個展「My Ring」で新しい扉を開く大岩オスカール

 

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展示風景より《Ring 5》(左)《Ring 4》(右)2023 キャンバスに油彩  各H130 x W130cm

現代社会や環境問題を交え、親しみやすい具象絵画で知られる大岩オスカールの個展「My Ring」が東京・代官山のアートフロントギャラリーで行われている(5月28日まで)。

大岩は、米ニューヨーク在住の日系ブラジル人2世の画家だ。1965年にブラジル・サンパウロに生まれ、建築を学んだ後、1991年から2001年まで東京に住み、その間、ロンドンに滞在してアーティスト・イン・レジデンスも経験した。2002年以降は拠点をニューヨークに移し、展覧会のほか、芸術祭、コミッションワーク、出版など、多岐にわたり活動している。

2019年に金沢21世紀美術館で行われた展覧会「光をめざす旅」では、「画家の仕事は、どれだけ絵が上手かとか、絵具を使う技術を持っているかの問題ではなく、一つのアイデアをどう平面上に表現するかの自分の中での戦いです」と述べていた。その言葉を証明するように、コロナ禍で移動が制限されると、タブレットを使って黒一色のデジタルドローイングを制作し、そこから版画「隔離生活」シリーズを制作・発表してきた。

今回展示されている一連の新作(5点)は、油彩画を描き始めた1995年ごろからこれまで、約28年の間に描いてきた自作の風景から抜き出したモチーフを再構成した絵画作品。

描かれているモチーフは、ラーメン屋台、金魚、ベッドやソファーのある部屋、地下鉄の入り口、重機、建築物、日本地図など。いつかのどこかでの日常なのか、あるいは画家の想像によるものなのか、見る側に想像を促し、作品の中へと引き込む。大岩の過去作品を見てきた人たちにとって、今回の新作への親しみの度合いは、より深まりそうだ。

それぞれの作品の上を飛び交うように描かれている光のような黄色い粒。5作品をつなぐように描かれている漆黒の大きな川のような流れの上にも現れ、異なる時間や場所がつなぎ合わされて新たな一つの空間をつくりだしている。

同ギャラリーによる大岩へのインタビュー「新しい扉を開かないと新しいアイディアは出てこない」で大岩は、自身の古い絵をみるとその当時、試行錯誤しながらテクニックを編み出したことを思い出すといい、その軌跡が本展の作品になっていると語っている。

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展示風景より《Studio (Ring)》2023 3Dプリント、ミクストメディア 20 x 30 x 30cm

本展では、この連作を3Dプリンターで立体化した《Studio (Ring)》も展示されている。描いた油彩画を光と3Dの技術を使って模型にしようとする試みで、光に透過させて鑑賞する作品。絵画の暗いところは厚く、明るいところは薄くなるという、絵画の明暗と物質の厚みがリンクしている。中央に自分が立って自分の絵画世界を見つめているイメージだ。

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展示風景

参考文献:

  • 「大岩オスカール グローバリゼイション時代の絵画」現代企画室(2008年)
  • 「大岩オスカール 光をめざす旅」求龍堂(2019年)
  • アートフロントギャラリーインタビュー「新しい扉を開かないと新しいアイディアは出てこない」(2023年4月6日)

会期:2023年4月21日(金)~ 5月28日(日)

会場:アートフロントギャラリー(東京都渋谷区猿楽町29-18ヒルサイドテラスA棟)https://www.artfrontgallery.com/

 

アートフロントギャラリーから徒歩数分に位置するルーフミュージアムでも、大岩の作品が展示されている。

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展示風景

ルーフミュージアムでは、米ニューヨークにスタジオを持つ5人のアーティストによるグループ展「Echoes from New York!」が行われており、大岩がキュレーションを担当している。大岩自身も5人のうちの1人だ。サンパウロで生まれ育ち、さまざまな場所で生活してきた大岩は、もし、違う時代、違う場所に生まれていたら、自分の人生はどうなっていただろうかと自問する経験から、もし「芸術的キャリアが美術市場の大きな動きと重なっていたら、私のスタジオはどう変わっていただろうか」と想像し、本展でのシリーズを制作したという。例えば1925年のミラノに住んでいたら・・・「私は昨夜、未来派の友人ジャコモ・バッラやウンベルト・ボッチョーニと遅くまで飲みながら、ソ連映画とドイツ映画について気さくに議論していた」と始まる短い物語の傍らに、その時代のスタジオの様子を描いた油彩画が展示されている。世界を移動し制作を続けるという体験からであろうユニークな描写が見る者を楽しませてくれる。油彩画 6点(1910年パリ、1925年ミラノ、1934年メキシコシティ、1956年サンパウロ、1959年大阪、1965年ニューヨーク)、水彩画2点(1959年大阪、1992年東京(西新井))、映像1点が展示されている。

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My Studio in Milano 1925 (2023)

「Echoes from New York!」展には、大岩のほか、牧田愛、清水ちえ、Firoz Mahmud、田中さおが参加している。

会期:2023年5月3日(水)~2023年6月12日(月)

会場:Lurf MUSEUM(東京都渋谷区猿楽町28-13 Roob1-2F)

https://lurfmuseum.art/

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評者: (SHIGENO Kae)

ライター、編集者、翻訳者。新聞社勤務を経て、現在はフリーランスで活動。美術展の取材記事を雑誌等に寄稿するほか、企業広報誌や事業報告集などの編集や翻訳に携わる。

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