世界に羽ばたく美術館の守り神「ヤノベケンジ《SHIP’S C AT (Muse)》」

世界に羽ばたく美術館の守り神

ヤノベケンジ《SHIP’S CAT(Muse)》2021年 撮影:KENJI YANOBE Archive Project

《SHIP’S CAT(Muse)》は、2022 年に開館した黒い直方体の外観が特徴的な大阪中之島美術館と、内部に組み込まれた立体的な「パサージュ」を行き交う人々を見守るために制作された《SHIP’S CAT》シリーズの彫刻作品である。堂島川に面する美術館が世界に発信するための象徴となり、守り神になるよう願いが込められた。

大阪中之島美術館は、大阪大学(旧・大阪帝国大学)医学部の跡地に建てられている。江戸時代には、中之島付近に蔵屋敷が立ち並び、日本中の米や特産物が集まって米取引が行われ「天下の台所」と称された。美術館は、かつて広島藩の蔵屋敷があった場所に位置し、そこには直接、入船できる「舟入」があり、厳島神社の分社があったという。また、美術館前の田蓑橋は、古代大阪にあった難波八十八島の一つで、代々祭祀が行われていた田蓑島に由来している。

つまり、古代では「神」、近世では日本各地の「富」、近代では人々の体を治す「科学」の粋が集結していた。そして、現代においては大阪中之島美術館には、日本有数の「美術」のコレクションが集う。ヤノベケンジは、「美術」という人々の心を癒す宝を守るための猫となるよう考えた。

世界三大博物館の一つと言われる、ロシアのエルミタージュ美術館には、ネズミから美術品を守る警備員として猫が飼われている。その役割は、「SHIP’S CAT」と変わらないといっていいだろう。そこでヤノベは、「MUSEUM’S CAT」の役割を新たに加味した。そのために胸には羽の印をつけ、《サモトラケのニケ》を想起させるエンブレムにした。《サモトラケのニケ》は、船首に降り立つ勝利の女神であり、美術彫刻の象徴でもある。

背中にはボンベを付け、潜水艦にも宇宙船にもついていけるスーツを着ている。スーツの色は、河川と航海の安全を守る管制塔などを表すインターナショナルオレンジや、厳島神社の朱を表している。その姿はモノリスや宇宙船のような美術館にふさわしく、映画『2001 年宇宙の旅』を連想させる宇宙服のイメージでもある。《SHIP’S CA(Muse)》は、美術館の北側、真北に向けて建てられ、天体の中心軸である北極星を見つめ、世界に羽ばたく美術館を発信し、人々を誘っているといえるだろう。

《SHIP’S CAT(Muse)》と大阪中之島美術館 撮影:KENJI YANOBE Archive Project

北を向く《SHIP’S CAT(Muse)》

【SHIP’S CAT (Muse)】
制作年|2021 サイズ||350 × 110 × 240 cm
素材|ステンレス、FRP、アクリル、LEDライト 他

【展示場所】
所在地|大阪府大阪市北区中之島4-3-1 大阪中之島美術館
アクセス|京阪中之島線 渡辺橋駅より徒歩5分

初出:ヤノベケンジ作品集『SHIP’S CAT:GIANT SCUPTURES OF KENJI YANOBE』eTOKI、2022年、p.12-13。

本記事は、2022年2月2日に開館する、大阪中之島美術館に合わせて特別に公開いたしました。作品集は、現在大阪中之島美術館ミュージアムショップで販売しています。
https://nakka-art.jp/

三木 学
評者: (MIKI Manabu)

文筆家、編集者、色彩研究者、ソフトウェアプランナーほか。
独自のイメージ研究を基に、現代アート・建築・写真・色彩・音楽などのジャンル、書籍・空間・ソフトウェアなどメディアを横断した著述・編集を行なっている。
共編著に『大大阪モダン建築』(2007)『フランスの色景』(2014)、『新・大阪モダン建築』(2019、すべて青幻舎)、『キュラトリアル・ターン』(昭和堂、2020)など。展示・キュレーションに「アーティストの虹─色景」『あいちトリエンナーレ2016』(愛知県美術館、2016)、「ニュー・ファンタスマゴリア」(京都芸術センター、2017)など。ソフトウェア企画に、『Feelimage Analyzer』(ビバコンピュータ株式会社、マイクロソフト・イノベーションアワード2008、IPAソフトウェア・プロダクト・オブ・ザ・イヤー2009受賞)、『PhotoMusic』(クラウド・テン株式会社)、『mupic』(株式会社ディーバ)など。
美術評論家連盟会員、日本色彩学会会員。

Manabu Miki is a writer, editor, researcher, and software planner. Through his unique research into image and colour, he has worked in writing and editing within and across genres such as contemporary art, architecture, photography and music, while creating exhibitions and developing software.
His co-edited books include ”Dai-Osaka Modern Architecture ”(2007, Seigensha), ”Colorscape de France”(2014, Seigensha), ”Modern Architecture in Osaka 1945-1973” (2019, Seigensha) and ”Reimaging Curation” (2020, Showado). His recent exhibitions and curatorial projects include “A Rainbow of Artists: The Aichi Triennale Colorscape”, Aichi Triennale 2016 (Aichi Prefectural Museum of Art, 2016) and “New Phantasmagoria” (Kyoto Art Center, 2017). His software projects include ”Feelimage Analyzer ”(VIVA Computer Inc., Microsoft Innovation Award 2008, IPA Software Product of the Year 2009), ”PhotoMusic ”(Cloud10 Corporation), and ”mupic” (DIVA Co., Ltd.).
http://geishikiken.info/

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