アーカイヴ「時評 グーグル・アートプロジェクトに 日本初参加」秋丸知貴評

グーグル・アートプロジェクト
(写真提供・Google)

 

2011年2月2日に、インターネット検索大手のグーグル社は、世界中のミュージアム及びその所蔵品をオンラインで公開する無料サービス「グーグル・アートプロジェクト」を始動した。

これは、既にグーグル・マップで用いられている現場パノラマ写真によるストリートヴュー機能を屋内にも適用し、館内を画面上で移動しつつ、気に入った作品を解説付きの高解像度写真で鑑賞できるようにするものであった。第一弾として、米メトロポリタン美術館や伊ウフィツィ美術館等、欧米の17館・約1000点が公開された。

2012年4月4日には、第二弾として、アジア、オセアニア、中東、南米等にも対象館が拡大され、151館・30000点以上が公開された。日本からは、足立美術館、大原美術館、国立西洋美術館、サントリー美術館、東京国立博物館、ブリヂストン美術館の六館が参加した。これにより、各館が所蔵する国宝16点・重要文化財51点を含む、美術作品567点がネット上で閲覧可能になった。また、東京国立博物館と足立美術館はストリート(ミュージアム)ヴュー機能にも対応し、館内(足立美術館は庭園も)のヴァーチャル廻覧も可能である。

さらに、同プロジェクトでは、参加館によっては一点ずつ、70億画素の超高解像度写真も公開している。国内では、東京国立博物館の狩野秀頼筆《観楓図屏風》(室町〜安土桃山時代)と、足立美術館の横山大観作《紅葉》(1931年)がその対象となっており、ズーム機能により肉眼では不可能な細部まで確認できる。そして、同プロジェクトでは、気に入った作品を個人的に編集する「マイギャラリー」機能や、同じ画家・年代・種類の作品を検索する機能の充実も図られている。

これまでも国内では、日本美術の画像アーカイヴ事業として、「文化遺産オンライン」や「e国宝」等の取組みがあった。しかし、国内美術館の所蔵作品が世界共通規格のプラットフォームで公開されるのは、今回のグーグル・アートプロジェクトが初めてである。

このように、自宅に居ながらにして世界中の美術作品を鑑賞できることは、まず素晴らしいことである。また、日本の文化や美術作品が、広く世界中の人々に情報発信されることも望ましい。デジタル化は時代の趨勢であり、文化財や美術作品が人類全体の共有財産として未来の世代に継承されることは高く評価すべきである。

しかし、こうしたデジタル技術は、あくまでも実物鑑賞とは異質な別物であり、その補助に過ぎないこともはっきりと認識すべきだろう。例えば、どれほど精巧な画像であっても、サイズが異なれば作品全体の印象が異なり、どれほど高解像度であっても、ディスプレイ上では表面の微細なマティエールは再現されないことは、誰もが一般に経験する事実である。やはり、芸術作品の鑑賞は、実物に触れることこそを第一としたい。

 

※秋丸知貴「時評 グーグル・アートプロジェクトに日本初参加」『日本美術新聞』2012年7・8月号、2012年6月、日本美術新聞社、12頁より転載。

 

 

 

アバター画像

美術評論家・美学者・美術史家・キュレーター。1997年多摩美術大学美術学部芸術学科卒業、1998年インターメディウム研究所アートセオリー専攻修了、2001年大阪大学大学院文学研究科文化表現論専攻美学文芸学専修修士課程修了、2009年京都芸術大学大学院芸術研究科美術史専攻博士課程単位取得満期退学、2012年京都芸術大学より博士学位(学術)授与。2013年に博士論文『ポール・セザンヌと蒸気鉄道――近代技術による視覚の変容』(晃洋書房)を出版し、2014年に同書で比較文明学会研究奨励賞(伊東俊太郎賞)受賞。2010年4月から2012年3月まで京都大学こころの未来研究センターで連携研究員として連携研究プロジェクト「近代技術的環境における心性の変容の図像解釈学的研究」の研究代表を務める。主なキュレーションに、現代京都藝苑2015「悲とアニマ——モノ学・感覚価値研究会」展(会場:北野天満宮、会期:2015年3月7日〜2015年3月14日)、現代京都藝苑2015「素材と知覚——『もの派』の根源を求めて」展(第1会場:遊狐草舎、第2会場:Impact Hub Kyoto〔虚白院 内〕、会期:2015年3月7日〜2015年3月22日)、現代京都藝苑2021「悲とアニマⅡ~いのちの帰趨~」展(第1会場:両足院〔建仁寺塔頭〕、第2会場:The Terminal KYOTO、会期:2021年11月19日~2021年11月28日)、「藤井湧泉——龍花春早 猫虎懶眠」展(第1会場:高台寺、第2会場:圓徳院、第3会場:掌美術館、会期:2022年3月3日~2022年5月6日)等。2023年に高木慶子・秋丸知貴『グリーフケア・スピリチュアルケアに携わる人達へ』(クリエイツかもがわ・2023年)出版。 2010年4月-2012年3月: 京都大学こころの未来研究センター連携研究員 2011年4月-2013年3月: 京都大学地域研究統合情報センター共同研究員 2011年4月-2016年3月: 京都大学こころの未来研究センター共同研究員 2016年4月-: 滋賀医科大学非常勤講師 2017年4月-2024年3月: 上智大学グリーフケア研究所非常勤講師 2020年4月-2023年3月: 上智大学グリーフケア研究所特別研究員 2021年4月-2024年3月: 京都ノートルダム女子大学非常勤講師 2022年4月-: 京都芸術大学非常勤講師