意欲作です。
よく見るとアイリスの輪郭に沿った形で黄色を分厚く塗ってあって、冬至 ゴッホが感じた花のオーラそのものを今に伝えています。
静物画に特化したからこそ、かえってゴッホの「生」への情熱がほとばしる展覧会!
みなさんはどのように感じるでしょうか?
是非体感してみてください!
【展覧会基本情報】
タイトル:「ゴッホと静物画―伝統から革新へ」
会期:2023年10月17日~2024年1月21日
会場:SOMPO美術館
住所:東京都新宿区西新宿1-26-1
電話番号:050-5541-8600
開館時間:10:00~18:00(11月17日、12月8日〜20:00) ※最終入館は閉館30分前まで
休館日:月(ただし1月8日は開館)、年末年始(12月28日~1月3日)
料金:一般2000円(1800円)/大学生1300円(1100円)/高校生以下無料※日時指定予約制、()内は日時指定料金。高校生、無料入場対象者も日時指定予約推奨
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