テート美術館展で「光」を「アート」として体験☀️「光」の意外な姿に知覚が揺さぶられる!

形はないけれど明るい現象として目に見える「光」。また、「形」や「色」を私たちに見えるようにしてくれる「光」。視覚で楽しむアートは、この「光」なくして存在することはできないと言えるでしょう。
私たちが生きるためにも、アートを楽しむためにも必要不可欠なこの「光」という現象を、芸術家たちはどのように表現してきたのでしょうか?その過去約200年間の軌跡を、傑出した120点の作品とともに体感できるのが「テート美術館展 光 ― ターナー、印象派から現代へ」です。

まずはテート美術館の代名詞と言える英国の巨匠で「光の画家」と呼ばれるターナーの作品からスタートしましょう。

まるで太陽が額の中に入っているかのようにまぶしい絵!

ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー「光と色彩(ゲーテの理論)ー大洪水の翌朝ー創世記を書くモーセ」1843年出品 油彩/カンヴァス 78.7X78.7 cm

オレンジ色の大気が丸い球体のように渦巻き、上方に人影が浮かんでいます。
絵のタイトルは「光と色彩(ゲーテの理論)ー大洪水の翌朝ー創世記を書くモーセ」なので、おそらく 浮かんでいる人 影はモーセです。
球体の下の方をよくよく見ると、無数の顔が描いてあって一瞬ぞっとするのですが、みな意外と穏やかな顔をしていて微笑んでいる人もいます。
プラチナゴールドの光に満ちた この画面は、 ターナーが大洪水の後の神と人間との契約を祝福するものとして描いたものだそうです。
ちなみに タイトルにある「ゲーテの理論」とは、「色彩が心を刺激し 感情を動かす力を持つ」という理論。 ファンタジックなまぶしい色合いから、おめでたい空気感がしっかりと伝わってきたので、 この「色が感情を動かす」という「ゲーテ 理論」、なかなか良い線行っているのではないでしょうか(なぜ 上から目線?!笑)。

この絵をターナーが描いてから約160年後に「黄色 vs 紫」という作品を制作したオラファー・エリアソンも、「ゲーテ理論」に影響を受けているとのこと。オラファーは私たちと同じ時代に生きる芸術家ですから、ターナーの時代よりも光に関する科学的知識がずっと進んでいると考えると、「ゲーテ理論」の影響力恐るべしです。ただ、オラファーの表現方法は、絵画ではなくキネティックインスタレーションでした。

オラファー・エリアソン「黄色 vs 紫」2003年 ガラス、スチール・ケーブル、モーター、フラッドライト、三脚 75×75×0.4 cm. 6.5 kg

「光」を「描く」のではなく、実物の「光」と反射を材料として制作しているところに現代性を感じます。自分がこの空間に入っていくことで、光や影と戯れ、ダンスしているような体感を得られました。

「光」と反射を活用した作品としては、 草間彌生さんの「去ってゆく冬」からも印象的な体験が得られました。 立方体の全ての面が鏡になっているので、周囲の色や形、作品や観客などを映し込んで七変化する作品です。「光」が物体に当たり跳ね返ることで起きる現象である反射をフル活用して、私たちまで作品の一部にしてしまう巧妙な作品。

草間彌生「去ってゆく冬」2005 年 鏡、ガラス180×80.5X80.5 cm

自分では気づかずに、作品の違う面に映り込んでいて、知らないうちに写真を撮られていてびっくり!意識と無意識、夢中になっている姿など、意外な人の一面をとらえながら、「君は気づくかな?」とほくそ笑んでいるようなキャラクターの作品でした。

草間彌生「去ってゆく冬」2005年 鏡、ガラス180×80.5X80.5 cm 撮影:小川 敦生

色同士の関係性が生み出す視覚的効果を探求した英国の画家ブリジット・ライリーの作品は、また違ったアプローチから「光」を表現しています。私たちが普通に生活していて感じる光をそのまま表現しているというよりは、光を分解しているみたいです。ニュートンが、太陽光線をプリズムに通すことで七色に分解してみせた時から、人々は光の中に様々な色を見つけることができるようになったのではないでしょうか。

絵画表現における光と色の関係を問い続けてきたライリーは、様々な色の四角形や線を規則的に配置することで鑑賞者に錯覚をもたらす作品の数々を生み出しています。

ブリジット・ライリー「ナタラージャ」 1993年 油彩/カンヴァス 165.1×227.7 cm

1981年に旅したインドからインスピレーションを得たと思われるこの作品のタイトルは「ナタラージャ」。彼女はインドでこの舞踏の王「ナタラージャ」の踊りを見たのでしょうか。インドのきらめく陽光に混じり合うエキゾチックな音楽、複数の腕を持って踊る「ナタラージャ」の動きが画面から溢れ出てくるようです。
そして、ライリーの絵から溢れ出てきた「光」の粒子がそのまま空中を浮遊しているような作品がこちらです。 ペー・ホワイト「ぶら下がったかけら」。

ペー・ホワイト「ぶら下がったかけら」2004年 紙、糸 サイズ可変

森に差し込む木漏れ日と、鳥たちの声を感じました。

そして、光と影が織り成す地球の中心にたどり着いたような気分で立ち尽くしたのがオラファー・エリアソンの「星くずの素粒子」です。そこに居るだけで誰もが絵になる空間!

オラファー・エリアソン 「星くずの素粒子」 2014年 ステンレス・スチール、半透明のミラー、ワイヤー、モーター、スポットライト
オラファー・エリアソン 「星くずの素粒子」 2014年 ステンレス・スチール、半透明のミラー、ワイヤー、モーター、スポットライト

興奮冷めやらぬ 状態で国立新美術館を出ると、そこで浴びる陽光や、家でつける電気の光が、いつもとは違うパートナーのように思えてきました。
光をアートとして体感することで、自分の中に「知覚変動」を起こしてみてはいかがでしょうか。

【展覧会基本情報】
タイトル:テート美術館展 光 — ターナー、印象派から現代へ

会期:2023年7月12日〜10月2日
会場:国立新美術館 企画展示室2E
住所:東京都港区六本木7-22−2
電話番号:050-5541-8600
開館時間:10:00〜18:00(金土〜20:00) ※入場は閉館の30分前まで
休館日:火
料金:一般 2200円 / 大学生 1400円 / 高校生1000円

【参考文献】 「テート美術館展 光 — ターナー、印象派から現代へ」公式図録

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評者: (KIKUCHI Maiko)

アーティストと交流しながら美術に親しみ、作品の鑑賞・購入を促進する企画をプロデュースするパトロンプロジェクト代表。東京大学文学部社会学科修了。
英国ウォーリック大学「映画論」・「アートマネジメント」両修士課程修了。
2014年からパトロンプロジェクトにて展覧会やイベントを企画。2015年より雑誌やweb媒体にて美術記事を連載・執筆。
特に、若手アーティストのネームバリューや作品の価値を上げるような記事の執筆に力を入れている。

主な執筆に小学館『和樂web』(2021~)、『月刊美術』「東京ワンデイアートトリップ」連載(2019~2021)、『国際商業』「アート×ビジネスの交差点」連載(2019~)、美術出版社のアートサイト 「bitecho」(2016)、『男子専科web』(2016~)、など。

主なキュレーションにパークホテル東京の「冬の祝祭-川上和歌子展」(2015~2016)、「TELEPORT PAINTINGS-門田光雅展」(2018~2019)、耀画廊『ホッとする!一緒に居たいアートたち』展(2016)など。」

https://patronproject.jimdofree.com/

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