民藝の発見と使い方の創造の展開「民藝 MINGEIー美は暮らしのなかにある」大阪中之島美術館 三木学評

民藝の発見と使い方の創造の展開

「民藝 MINGEIー美は暮らしのなかにある」
会期:2023年7月8日(土)~9月18日(月・祝)
会場:大阪中之島美術館 4階展示室

2023年7月8日から大阪中之島美術館で「民藝 MINGEI 美は暮らしのなかにある」展が開催されている。

2021年に東京国立近代美術館で開催された、柳宗悦没後60年記念展「民藝の100年」展を含めて民藝に関する展覧会が続く。筆者は、東京国立近代美術館の展覧会を見ていないが、また民藝展かと思ったのも事実だ。今回は、大阪中之島美術館を皮切りとして、いわき市立美術館、東広島市立美術館、世田谷美術館、富山県美術館、名古屋市美術館、福岡市博物館と7館を巡回し、2025年4月6日まで、約2年間は続くというから、しばらく民藝のブームは続きそうだ。

本展を企画した森谷美保(美術史家)によると、「民藝」は、提唱者である柳宗悦の人生や思想と不可分なので、柳を中心に語られることが多かったという。民藝は、今では自明のものとなっているが、提唱した柳宗悦の思想運動といってもよい。1926年に『日本民藝美術館設立趣意書』を発表し、河井寛次郎、濱田庄司らと運動を始めて以来、そろそろ100年になる。そこで「民衆的工藝」を民藝と略したわけだが、柳が定義付けなければ、単なるフォークアートとしてしか意識化されなかったのではないか。

1941年生活展の再現展示

その上で、本展の切り口は、柳という個性と切り離し、暮らしに息づく民藝を、それぞれの生活の中で想像できるように提示することと言えるだろう。とはいえ、それ自体が柳の思想の範疇にある。というのも柳は1941年に、日本民藝館で「生活展」を開催し、今日でいうモデルルーム、テーブルコーディネーションを展示し、使用例を見せているからだ。本展の目玉であり、狙いとして第一章では「生活展」のモデルルームの再現展示が行われている。1941年といえば、日中戦争はすでに泥沼化し、その年の暮れの12月8日には、真珠湾攻撃をして太平洋戦争が勃発するので、そのような最中で現在のライフスタイル提案ができたことに驚く。

柳と民藝の面白さは、ともすれば社会主義と取られかねない思想を、うまく国民的価値へと融合させていることかもしれない。柳は、工藝を民藝(民衆的工藝)と美術的工藝(美藝)に分け、さらに民藝を協団的(創造的工藝)、資本的(機械的工藝)に分けている。美藝は個人的(個性的工藝)、貴族的(技巧的工藝)だ。

柳の理屈で言えば、工藝は「実用品の世界」であり、この点で(純粋)美術ではない。だから、工藝美とは、「用に即する美」と指摘して、従来の美の価値を転倒させているのだ。つまり、美しいから使われるのではなく、使われるものが美しいのだ、ということだ。柳は、工藝の本質は、美に傾いた美術的工藝ではなく、民衆的工藝にあり、なかでも、「資本的制度的機械品」は質が弱く、協団的作品に純工藝の意義が現れていると述べている。

この考え方は、明治以降の美術教育と全く反対をなす。日本にとっては、芸術において絵画であろうが、彫刻であろうが、工芸の一種であり、ヒエラルキーはなかった。それが明治時代、西洋のアカデミーとサロンのシステムが導入され、絵画、彫刻、美術工芸は高等教育機関で教えるもの、それ以外は教えるに足らない稚拙なものとして切り分けた。なかでも、民衆的工藝はもっとも価値の低いものと位置づけられていた。それらは「下手もの」と言われた。それを民衆の生活の中で受け継がれ、使用され続けたことによる、洗練された美があるとして上下逆転させたのが柳であるといってよい。それはコペルニクス的転回だった。

課題があるとすれば、それは教育機関で教育できないし、美術館で展示されない、民衆の生活の中で受け継がれているもの、ということだろう。だから柳も従来の美術館とは別の民藝館の創立を目指した。そして、見落とされがちな民芸品は、その良し悪しを見分けるセンスが要求される。そのセンスの共有が難しい。また、柳が民藝を「発見」したころ、すでに工業化によって、失われていく民芸品も多数あった。それを高等教育ではなくどのように継承するのか、また、柳と共に運動に加わった河井寛次郎や濱田正司などは、工芸作家であるため、柳が批判する美術的工藝になりかねない。

柳は影響を受けたラスキンやウィリアム・モリスのアーツ&クラフツ運動と、工業化による品質の劣化、手作業の衰退という社会状況を共有しているが、その上で、モリスのような趣味の良いデザイナーではない、無名の作家、作品の中に美を見出している点が、より進んでいるともいえるし、困難や矛盾を抱えているともいえる。機械的な方向性に向かえば、バウハウスに至るだろう。民藝運動は匿名性と手作業に向かった一つの極点といもいえる。

さらに、無名の民衆のつくった道具に価値を見出すことは、当時の世相からしたら、社会主義的であると誤解を生みかねないのも課題だっただろう。柳は民藝の美の特質の重要な要素として「国民性」を挙げており、戦時の思想統制をうまく潜り抜けていることも重要だ。

しかし、もっと興味深いのは柳ならではのセンスを、多くの人々が共有してきた、という事実だろう。地域や時代が異なるさまざまな民芸品を、統一感をもって使いこなすのは難しい。だからこそ、生活展のようなモデルルームが必要だったともいえる。

「衣」を装う

第二章では「暮らしのなかの民藝―美しいデザイン」として、衣食住に分類されて柳が選んだ品々が集められている。しかし、それらは必ずしも「民藝」とは言い難い。日本やアジアに留まらない。古くは縄文土器から昭和に至るまで、朝鮮、台湾、中国といったアジアを超えて欧米などの日用品もそろっている。それを「民藝」とくくるのは、さすがに力技だと思うが、柳の卓抜したセンスで貫かれている。もちろん、それらは手仕事ということで共通していると思うが、それらを組み合わせた暮らしのなかの使用方法となると、センスとしかいいようがない。特に、想定されてない使い方もしているところもポイントだろう。その意味では、柳はある意味で文脈を切り離して、現在の生活の中で使うというモダニストであったともいえる。

気候風土が育んだ暮らし―沖縄

そのような物の文脈を切り離す一方、沖縄に惹かれ、その気候風土が育んだ地方的文化の一つとして民芸品を調査、収集を行っている。今回は、トピック展示として、沖縄で集めた品々を、沖縄の使われた方に沿って展示されていた。このような展示はむしろ国立民族学博物館でなされるような生活空間の再現展示に相当するものだろう。そのような本来の使われ方と、民芸品を現在の生活に沿って新たに使い方を創造するというのが、柳の創始した「民藝」の最大の特徴といってよいだろう。

第三章では「ひろがる民藝-これまでとこれから」として、柳没後の世界に広がる民藝運動を追っている。特に、濱田庄司や芹沢銈介、外村吉之介は、柳が沖縄で見たような気候風土、生活に育まれた世界の民芸品を集め『世界の民藝』という書籍にして1972年に刊行している。これもまた、民族学的なアプローチではなく、現在の生活の中の新たな使い方が重要になる。

Mixed MINGEI Style by MOGI

そこで最後の展示では、現在の民藝ブームの牽引者でもある、元BEAMSのバイヤーで、東京・高円寺のMOGI Folk Artディレクターのテリー・エリスと北村恵子が、世界中の古今東西の工芸品、民芸品を集めて、現在の生活の中でどのように使うことができるか、インスタレーション展示を行っている。これが、柳が1941年に日本民藝館で行った「生活展」の現代版と考えてもいいだろう。

民藝の産地-作り手といま

さらに、民藝運動によって注目された、小鹿田焼(大分)、丹波布(兵庫)、鳥越竹細工(岩手)、八尾和紙(富山)、倉敷ガラス(岡山)といった5か所の日本の工芸品と、その現在の生産の様子が映像でまとめられている。これらは柳が発見したことによって、技術が継承された側面も大きい。丹波布は、途絶えていた技術を、柳に感化された染織家の上村六郎によって復興されている。八尾和紙も、柳と芹沢銈介との出会いにより、今日まで続く型染カレンダーのようなヒット商品を生み出している。

柳が当時発見しなければそのまま消えていた各地に伝わる匿名の工芸品が、柳の美意識によって見いだされ、新たな伝統として継承されているところがよくわかる。それは、すでに当初に柳が考えていた「民藝」なのかどうかはわからないが、突き詰めれば、各地に残る手仕事を、現在の生活の中でも使い続けることに意義があるということになるだろう。

それはもはや気候風土に根ざした文化の中にある本来の使い方ではないかもしれないが、現在の消費社会においてできるだけ手仕事のものを使うための、使い方の手本であり、「使用道」といったものかもしれない。それは使い捨てによって資源が枯渇し、環境破壊が進む今日の世界においても、アクチュアルな提案になっているといえる。一番最後の展示ブースと思いきや、ミュージアムショップで各地の民芸品が売られているのが印象的であったが、使う楽しみという意味で言えば、本来の在り方なのかもしれない。

三木 学
評者: (MIKI Manabu)

文筆家、編集者、色彩研究者、美術評論家、ソフトウェアプランナーほか。
独自のイメージ研究を基に、現代アート・建築・写真・色彩・音楽などのジャンル、書籍・空間・ソフトウェアなどメディアを横断した著述・編集を行なっている。
共編著に『大大阪モダン建築』(2007)『フランスの色景』(2014)、『新・大阪モダン建築』(2019、すべて青幻舎)、『キュラトリアル・ターン』(昭和堂、2020)など。展示・キュレーションに「アーティストの虹─色景」『あいちトリエンナーレ2016』(愛知県美術館、2016)、「ニュー・ファンタスマゴリア」(京都芸術センター、2017)など。ソフトウェア企画に、『Feelimage Analyzer』(ビバコンピュータ株式会社、マイクロソフト・イノベーションアワード2008、IPAソフトウェア・プロダクト・オブ・ザ・イヤー2009受賞)、『PhotoMusic』(クラウド・テン株式会社)、『mupic』(株式会社ディーバ)など。
美術評論家連盟会員、日本色彩学会会員、大阪府万博記念公園運営審議委員。

Manabu Miki is a writer, editor, researcher, and software planner. Through his unique research into image and colour, he has worked in writing and editing within and across genres such as contemporary art, architecture, photography and music, while creating exhibitions and developing software.
His co-edited books include ”Dai-Osaka Modern Architecture ”(2007, Seigensha), ”Colorscape de France”(2014, Seigensha), ”Modern Architecture in Osaka 1945-1973” (2019, Seigensha) and ”Reimaging Curation” (2020, Showado). His recent exhibitions and curatorial projects include “A Rainbow of Artists: The Aichi Triennale Colorscape”, Aichi Triennale 2016 (Aichi Prefectural Museum of Art, 2016) and “New Phantasmagoria” (Kyoto Art Center, 2017). His software projects include ”Feelimage Analyzer ”(VIVA Computer Inc., Microsoft Innovation Award 2008, IPA Software Product of the Year 2009), ”PhotoMusic ”(Cloud10 Corporation), and ”mupic” (DIVA Co., Ltd.).
http://geishikiken.info/

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