竹内栖鳳の《班猫》が独自の宇宙を創っている理由とは?

山種美術館で開催中の「竹内栖鳳」展では、人気作《班猫》(はんびょう)が撮影可。同館初の試みとのことです。

竹内栖鳳(1864〜1942年)は、ライオンや熊からアヒルや蛙まで、実にさまざまな動物を描いた、動物愛に満ちた画家です。

沼津で出会った猫 をモデルに描いたというこの絵は、猫の体による渦巻のような表現が無地に近い背景と相まって深みのある世界を作っています。 落款と猫の位置関係は絶妙なバランスを見せています。毛描きがまた素晴らしく、目の当たりにすると意外と大きなこの作品を間近で見ると、毛の1本1本を愛でるように鑑賞したくなります。

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竹内栖鳳《班猫》 1924年 81.9×101.6cm 重要文化財 山種美術館蔵 展示風景  横幅が1mを超えている。実物を前にすると意外と大きいことに驚く。作品名の漢字を「斑」ではなく「班」としているのは、箱書きにしたがった表記にしているため

目が碧眼なのは、実際にモデルになった猫がそうだったとはなかなか思えません。しかし、この碧眼はこの絵の魅力を何倍にも増しているのではないでしょうか。

なお、毛づくろいをしている様子を描いていると言われていますが、実際に毛づくろいをしている猫を見ても、こうした首の角度にはならないという話もあります。栖鳳にはこの形が必要だったのかもしれません。

背景が金のような地色にむらがあるところからは、不思議な浮遊感が漂っています。

栖鳳は、沼津でこの猫に出会ったときに「(すぐれた画家としても知られる)徽宗皇帝の猫がいる」と感銘を受け、持ち主と交渉して京都に連れ帰って描いたということが、エピソードとして有名です。徽宗皇帝は素晴らしい猫の絵を描いたこと、さらには、菱田春草などがその猫の絵を模写したことでも知られています。東京大学の板倉聖哲先生が書いた「画猫の系譜 -徽宗・春草・栖鳳-」という論考が公開されているので、リンクを貼っておきます。

 

栖鳳が目にした猫はほかの猫と比べてよほどまだら模様が顕著だったのでしょうか。モデルにした猫の写真もしばらく前に発見されていますが、猫自体はどこででも見かけるもので、栖鳳の頭には日頃から徽宗皇帝の猫のことが頭から離れなかったゆえ、出会った途端にビビッときたのかもしれません。

栖鳳は西洋画法から学んだ写実を日本画に取り入れた画家として認知されています。しかし《班猫》では猫をただ写生したわけではなく、徽宗皇帝の作品から得たインスピレーションをさらに深めるために描き込んでいる部分が多々あるように思えます。猫を通して自分の宇宙を創ったと言ってもいいのではないでしょうか。

※本記事は、ラクガキストつあおのアートノートからの転載です。

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【展覧会情報】
展覧会名:特別展 没後80年記念 竹内栖鳳
会場:山種美術館(東京・恵比寿)
会期:2022年10月6日(木)~12月4日(日) ※展示替えあり

動物を描けばその体臭までも表す
近代京都画壇の中心的存在として活躍した竹内栖鳳(せいほう) (1864-1942)。栖鳳は、円山・四条派の伝統を引き継ぎながらも、さまざまな古典を学びました。1900(明治33)年にパリ万博視察のため渡欧、現地の美術に大きな刺激を受けた栖鳳は、帰国後、西洋絵画の技法も取り入れ、水墨画など東洋画の伝統も加味して独自の画風を確立し、近代日本画に革新をもたらしました。栖鳳の弟子・橋本関雪(かんせつ)によれば、動物を描けばその体臭まで描けると栖鳳自身が語ったというその描写力は、高く評価され、今なお新鮮な魅力を放っています。また優れた教育者でもあった栖鳳は、多くの逸材を育て、近代日本画の発展に尽くしました。
没後80年を記念し、山種美術館では10年ぶりに竹内栖鳳の特別展を開催します。本展では、動物画の傑作にして栖鳳の代表作《班猫》【重要文化財】をはじめ、東京国立博物館所蔵の《松虎》(前期展示)、個人蔵の初公開作品を含む優品の数々とともに、その画業をたどります。さらに、京都画壇の先人たち、同時代に活躍した都路華香(つじかこう)や山元春挙(やまもとしゅんきょ)のほか、栖鳳の門下である西村五雲(ごうん)、土田麦僊(ばくせん)、小野竹喬(ちっきょう)らの作品もあわせて紹介します。また弟子の一人、村上華岳(かがく)による《裸婦図》【重要文化財】を特別に公開します。
近代日本画の最高峰といえる栖鳳の傑作の数々、そして京都画壇を代表する名だたる画家たちの名品をご堪能ください。

山種美術館のウェブサイトより引用

 

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評者: (OGAWA Atsuo)

1959年北九州市生まれ。東京大学文学部美術史学科卒業。日経BP社の音楽・美術分野の記者、「日経アート」誌編集長、日本経済新聞美術担当記者等を経て、2012年から多摩美術大学芸術学科教授。「芸術と経済」「音楽と美術」などの授業を担当。国際美術評論家連盟(aica)会員。一般社団法人Music Dialogue理事。
日本経済新聞本紙、NIKKEI Financial、ONTOMO、論座など多くの媒体に記事を執筆。和樂webでは、アートライターの菊池麻衣子さんと結成したアートトークユニット「浮世離れマスターズ」で対話記事を収録。多摩美術大学で発行しているアート誌「Whooops!」の編集長を務めている。これまでの主な執筆記事は「パウル・クレー 色彩と線の交響楽」(日本経済新聞)、「絵になった音楽」(同)、「ヴァイオリンの神秘」(同)、「神坂雪佳の風流」(同)「画鬼、河鍋暁斎」(同)、「藤田嗣治の技法解明 乳白色の美生んだタルク」(同)など。著書に『美術の経済』(インプレス)。
余技: iPadによる落書き(「ラクガキスト」を名乗っている)、ヴァイオリン演奏(「日曜ヴァイオリニスト」を名乗っている)、太極拳
好きな言葉:神は細部に宿り給う
好きな食べ物:桃と早生みかんとパンケーキ

https://note.com/tsuao/m/m930b2db68962

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