東京・六本木の泉屋博古館東京で開かれている「古美術逍遥 東洋へのまなざし」展(10/23まで)は、普段は京都の泉屋博古館で収蔵されている東洋の古美術品の至宝の数々を東京でいちどきに見られる稀有な機会となっています。住友家はこんなに素晴らしいものを集めていたのだな! と改めて確認した次第です。中には伊達政宗が小さ〜く描かれた作品も。プレス内覧会に参加しましたので、遅くなりましたがこちらで報告いたします。学芸員の方に、ヴァーチャル・リアリティよろしく、絵画空間の中に入り込む極意をもお聞きしました!(写真はすべて、プレス内覧会で許可を得て撮影したものです)
まずは中国美術の名品から。
滝を描いた絵や滝を眺める「観瀑図」は日本にもたくさんありますが、中国でもやはり滝は神聖な存在だったのではないでしょうか。もっとも、この絵では、小さく描かれた2人の高士がかなり遠くにある滝を眺めるともなく、大自然の中に身を置いています。「画中人物の視点を想像してその世界に飛び込んでみると、世界がヴァーチャル・リアリティのように広がる」という担当学芸員の竹嶋康平さんのアドバイスが著しく生きる作品です。中国の水墨画は世界というよりも宇宙を表現した観さえある壮大さを持っていますが、鑑賞法を心得ることで、鑑賞者はさらに深みへと入って行けるのです。
こちらは、朝鮮半島から伝来した14世紀の絵画。観音様のやさしい姿をたたえた名品だと思います。「水月観音」ですから、水に映った月を眺めているということになりますが、観音様は左下隅に小さく描かれた稚児にまなざしを向けており、麗しくも柔和な筆致で描かれたその姿とあいまって、やさしさが画面から溢れ出しているように感じられます。繊細な線の表現も素晴らしい。狩野芳崖の《悲母観音》なども、こうした名品を知っていたからこそ生まれ得たのかもしれないと思わせる逸品です。
仏教美術としては、こちらも見逃せません。観音様には性別がないと言われていますが、先ほどの《水月観音像》にしてもこちらの《観音菩薩立像》にしても、母性を感じざるをえないというのが、筆者の正直な感想です。もちろん、ジェンダーによるステレオタイプな鑑賞を強要するのはよくないことと思いますが、むしろすべてのジェンダーに包容力を持つ母性が存在していると見るのもいいのではないでしょうか。なお、解説パネルによると「長身で足腰が細く、胸が張る像容は中国仏としては異形で、インド東南アジア風の雰囲気が濃厚に感じられる」とのこと。大理国は中国南堺の地ゆえ、他の地域の影響で生まれた姿形のようです。
日本美術のコレクションからも興味深い作品を一つ。
解説パネルによると、「徳川秀忠と家光の招きに応じて、後水尾天皇が御所から二条城へ行幸した様子」を描いたものだそうです。徳川家康が築城した二条城に秀忠と家光が天皇を招いたのは、徳川家が権力を得たことを象徴しています。
御所から二条城まではそれほどの距離があるわけではありませんが、おそらくは気宇壮大なイベントとして実施されたのではないでしょうか。この屏風の描写も、実に綺羅びやかで賑やかです。にもかかわらず全体の構図は極めて整然としている。そうしたところにも、「統治」の意識が表れているのかもしれません。
画面の中には、伊達政宗が描かれているそうなのですが、つぶさに観察したにもかかわらず、時間切れで筆者には見つけられませんでした。作品の間近で見られる展示ですが、単眼鏡を持参して観察するなどしてもいいかもしれません。
※作品は京都の泉屋博古館のほか泉屋博古館東京の収蔵品も含まれているとのことです。
※写真はプレス内覧会で許可を得て撮影したものです。転載はご遠慮ください。
展覧会名:泉屋博古館東京リニューアルオープン記念展Ⅲ 古美術逍遙 ―東洋へのまなざし
会期:2022.09.10(土)〜2022.10.23(日)
会場:泉屋博古館東京(東京・六本木)
公式ウェブサイト:https://sen-oku.or.jp/program/20220910_kobijutsushoyo/
※本記事は、「つあおのアートノート」から転載したものです。