2024年最初のシンワアートオークションが1月27日に開催されました。出品作品は、近代美術とコンテンポラリーアートが中心です。
意外と知られていないかもしれませんが、オークション当日は、出品作品そのものは展示されず、画面でしか見ることができません。実物を見たい方々のためには、オークション実施日の3日ほど前から前日まで開催される「下見会」が設けられています。展覧会形式で出品作品全てを見ることができる「下見会」は、美術館ではあまり目にしないような巨匠のレア物が展示されていたりして結構面白いものです。予約なしでふらりと立ち寄れるのも嬉しいところ。入場無料ですのでおすすめです。今回は、「下見会」で出会った、ツウ好みの作品を中心に、落札結果とともにレポートします。
まず最初に惹きつけられたのは、梅原龍三郎の作品だけを展示した応接室スペースです。
軽いタッチで描かれたりんごの静物画や、商品ながらカラフルで楽しい風景画などがセンスよく飾ってありました。
そしていかにも主役といったたたずまいで金縁の額に入ったブーケの写真がひときわゴージャス。「梅原龍三郎といえばバラでしょ!」と近づいてみると……。
描かれていたのは「牡丹」でした!。梅原はバラを好み、生涯を通して描いたことで有名ですので、「牡丹」とは希少です。Webで検索すると、梅原の「バラ」と「牡丹」ではその数の差が歴然としています。それにしても、言われなければバラのように見える華やかなたたずまいがあり、人の顔が入ったマジョリカ壺がチャームポイントで、良い感じの掘り出し物かもしれません。エスティメイト(落札予想額)は、600万円から900万円。オークション当日の落札価格(ハンマープライス)は、720万円でした。
実は今回、巨匠が描く「ザ・定番」ではないのだけれど「これは名品では?」という作品にいくつか出会いました。鏑木清方のこちらの作品もその一つです。
美人画といえば「西の松園(上村松園)、東の清方(鏑木清方)」ともてはやされたことを知る方は多いのではないでしょうか。また、この記事をお読みのみなさんの中にも清方の美人画のファンの方がいらっしゃるのではないかと想像します。この絵に登場する2人も端正なお顔をしているのですが、いわゆる美人画とはちょっと様子が違います。一人が男装した女性で、もう一人が男性なのですがお分かりになりますか?「歌舞伎のはじめ」というタイトルからピンときた方もいらっしゃるかもしれませんが、歌舞伎の“祖”である出雲の阿国(いずものおくに)と名古屋山三(なごやさんざ)を描いたものなのです。太刀にもたれているのが男装の阿国で、その傍らに腰を下ろすのが美男子の誉れ高い山三。阿国の方は頭巾で顔が半分ほど隠れていますが、山三の美男子ぶりはばっちり見ることができます。もしかしてこの時清方は、美人というよりも美男子を描きたい気分だったのかしら?いずれにしても、ジェンダー関係なしに粋なオーラを放つ2人は、現代の時流にぴったり。彼らがインスタを始めたら相当人気が出るのではないでしょうか。
エスティメイトは、100万円から150万円。落札価格は、115万円でした。
変化球といえば、草間弥生のこのような原画もありました。カボチャでもなく、水玉模様でもなく、もやっとした蒼い湖を表現した作品……。
まだ今のように大ブレイクする前の草間弥生さん49歳の時のレアな作品で、紙の上にエナメルで描いているという点もユニークです。それでも、27.2センチ×24.2センチという小品ながら落札価格660万円をたたき出すとはさすが現代アートの女王!しかしながら、絵柄がカボチャだったら似たようなサイズの版画でも同じくらいの金額になるかもしれないと考えると、1点ものでこの価格はお買い得かもしれません。
変化球という意味では、加山又造(かやままたぞう)の焼き物もご紹介しておきましょう。
日本画の伝統的な様式美を現代的な感覚で表現し、「現代の琳派」と呼ばれた加山又造ですが、実は40代から焼き物への絵付けにも熱心に取り組んでいたそうです。きっかけは、陶芸家であり(加山又造の義弟でもある)番浦史郎(ばんうらしろう)の元を訪ねたこと。番浦史郎が成形したものに加山又造が絵付けをするという形式で、たくさんの伸びやかな大鉢や俎皿(まないたざら)を生み出していたとは知りませんでした。そして今回出品されていたのは、番浦の元で作陶を学んだ加山の長男である哲也氏が作った皿の上に加山が絵付けしたものだそうです。
加山親子合作とあって、形も絵もなんだかほのぼのとしています。この俎皿に手まり寿司をポンポンと乗せて、一つ一つつまみながら日本酒を飲んだら話が弾みそう!
エスティメイトは、20万円から30万円。落札価格は、32万円でした。
変化球的な作品を中心にレポートしてきましたが、ド直球で高額落札された2作品もご紹介しておきます。
まずは横山大観の富士山。定番中の定番ですね。金色の空と霞の中にキリッとした頭をのぞかせている不二霊峰です。新年早々ということでタイミングもベスト。
エスティメイトは、400万円から700万円。落札価格は、820万円でした。
そしてもう1枚はパリの風景画。パリを描いた日本の画家は?と聞かれれば、荻須高徳の名前は3番目以内に出てくるでしょう。通算して半世紀以上、パリで画家として生きた荻須60代の円熟味が感じられる風景画です。
灰色と黄土色の2色が際立つ渋めの建物の存在感がどっしり。オ・ボン・ヴィヴァンというレストランを描いているというわりには、食べ物も人々も登場せず、質実剛健な趣です。木には葉っぱが1枚もなく、空も寒そうな灰色なので冬なのでしょうか。メランコリックな思い出に浸るのに良さそうな作品です。
エスティメイトは、500万円から800万円。落札価格は、820万円でした。
そして、今回のオークションで最高額で落札されたのは、大橋宗道(おおはしそうどう)作の純金茶釜/純銀風炉で、1750万円でした。エスティメートの1000万円から1500万円を大きく上回っての落札です。
大橋宗道とはどのような人物か少し調べてみると、鍛金(たんきん)工事の祖師で、帝室技芸員(現在の人間国宝の前身)を務めた六代 平宗幸(ひらたそうこう)の技を継承し、平田派から「宗道」の号を授かった人物とのこと(※東京書芸館のHP参照:https://shogeikan.co.jp/)。
純金仏を得意とするそうで、確かに純金の茶釜の部分は、仏様の螺髪(仏像の丸まった髪の毛)を無数に並べたような突起が見事なリズム感でデザインされています。気になる茶釜部分の金の総重量は1799グラム。現在金の時価は1グラム10,665円(2024年2月1日時点)ですから単純に計算して約1918万円となります。ちなみに風炉の部分は純銀で総重量2452グラム。銀の時価は1グラム122円(2024年2月1日時点)ですので約29万円となります。そうすると、この作品は原材料費だけで1947万円ということになります。ハンマープライスの落札額は1750万円でしたが、落札手数料も含めると2012万5千円となります。落札価格のほうが作品の原材料費を微妙に上回っていますが……。落札した方は、この作品の素材の価値に惹かれたのでしょうかそれとも大橋宗道のファンで作品そのものに惚れたのでしょうか。ちょっと下世話な話になってしまいましたが、金の価格が上昇し続けている今日この頃ですので少し深掘りしてみました。
今回のオークションでの落札額合計は1億1,304万円。今村紫紅、山本岳人、高山辰雄等の逸品が落札予想価格を大幅に上回り、落札率:96.5%でした。荻須高徳、モーリス・ユトリロ、モーリス・ド・ヴラマンクなどエコール・ド・パリの作品も強い人気をみせたという傾向が見られて興味深かったです。※金額には落札手数料(消費税を除く)が含まれています。
近代美術に強いシンワオークションがこれからどのようにファンを増やして近代美術の価値を高めていくかにこれからも注目していきたいと思います。
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