岩手県にある中尊寺金色堂は、2011年にユネスコの世界遺産に登録された、日本の代表的な仏教建築です。900年前に建てられたにもかかわらず、金色堂で使用されている構造と部材のほぼ9割が未だ現存しているというのですから驚きです。建物自体も国宝なのですが、堂内の仏像や工芸品も多数国宝に指定されています。
奥州藤原氏の祖である藤原清衡(ふじわらのきよひら)が贅を尽くして建立したこの黄金づくしの建物は、もしかしたらマルコ・ポーロが『東方見聞録』に書いた黄金の宮殿かもしれない!そう考えると俄然興奮してきました。
それにしてもなぜ藤原氏はこのようにきらびやかな仏教建築を建てたのでしょうか?まずは戦乱が続き、多くの人々を失ったので、敵味方関係なく弔いたいという思いがあったようです。また、せちがらい現世に、ある意味絶望したので、極楽浄土を夢見て建立したという説もあるそうです。
そして、この「平安時代の極楽浄土」をリアル感満点に体験できるのが東京国立博物館の建立900年 特別展「中尊寺金色堂」です。
何しろ入口が、中尊寺金色堂の原寸大8K映像になっているので、あたかも今実際建物の前に立っていて、これから入ろうとしている気持になれます。
そして足を踏み入れると、そこは絢爛豪華な仏様たちの世界。実は、現地の金色堂では、建物を保護するために設けられたコンクリート製の覆屋の中でガラス越しに拝観することになるので、今回は 間近で拝見できる貴重な機会です。
順路は特にないので、この極楽浄土に遊ぶ不死鳥にでもなった気分で自由に巡ってみると楽しいかもしれません。私は最初に、中央におわします、国宝「阿弥陀如来坐像」に近づいてみました。ふくよかで優しいお顔です。
特に横顔がステキだと思いました。
この「阿弥陀如来坐像」の造りは当時としてはアバンギャルドだったようです。
例えば、体と衣の材料が別になっている点。このように裸の形に衣をかける手法は、鎌倉時代以降に流行する造りということですので、かなり時代を先取りしています。国宝「阿弥陀如来坐像」平安時代(中尊寺金色院蔵)
また、螺髪(仏像の丸まった髪の毛)も後頭部が鎌倉時代以降のスタイルとのこと!
確かに、後頭部の真ん中辺の螺髪が、垂直に並んでいるのではなくハの字に広がっています。阿弥陀如来さまのヘアスタイルにも流行があったとは……!
そして何と言っても目を奪われたのは、躍動感あふれるこちらのお二人。
私はなぜか、以前やっていたエアロビクスを思い出しました(笑)。
それにしても、キュッとくびれたウエストといい、プリッとしたお尻といい、プロポーション抜群です。
また、中尊寺金色堂の一番重要なポイントを再認識させてくれるのが、藤原清衡(きよひら)の遺体が収められた、こちらの木の棺です。金色堂内には3つの須弥壇(しゅみだん)が設けられており、それぞれの内部に置かれた棺にいまも遺体が納められているのです。遺体を安置する「墓所」を兼ねる「阿弥陀堂」というのは、他に類を見ないとのことですので、奥州藤原一族の個性が偲ばれます。
元来金色堂の柱の上部を横にわたる長押(なげし)に懸けられていたという、金銅迦陵頻伽文華鬘(こんどうかりょうびんがもんけまん)もおしゃれです。極楽浄土に住むという人頭鳥身(じんとうちょうしん)の迦陵頻伽(かりょうびんが)をあらわし、極楽浄土に咲くという宝相華唐草(ほうそうげからくさ)を透かし彫りにしたゴージャスなデザインですので、建物の華麗な演出に一役買ったのでしょう。
平安時代当時であれば、藤原氏らごく限られた人々しか入れなかったであろう金色堂を体験できる現代の私たちはラッキーだなとつくづく感じました。
同時に、平安時代と比較して、現代の方が平和とは言い切れない状況ではありますが、願わくば極楽浄土よりも今ここを肯定できる世界を作っていきたいものだという思いも湧いてきました。
【展覧会基本情報】
タイトル:建立900年特別展「中尊寺金色堂」
会期:2024年1月23日〜4月14日
会場:東京国立博物館本館特別5室
住所:東京都台東区上野13-9
電話番号:050-5541-8600
開館時間:9:30〜17:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月(2月12日、3月25日は開館)、2月13日
料金:一般1600円/大学生900円/高校生600円