「水津達大『アトモスケープ』展」@西武池袋本店 秋丸知貴評

(1) アートフェア
会期:2022年3月18日(金)- 3月28日(月)
会場:西武池袋本店7階(南)催事場
※最終日3月28日(月)は当会場のみ午後4時に閉場

(2) 水津達大展 アトモスケープ
会期:2002年6月22日(水)- 6月28日(火)
会場:西武池袋本店6階(中央B7)アート・ギャラリー
※最終日6月28日(火)は当会場のみ午後4時に閉場

 

風雅――。古来、日本人は大自然の悠久の営みに癒されてきた。日本の絵画とは、そうした大自然への窓口であり日々の生活に潤いと癒しを与えるものであった。

それならば、人新世(じんしんせい)における日本の絵画とは何か? 水津達大は、この問いをアクチュアルな形で追求する。

水津の試みは、「花の雲」「白い海」「水辺」「Sea trace」「風力発電」と名付けられた五つのシリーズにより構成される。

西行の和歌にインスパイアされた《花の雲》。気韻生動や余白の美を今日的に翻案した《白い海》。生々流転する水の心象風景を表現した《水辺》。群青と和紙を用いた実景写生の現代版といえる《Sea trace》。平安古筆のように繊細で流麗な《風力発電》。

どの作品も決して声高に自己主張しないのは、大自然の中に無我の境地で己を安らがせようとする日本の伝統的感受性の一つの表れと言えるだろう。

その上で、水面や透過光にクロード・モネやゲアハルト・リヒターも彷彿させるこれらの連作は、正に現代的な感覚に裏打ちされた「雪月花」である。

いずれの作品にも、吉野と熊野を結ぶ修験道の大峯奥駈修行を満行した水津ならではの知性と美意識と自然愛好が瑞々しく漲っている。

限りなく明澄で静謐な美の中に、久遠の息吹を感じて欲しい。

秋丸知貴(美術評論家)

 

水津 達大 Suizu Tatsuhiro
1987 広島県生まれ
2013 東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻修士課程日本画修了
2013 「国宝 伴大納言絵巻」模写事業参加 東京藝術大学買上
2016 金峯山寺 東南院 大峯奥駈修行 満行[’18]
2018 「東美アートフェア」東京美術倶楽部
          日仏友好160周年記念 「日本画×新世代 −伝統と伝承−」Lyon 在リヨン領事事務所主催
2020 個展「風景へ 水津達大 絵画展」日本橋三越本店
2021 個展「水津達大展 風景の行方」Bunkamura Box Gallery
水津達大《花の雲》2022年

 

水津達大《白い海》2022年

 

水津達大《水辺》2022年

 

水津達大《Sea trace(2021.11.29 伊勢)》2022年

 

水津達大《風力発電》2022年

 

※本記事は、「水津達大展 アトモスケープ」のフライヤーのために執筆された。

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評者: (AKIMARU Tomoki)

博士(学術)/美学・美術史・死生学・メディア論
1997年 多摩美術大学美術学部芸術学科卒業
1998年 インターメディウム研究所アートセオリー専攻修了
2001年 大阪大学大学院文学研究科文化表現論専攻美学文芸学専修修士課程修了
2009年 京都造形芸術大学大学院芸術研究科美術史専修博士課程単位取得満期退学(2011年度学術博士)
2009年4月~2010年9月 日図デザイン博物館学芸員
2010年4月~2012年3月 京都大学こころの未来研究センター連携研究員
2011年4月~2013年3月 京都大学地域研究統合情報センター共同研究員
2011年4月~2016年3月 京都大学こころの未来研究センター共同研究員
2016年4月~ 滋賀医科大学非常勤講師
2017年9月~ 上智大学グリーフケア研究所非常勤講師
2020年4月~2023年3月 上智大学グリーフケア研究所特別研究員
2021年4月~ 京都ノートルダム女子大学非常勤講師
2022年4月~ 京都芸術大学非常勤講師
博士論文を基にした主著『ポール・セザンヌと蒸気鉄道――近代技術による視覚の変容』(晃洋書房・2013年)で、2014年度の比較文明学会研究奨励賞(伊東俊太郎賞)を受賞。

(『週刊読書人』WEBでも書評を掲載中 https://dokushojin.com/)

http://tomokiakimaru.web.fc2.com/

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