【告知】日本最大級の共同スタジオ一般公開 Super Studio Kitakagaya Open Studio 2022 Autumn 「Life to Life」

Life to Life 制作と生活、人生をつなぐ場

Super Studio Kitakagaya Open Studio 2022 Autumn 「Life to Life」
会期:2022 年10 月14 日(金)~ 16 日(日)、21 日(金)~ 23 日(日)(計6 日間)

時間:12:00~18:00
会場:Super Studio Kitakagaya(SSK)
入場:無料
https://ssk-chishima.info/

  • 入居アーティスト・クリエイター:
    泉拓郎(建築・インテリアデザイン)
    大槻智央(グラフィックデザイン、タイプフェイスデザイン、ストラテジックデザイン)
    河野愛(現代美術、インスタレーション、テキスタイル)
    佐々木愛(映像、絵画、パフォーマンス等)
    品川美香(絵画)
    下寺孝典 (建築、デザイン)
    谷原菜摘子(絵画)
    野原万里絵(絵画)
    林勇気(映像)
    前田耕平( 映像、インスタレーション)
    葭村太一(彫刻)

    ギョクチェン・ディレク・アカイ(刺繍、映像、パフォーマンス)※レジデンス滞在のため、個室スタジオのみ

キュレーション/ テキスト:三木学
ヴィジュアルデザイン:大槻智央
主催:一般財団法人おおさか創造千島財団

■コンセプト・あいさつ
2020年に開館したSuper Studio Kitakagaya(SSK)は、個室スタジオ9室、大型作品が制作可能なラージスタジオエリア4区画を擁し、木工・溶接 などの制作設備やキッチン、ギャラリーなどを備えた日本最大規模の共同スタジオである。

美術・芸術大学及び大学院卒業後にアートやデザイン活動を続ける人々にとって、制作スペースは大きな課題の一つであるが、SSKはそれを解決する最適なソリューションを提供している。特にユニークなのは、従来のアーティストによる緊密な人間関係をもとにした自主的な運営ではなく、おおさか創造千島財団という中間的な組織によって運営されていることもあり、アーティスト、デザイナーの志向が多様であると同時に、ゆるやかな協働関係を築いていることであろう。

コロナ禍においてSSKでは、2020年度はオンライン、2021年度は感染対策を取りながらオープンスタジオが開催された。2022年度のオープンスタジオは、SSKに集う豊富な人材と設備を最大限に活かし、入居者たちの制作・生活/人生と訪問する人々の生活/人生をダイレクトかつシームレスにつなぐため、「Life to Life」というテーマを掲げる。そして、コロナ禍で失われていた空間における「Face to Face」の交流の場を生成する。

オープンガーデンやオープンハウスは、もともとプライヴェートな庭や住居・建築を、多くの人々に開くものだが、オープンスタジオもそれに類する。プライヴェートな制作空間を一時的に開放し、来訪客を受け入れる。今回、SSK全体を一つの住居、生活空間に見立てオープンスタジオを実施する。

それに際して、SSKに幾つかある共用スペースと空きスペースを、それぞれのスタジオへ誘うハブとする。例えば、入口横の Labo&Galleryは、オープンスタジオ期間中、入居者同士、入居者と来訪客が交流するリビングやラウンジとして位置付ける。そこには住居の中のアートとして、来訪客の生活・仕事空間にもフィットし、プライヴェートな空間に設置可能なアート作品やファニチャーも展示される。そして、一部作品は、実際に購入したり、持ち帰ったりできる。あるいは、1階のラージスタジオエリアには、都市の中のアートとして移動型の展示空間、交流空間である屋台の展示や、自然の中のアートの在り方について提示する。

全体として、2022年度SSKオープンスタジオは、アートと共に生きるライフスタイルの提案やアートの「居場所」を問う試みであり、空間と空間、人生と人生をつなぐためのメディアとなる。ただし、オープンスタジオの時間は限られているので、来られない人々も当然存在する。そのために、オープンスタジオ後も参照できる記録集が制作される予定である。関心を持つ方が増えれば、SSKだけでなく、国内の制作環境にも波及するだろう。これらの試みからアートの「居場所」が広がることを期待したい。

三木学

■解説
今回、Super Studio Kitakagaya(SSK)のオープンスタジオをキュレーションするにあたり、「Life to Life」というテーマを掲げた。それは、「Face to Face」=「対面」を意識した造語であるが、アーティストの制作・生活/人生と来訪客の生活/人生が直接結びつくことを意味している。対面はコロナ禍の中でより貴重な体験となった。ただし、対峙するというよりも接続する、連続するという意味で「接面」に近い。

スタジオは、制作の場であると同時に、人によっては1日で一番長い時間を過ごす生活の場であり、人生そのものでもある。定刻のある職場とは意味合いが異なる。つまり、迎えられた来訪客は、生活の場、人生のシーンに立ち入ることになる。日本の場合、多くの人にとって、アーティストのスタジオを訪問する体験は少ないだろう。それだけで魅力がある。創作の現場に立ち会うことほど刺激的なことはないからだ。

ただし、SSKの場合、共同スタジオであると同時に、Labo&Gallery、Workshop、スースーキッチンをはじめとした共用スペースがあり、作品を展示することも可能である。今まで開催されてきたオープンスタジオではテーマを決めて展示が行われてきた。

しかし、展覧会という形式にしてしまうと、来訪客は制作・生活の場に来ているのに、作品を鑑賞する対象として身構えてしまうだろう。アートが来訪客にとっても自分のこととして捉えてもらうために、共用スペースや空きスペースに展示する作品は、生活の場に展示できる程度の大きさだったり、街や自然の中に置けるものだったり、持ち帰られるものだったり、来訪客の生活/人生と結び付けられるよう企図した。来訪客が、自分の生活/人生の中にアートを置いたり、見出したりする機会になれば幸いである。

それを実現するにあたり、幾つかある共用スペースや空きスペースをコモンズ・スペースとして、SSK 自体を一つの住居、生活空間として見立てた。それらのスペースは、作家と来訪客、作家同士、来訪客同士が交流する場であると同時に、作家のプライヴェートなスタジオへ仲介、誘導するハブの機能を果たす。

さらに、コモンズ・スペースは、それぞれの作家の作品の特性や関心に沿って、「住居の中のアート」「都市の中のアート」「自然の中のアート」「記憶の中のアート」「居場所としてのアート」という、小テーマが割り当てられており、全体としてアート自体の「居場所」を問う試みになっている。

※以下、出品予定内容

●Labo&Gallery1 「住居の中のアート
Labo&Gallery は、SSKのリビングや応接間(drawing room)に見立てる。最初に来訪客を迎え入れ、交流し、歓談する場である。ここでは、ギャラリーや美術館ではなく、住居の中でどのような作品が飾ることが可能か提示する場にもなっている。住居においては、立って見るだけではない。よりさまざまな角度で見てもらうために、実際のリビングや応接間に近くなるよう机や椅子を用意し、くつろげるようにする。

壁面には、大きな作品ではなく、小作品を構成的に展示し、来訪客が住む住環境に置くことを想像できるように企図している。壁面を展示するのは、河野愛、佐々木愛、品川美香、谷原菜摘子、野原万里絵である。主にドローイング飾られるため、まさにdrawingroom となるだろう。

河野愛は、骨董など、使い古されたものの中に眠る記憶や時間、歴史を、インスタレーションにすることで再生させる試みを行っている。また近年、出産を機に、自身の子供の肌と真珠をテーマにした作品を発表している。柔らかな乳児の肌の皺に、真珠をはめ込み、「異物」でありながら、貝の中で美しい宝石となる真珠と、子供の存在を重ねている。ただし、柔らかで艶のある乳児の肌は、乳児の時期に限られている。今回、1歳未満の乳児を持つ親に、一粒の真珠と撮影指示カードなどを入れたボックスを贈り、乳児の肌と真珠の写真を撮影してもらうプロジェクトを実施する。

佐々木愛は、土地の物語や神話、伝承など「記憶」を元に、ロイヤルアイシングといわれる繊細な砂糖細工技法で巨大な壁画を制作することで知られている。また、2009年以降、詩人の管啓次郎の詩を元にした絵画の共作や書籍の挿絵、色彩豊かな小作品を組み合わせた平面構成の展示も行っている。その詩的で、抒情的な絵は、人々や土地の記憶に触れた佐々木の魂を表すものであり、小さくても見るものを惹きつける。それらの平面構成は、記憶の断片でもあるが、見るものにさまざまなストーリーを喚起させる。

品川美香は、子供の顔と花鳥風月のような自然のモチーフを組み合わせた絵画を制作している。それらの「自然」は人工的ですでに手の加えられた自然でもある。今回は、ドローイングによる小作品を展示する。河野と同じく、SSK在籍時に出産を経て創作活動を続けているおり、まさにSSK が生活の場であり、子供と親の成長の場にもなっている。

谷原菜摘子は、個人の記憶に刻まれた、社会の理不尽さや暴力などの傷跡を元に、シュルレアリスム的な絵画を制作している。黒いベルベットの下地に、油彩、アクリルに加えて、グリッターやスパンコールなどの乱反射する素材も取り入れた独自の技法による絵画は、暗さの中に豊かな質感と光沢感を湛えている。今回は、それらの完成された絵画ではなく、舞台作品のために制作した舞台衣装のデザイン画を中心とした小作品で構成し、物質よりもイメージに近い状態を提示する。

野原万里絵は、自身のドローイングと下地の協働作業による作品を制作している。その下絵は、モレスキン製のリーフブルーの手帳に描かれたドローイングが元になっている。ゴッホやピカソ、ヘミングウェイ、ブルース・チャトウィンなどにも愛用された手帳だ。それは時に備忘録であり、アイディアのスケッチであり、手の赴くままに描くものとして、まさに制作と生活に断絶が起きないための習慣になっている。それは自動書記的ともいえ、コンセプトによって思考や手が縛られることから逃れる方法でもある。今回は、ドローイングを元に描かれたサイズの異なる複数枚の作品を壁面に構成して展示する。

床面には、葭村太一が彫刻作品を展示する。葭村は、街中に描かれているグラフィティや古い家に描かれている子供の落書きを元に、“平面的な” 奥行きを加えた木彫作品を制作し、場所や空間における人々の営み、記憶を「層」として抜きとることを試みている。今回、SSKの関連施設である元長屋の複合文化施設、千鳥文化に描かれていた落書きから制作された作品を展示し、記憶を連結させる。

ロングテーブルとローテーブルは、泉拓郎がデザインした家具を使用する。泉は、建築・インテリア設計事務所9 株式会社に参加し、デジタル加工機ShopBot を使用して、自作できる家具「プラモ家具」や小屋のデザインを行っている。泉は、パートナーで画家の品川美香と共同でスタジオを借りており、アートとデザインの両方にまたがって作品を制作している。アートが芸術祭のような祝祭的なものだけではなく、日常においては、デザイン、建築、家具などと連続的なものであることを提示する。

■ラージスタジオエリア
ラージスタジオエリアは、大型の作品を制作する作家が集う。それぞれ室内だけはなく、都市や自然におけるアートの在り方を探求している。本展では、住居における庭のような外部と内部をつなげる環境として見立て、回廊を設ける。

●Large Studio B 「都市の中のアート」
下寺孝典は、屋台をテーマにした研究と制作をしており、単なるモビリティとしてではなく、それを成り立たせている都市の生態系を調査し、実践している。日本においては、屋台だけではなく、山車や神輿のようなモビリティが、都市において芸術を見せる場になっていることも重要だろう。今回は、Large Studio B に屋台を展示、リサーチアーカイブを上映するほか、下寺と画家の丹羽優太とのユニット「親指姫」による映写車《電氣作用活動座》(2022)を展示、プロジェクションする。さらに、SSK のエントランス前にて、路上のコミュニケ―ションの装置として屋台営業をするほか、Mobile Studio には資料展示室が設けられる。

●Labo&Gallery2(L 字ギャラリー) 「自然の中のアート」
前田耕平は、和歌山に生まれ、同郷の博物学者である南方熊楠に影響を受け、疑似的な祭りによる共同体の再組織化や自然と人間が織りなす生態系に入り込む制作や活動を行っている。前田はイカダによる制作・活動も行っており、下寺と同様、移動装置とアートが一つのテーマになっている。今回は、Labo&Gallery2に、京都の高瀬川の生態系をリサーチしたプロジェクトのドローイングやアーカイブを展示し、人工的な都市空間や区画を横断する川とそこにいる生物の多様性を明らかにする。同じくMobile Studio には資料展示室が設けられる。

●Labo&Gallery 前 「居場所としてのアート」
エントランスに入ると、左手には泉拓郎による、「居場所」をテーマにした、小屋型の建造物をつくるワーク・イン・プログレスが実施される。会期中、端材などを再利用して、小屋がつくられ、さらに小屋から変形した機能を持つように拡張していき、最後には、小屋とは呼べない何かに変容していく。それは、泉がつくる「居場所」であると同時に、来訪客を迎えるための装置として機能する。

■個室スタジオ
個室スタジオは、通常サイズの制作スタジオであるが、今回はプライヴェートな空間の奥にあるイメージが提示される。

●Studio 2 「記憶の中のアート」
林勇気は、インターネットやハードディスクなど、ネットワークの中に眠る膨大なイメージをプロジェクションによって可視化し、光の経験に変換している。今回、展示するStudio 2 は、現在空いている個室スタジオだが、かつてアーティストが制作しており、また将来的にも使用される。そのような見えない記憶の集合体ともいえよう。また、SSK は物理的なスタジオであるが、当然ながらスタジオに入居しているアーティストと外部はさまざまなネットワークを介したやり取りがなされている。それは、通常見えないけれども、現在のコミュニケーションや生活を成り立たせている基盤でもある。

●フライヤー
オープンスタジオのフライヤーは、大槻智央のデザインである。大槻は、デザイナーであり、独自のタイポグラフィーを考案し、企業や店舗、ブランドなどのCI・VI から、アート関連の広告物まで幅広くデザインしている。SSK の入居者の展覧会フライヤーなども数多く手掛けており、SSK の外部と内部をつなぐ媒介者ともいえるだろう。

三木 学
評者: (MIKI Manabu)

文筆家、編集者、色彩研究者、美術評論家、ソフトウェアプランナーほか。
独自のイメージ研究を基に、現代アート・建築・写真・色彩・音楽などのジャンル、書籍・空間・ソフトウェアなどメディアを横断した著述・編集を行なっている。
共編著に『大大阪モダン建築』(2007)『フランスの色景』(2014)、『新・大阪モダン建築』(2019、すべて青幻舎)、『キュラトリアル・ターン』(昭和堂、2020)など。展示・キュレーションに「アーティストの虹─色景」『あいちトリエンナーレ2016』(愛知県美術館、2016)、「ニュー・ファンタスマゴリア」(京都芸術センター、2017)など。ソフトウェア企画に、『Feelimage Analyzer』(ビバコンピュータ株式会社、マイクロソフト・イノベーションアワード2008、IPAソフトウェア・プロダクト・オブ・ザ・イヤー2009受賞)、『PhotoMusic』(クラウド・テン株式会社)、『mupic』(株式会社ディーバ)など。
美術評論家連盟会員、日本色彩学会会員、大阪府万博記念公園運営審議委員。

Manabu Miki is a writer, editor, researcher, and software planner. Through his unique research into image and colour, he has worked in writing and editing within and across genres such as contemporary art, architecture, photography and music, while creating exhibitions and developing software.
His co-edited books include ”Dai-Osaka Modern Architecture ”(2007, Seigensha), ”Colorscape de France”(2014, Seigensha), ”Modern Architecture in Osaka 1945-1973” (2019, Seigensha) and ”Reimaging Curation” (2020, Showado). His recent exhibitions and curatorial projects include “A Rainbow of Artists: The Aichi Triennale Colorscape”, Aichi Triennale 2016 (Aichi Prefectural Museum of Art, 2016) and “New Phantasmagoria” (Kyoto Art Center, 2017). His software projects include ”Feelimage Analyzer ”(VIVA Computer Inc., Microsoft Innovation Award 2008, IPA Software Product of the Year 2009), ”PhotoMusic ”(Cloud10 Corporation), and ”mupic” (DIVA Co., Ltd.).
http://geishikiken.info/

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