レストランガイド「ゴ・エ・ミヨ」は卓越した料理がアートであることを教えてくれる

「ゴ・エ・ミヨ(Gault & Millau)」は、「ミシュラン」と並び称されるフランスの本格レストランガイドですが、 日本ではまだあまり知られていないかもしれません。フランスで創刊されてから50年以上経っていますが、 日本版は『ゴ・エ・ミヨ 2023』が第7号です。このユニークなネーミングは、1972 年にこの本を刊行した2人のフランス人ジャーナリスト、 アンリ・ゴ(Gault) とクリスチャン・ミヨ (Millau) から来ています。

かくいう筆者も、2023年版からはじめて「ゴ・エ・ミヨ」を手にしたのですが、何と言っても選ばれているシェフ、生産者、職人たちが魅力的!しばらくこのガイドブックをバイブルにして様々なレストランをめぐりたいと思いました。
もちろん、高評価獲得店は「ミシュラン」と重なっているところもあるのですが、「新しい才能の発見」に力を入れているので、 気鋭のシェフも大胆に選ばれています。 そして、特に惹かれたのは、シェフ、生産者、職人たちのフィロソフィーやクリエイティビティの根源が物語として浮かび上がっていることです。卓越した料理がアートであることを確信させてくれる一冊!

2023年版では、ゴ・エ・ミヨの精神ともいえる「新しい才能の発見」や「その土地ごとの食文化 “テロワール”」に重点を置いて全国から501軒のお店が紹介されています。そして、注目を集める「今年のシェフ賞」の他、ソムリエやサービス、生産者など、9つの賞、12名の受賞者インタビューも掲載されていますので、 その中から特に「 アート」を感じたパーツをご紹介します。

<今年のシェフ賞> 神田 裕行氏(東京、日本料理かんだ、日本料理)のアート

神田氏にアートを感じるのは、料理を支える重要な要素として「感性」を挙げているところです。感性を磨くにはそういう空間に身を置くことが大事だということで、新しい店舗の設計を現代美術家の杉本博司さんに依頼したそうです。
神田氏は、杉本氏の設計に古き良き、わびさびの佇まいを感じると言います。石の配置、木の柵、釘の位置、全てが清潔感と日本人の謙虚さに裏打ちされていて、それが神田氏が求める「日本料理の世界観」とぴったり合致しているそうです。
そのような空間があると、神田氏もスタッフも、常時日本的な感性を喚起できて、それが料理や自分たちの動きに反映されるとのこと。「意識を高めることによって表現できる世界がある」という言葉がかっこいい!
感性を全開にしてアートの表現を取り込み、自分たちの感性を加えた新しい表現として、料理や空間にアウトプットしているのですね。
私たちはそのアートを食べ、それを創る神田氏たちの総合芸術に体丸ごと耽溺することになるのです。

<明日のグランシェフ賞>ダニエル カルバート氏(東京、セザン、フランス料理)のアート

ダニエル カルバート氏(写真左)

カルバート氏の料理は、鮮やかな色の対比、繊細な味の積み重ねとクラシカルな中に現代的な軽やかさを感じるソースに定評があるとのこと。これを聞いただけで、彼の料理は、視覚的に抽象絵画のような魅力があることがわかります。また味も重層的で、紙芝居のように、次から次へと新しいストーリー展開があり、相反するコンセプトも良い感じで同居していると想像できます。きっと一口一口が現代アートなのでしょう。 定番の皿、本日の皿、季節の皿以外にも「ゲストのお気に入りの皿」、「ひらめいた皿」などがあるというのですから、もう好奇心が刺激されまくり。「足を運べば、運んだだけベストチョイスのオンパレード」があるとのことですので、何度も訪れて見なければ。。。財布にとっては危険な存在です(笑)

<期待の若手シェフ賞>児玉 智也氏(東京、アシッド ブリアンツァ、イノベーティブ)のアート

児玉 智也氏(写真左)

児玉さんの料理は、「ほぼすべてのさらに発酵による酸が入っている」というところに、既成概念を打ち破ってくれるアートを感じます。 一皿に複雑な要素を盛り込みながら、おいしさに着地できるのは、児玉氏が修業先で教え込まれた「食材とゴールを決め、様々な食材でつなげる」と言う基本に忠実であるからであろうとのこと。 意表をついたあとは、おいしさで安心させてくれる優しいアートですね。

<ベストパティシエ賞> 延命寺 美也氏(東京、エンメ、フランス料理)のアート

延命寺 美也氏(写真左)

延命寺氏は、これまでシェフの料理に使われていた食材をパティシエのデザートにも組み込み、料理とデザートがさらに融合するコースを構成しようとしているとのこと。フォアグラをデザートに用いるなど、シェフとパティシエの間にある食材選択の壁を取り払い、自由な流れを作ろうとしているところに、アバンギャルドなアートスピリットを感じます。
ラッキーなことに、授賞式では、延命寺氏が作ったデザート「パルファンショコラ」を試食することができました。
見た目は、地面からにょきっと生えてきたチョコレートの卵がパカッと2つに割れて、その中にもチョコレートのムースが入っているというエキゾチックな佇まい。その上には大きなビーツのチップが載っていて華やか。春に、フキノトウのように生えてきた新種のスイーツといったイメージでしょうか。濃厚なチョコレートテリーヌと爽やかなバヌアツチョコレートムースのコンビネーションが絶妙なバランスを保っていて美味しい。トンカ豆のアイスクリームや、ほぐしてちらしてある柑橘との相性も抜群です。桜を使っていないのに、桜の香りがするところが、マジカルなアート!

<ベストソムリエ賞> 若林 英司氏(東京、エスキス、フランス料理)のアート

トップソムリエの一人である若林氏の次の言葉にクリエーションの真髄を感じました。

「マリアージュにはシェフとソムリエとの関係性が出てくると思います。どうしてこの一皿が生まれたのかをシェフに聞き、料理のどこにワインを合わせると輪郭がはっきりするのか、フィロソフィーを理解し、方向性を共有しなければ、美味しくはできても感動させるところまではいけません」

まずは、輪郭という言葉が印象的。絵画においても輪郭を描くか描かないか、はっきりするのかぼかすのかで作品の出で立ちはずいぶん変わります。若林氏は、それぞれの料理の大切なエレメントに照準を合わせてチューニングすることで、味の輪郭をはっきりさせるという美学をお持ちなのですね。
「方向性を共有しなければ、美味しくはできても感動させるところまではいけない」という言葉には深みを感じます。 美味しくある事は、プロとして料理とワインを提供するからには当たり前。感動させる領域まで持っていくことができるかどうかが、アートに昇華させることができるかどうかの勝負なのだろうと想像します。

実は、先ほど登場した延命寺氏のデザートに、若林氏がマリアージュしたワインも一緒に楽しむことができました。そのワインはハンガリーの「カーナー・ガボー/ オトン#1」という赤ワイン。

アーシー(土臭い)な力強さが魅力で、地面からにょきっと生えてきたチョコレートのデザートと絶妙な相性。「このマリアージュは春の大地の味がします」と伝えたら、最高の笑顔を見せてくれました。

【9つの賞、12名の受賞者一覧はこちら】

【書籍発売概要】
【 発売日 】2023年3月15日
【 版 型 】A5変形判
【 I S B N 】978-4-344-95454-0
【 発 売 】株式会社 幻冬舎
【 書 名 】『ゴ・エ・ミヨ 2023』
【 定 価 】3,000円(税込)
【 ペ ー ジ 数 】320ページ
【 発 行 】株式会社ONODERA GROUP
【掲載店舗】501店
【掲載エリア】全47都道府県
【『ゴ・エ・ミヨ 2023』 初掲載エリア】
東北(青森県、秋田県、岩手県、宮城県、山形県、福島県)

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評者: (KIKUCHI Maiko)

アーティストと交流しながら美術に親しみ、作品の鑑賞・購入を促進する企画をプロデュースするパトロンプロジェクト代表。東京大学文学部社会学科修了。
英国ウォーリック大学「映画論」・「アートマネジメント」両修士課程修了。
2014年からパトロンプロジェクトにて展覧会やイベントを企画。2015年より雑誌やweb媒体にて美術記事を連載・執筆。
特に、若手アーティストのネームバリューや作品の価値を上げるような記事の執筆に力を入れている。

主な執筆に小学館『和樂web』(2021~)、『月刊美術』「東京ワンデイアートトリップ」連載(2019~2021)、『国際商業』「アート×ビジネスの交差点」連載(2019~)、美術出版社のアートサイト 「bitecho」(2016)、『男子専科web』(2016~)、など。

主なキュレーションにパークホテル東京の「冬の祝祭-川上和歌子展」(2015~2016)、「TELEPORT PAINTINGS-門田光雅展」(2018~2019)、耀画廊『ホッとする!一緒に居たいアートたち』展(2016)など。」

https://patronproject.jimdofree.com/