ピカソのセラミックアートは遊びと実験の宝庫👑それは南仏のユートピア・ヴァローリスから生まれた!

おいしそうな魚が乗っているユーモラスなお皿、壺そのものの形を活かして女性の顔や鳥に仕立てたユニークな壺など、ワクワクするピカソの焼き物(セラミック)が集まっているのがヨックモックミュージアム(東京・表参道)です。日常的にも使えるように作られているので、「家にあったらこんな風に使いたい」という想像を膨らませてくれるのも楽しいポイント。
キュビスムを創造像した20世紀最大の巨匠という強烈なイメージを持つピカソですが、プライベートでは、家族や友人たちとおいしいものをたくさん食べておちゃめに人生を謳歌していたことがセラミック作品からはバリバリ伝わってきます。

ここで「さすがピカソ!」と思えるのは、あそびごころ全開で制作したセラミック作品においても様々な美術の実験を試みているところです。特にキュビスムの実験に関しては、3次元を2次元にしなければならない絵画よりもセラミックは自由度が高かったと思いますし、対象を解体・断片化するという点でもセラミックはもってこいの媒体だったのではないでしょうか!

遊びながら、アートの新しい地平を切り開くことができるなんて。
ピカソはなんと幸運な天才だったのでしょうか!

1946年、65歳の時に、恋人のフランソワーズ・ジローと南仏のヴァローリスを訪れて陶芸に関心を抱いたピカソ。そんな彼が、翌年から本格的な陶芸活動を開始して生み出した膨大なセラミック作品から選りすぐりの作品をコレクションしたヨックモックミュージアムより、彼の遊びと実験のエッセンスをお伝えします。

早速南仏に滞在してジョルジュ・ラミエ夫妻の工房(マドゥーラ工房)で作陶を始めたピカソの最初の頃の作品はどんなものだったのかなと思って展示会場内を探してみると、1948年に制作したという、《3尾の鰯》という名のお皿をみつけました!

真っ黒なお皿に描かれているのは、三匹の小さなイワシ。
驚いたように飛び出たまん丸い目が印象的ですが、何が起こったかわからないうちにお皿に盛られてしまったほどフレッシュな感じです。
とれたてのイワシを、浜辺の焼き網の上で炙って食べる!
美味しいにきまっています。
イワシはピカソの好物で、焼くときの臭いをうたった詩まで作っているそうです。
この作品は、もしかしたら実験など難しいことを考えずに、シンプルに好きなものを描いて焼いてみたのかもしれません。それこそ魚を焼く感覚で?!
他にもターコイズブルーが爽やかで陽気な顔をしたお魚や、まんまるい目がチャーミングなグレーのお魚など、色々なお魚がピカソのお皿に乗っているような感じで描かれていました。

それらの魚の作品を作ったころピカソは70歳前後で、30歳前後のフランソワーズ・ジローとの恋愛にも恵まれて息子のクロードが誕生。制作意欲も食欲も旺盛で、毎日楽しくて仕方がなかったのではないかなと想像できるようなお皿ですね!

そして、ピカソが本格的な作陶活動を始めてから12年ほど経った78歳の時に制作したお皿は、あのイワシと比べると随分抽象的ですね。黄色と青と茶色と黒が良い感じにお皿の上に乗っていて心地良いのですが、一見何が描いてあるかわからない。。。

話題にしているのはこのチラシの真ん中の作品です。《ケープで牡牛をはらう》1959年 オリジナル・アンプラント、白土、化粧土の装飾、一部に透明釉、ベージュ色のパティナ 4.1×42(径) パブロ・ピカソ《ケープで牡牛をはらう》A.R.41701-07-1959

でも、その隣に展示してある赤土に黒いシルエットが描かれたお皿の作品を見てみると?あら不思議!闘牛のワンシーンだったことがわかります。左側のお皿の点線で描かれた輪郭線が、右のお皿に描かれたシルエットの輪郭とぴったり合いました。

これを発見したのは、今展「ピカソのセラミック-モダンに触れる」を監修した河本真理さん(日本女子大学教授)。彼女曰く「最初私も何が描いてあるかわからなかったのですが、ヨックモックミュージアムが所蔵しているセラミック作品の写真一覧をざっと見ていたら、あら?何かこの二つのお皿の絵、形が似てるなと思ったのです。さらによく比較してみると、輪郭がぴったり合って、ケープで牡牛をはらっている闘牛のシーンなのだとわかりました」。
そして、写真左側の抽象的なお皿上では、「輪郭を点線にして途切れさせた上で、点線の輪郭で示唆される形態と色彩を分離し、対象を解体することで、モティーフの形態としての認識を妨げる。その結果この作品はモティーフを観者の目から隠すような、一種のカモフラージュに似た効果を生み出すことになった」ことが分かったそうです。

へ~!直感って意外と大事なのですね。
このように学術的に重要な発見につながるのですから。
私たちも、「これは何だろう?」と直感に引っかかってくることがあったらそれが大発見につながるかもしれませんので、スルーしないようにしたいものですね。

さて、今回遊びと実験の双方が突き抜けていて面白いなと感じた作品が、「壺の中の壺」です。
これは、壺として作った作品の側面に、同じような形と大きさの壺を描いた作品です。

「ピカソのセラミック-モダンに触れる」展チラシの裏面

なんだか、アニメーションから飛び出して来たような壺で、使い物にならないようにも見えながら、れっきとした壺である。とても不思議な存在ですね。立体を平面に落とし込んだキュビスムが巻き戻ったらちょっと違う立体になったような。。。ピカソ独特のひねりに再度ひねりが加わり、遊び心と実験精神が感じられます。
《泉》という作品(上記チラシの左上の作品)の注ぎ口の面には、裸婦が描かれています。これがなんと、あのドミニクアングルの《泉》からきているというのですから驚きです!でも、ほとんど似ていない。。。

ピカソは、絵画において、巨匠たちの名作の変奏曲として様々なバージョンを描いていますが、それをセラミックでもトライしたのですね。
壺の場合は、アングルの絵の中の裸婦が肩に担いでいる壺自体に裸婦を単体で描いた上で、その両脇にツボを描き、かつタイトルを《泉》にするという。。。
謎解きの中にヒントが仕込まれているアートですね!
アングルの絵の中の裸婦と壺を分離解体した上で違う配置で壺の中に統合するという、キュビスムの応用バージョンになっているような。。。
恐るべしピカソ!

最後にご紹介したいのは、制作意欲衰えぬ84歳のピカソが作ったこの不思議な形をしたセラミック。
真っ白でヒトデみたいな立体物です。

会場のパネルを見て何の形かが分かりました!

サッカー選手!絵付けをしたバージョンも存在するのですね。
まるでダンスをするように左足を大きく後ろに引き、 ボールを蹴る直前の瞬間。
本当にこんな風になるかな?と真似してポーズをしてみました。

へなちょこボールが飛びそうですが、 確かに自然とこんな形になりました。

さてみなさん、ご紹介した例は、ほんの一部です!
まだまだ刺激的な発見が展開されていますし、鑑賞者である私たちにも面白い新発見ができる可能性が開かれていますので、発掘の精神を持って訪れてみてはいかがでしょうか!
※プレス向けの内覧会にて許可を得て写真撮影しています。

【展覧会基本情報】
ピカソのセラミック-モダンに触れる
会期 2022年10月25日~2023年9月24日
会場 ヨックモックミュージアム
住所 東京都港区南青山6-15-1
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電話 03-3486-8000
開館時間 10:00~17:00(入館は閉館30分前まで)※最新情報は公式ウェブサイトにて要確認
休館日 月(祝日の場合は翌平日)、年末年始
観覧料 一般 1200円 / 学生 800円 / 小学生以下無料
アクセス 地下鉄表参道駅B1出口徒歩9分
URL https://yokumokumuseum.com/1776

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評者: (KIKUCHI Maiko)

アーティストと交流しながら美術に親しみ、作品の鑑賞・購入を促進する企画をプロデュースするパトロンプロジェクト代表。東京大学文学部社会学科修了。
英国ウォーリック大学「映画論」・「アートマネジメント」両修士課程修了。
2014年からパトロンプロジェクトにて展覧会やイベントを企画。2015年より雑誌やweb媒体にて美術記事を連載・執筆。
特に、若手アーティストのネームバリューや作品の価値を上げるような記事の執筆に力を入れている。

主な執筆に小学館『和樂web』(2021~)、『月刊美術』「東京ワンデイアートトリップ」連載(2019~2021)、『国際商業』「アート×ビジネスの交差点」連載(2019~)、美術出版社のアートサイト 「bitecho」(2016)、『男子専科web』(2016~)、など。

主なキュレーションにパークホテル東京の「冬の祝祭-川上和歌子展」(2015~2016)、「TELEPORT PAINTINGS-門田光雅展」(2018~2019)、耀画廊『ホッとする!一緒に居たいアートたち』展(2016)など。」

https://patronproject.jimdofree.com/

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