新しい色名を作る意味。アヤナミブルーは何色か?「アヤナミブルー」三木学評

新しい色名を作る意味。アヤナミブルーは何色か?

特設サイトトップページ
https://www.turner.co.jp/ayanamiblue/
より。

※2015年時の記事です。

ターナー色彩が、エヴァンゲリオン20周年を記念して、メインキャラクターの一人である綾波レイをイメージした新色「アヤナミブルー」を発表して話題になっている。アヤナミブルーは、ターナー色彩のレパートリーの中にある、氷のように冷たい青を意味するフロスティーブルーと、母なる海の暖かい青を意味するウォーターブルーの中間色にあたるという。そのことから「水より冷たく氷より暖かい」という両義性を持った青ということを意図しているようだ。

ウォーターブルー(水色ではないようだ)も、フロスティーブルーもあまり日常的には使わない色なので、その中間と言われてもピンとこないかもしれない。そもそも、海の青というならば、マリンブルーではないのか?という疑問はさておき、ウォーターブルー、フロスティーブルー、アヤナミブルーの位置関係を色立体で見ていきたい。

マンセル表色系色相・彩度図

 

マンセル表色系の色相・彩度図で見ると、左がフロスティーブルー、右がウォーターブルー、中間にあるのがアヤナミブルーということになる。フロスティーブルーに寄っているものの中間の色であることは間違いない。

一方、ウォーターブルーを暖かいと形容し、フロスティーブルーを冷たいと形容している意味は、通常は赤やオレンジ、黄色を暖色、青や青紫は寒色とされるので、青の色相の中で赤よりか青紫よりか、といった違いだだろう。

マンセル表色系明度・彩度図

明度・彩度図で見ると、一番上がウォーターブルー、一番下がフロスティーブルー、真ん中がアヤナミブルーなので、明度においてはウォーターブルーに寄っているが中間といえる。彩度に関しては、アヤナミブルーが多少だが一番低い。

同じ青にもかかわらず、ウォーターブルーを暖かく感じ、フロスティーブルーを冷たく感じるのは、色相が青紫よりということだけではなく、ウォーターブルーと比較して明度が低いことにも原因がある。ただ、彩度が一番高いため、鈍重な冷たさというより、鋭敏な冷たさを表現しているといったところだろうか。

肝心なアヤナミブルーは、色相に関してはフロスティーブルーに近い青紫よりの青であり、明度に関してはウォーターブルーに近く、彩度に関してはウォーターブルーに近いものの一番低いという、二つの色の要素を持ちながら、独自性のある青ということになる。それは綾波レイの髪の毛や制服の青を想起させるというだけではない。キャラクターのイメージに近く、彼女の母のような暖かさと、表情の少ないクールな印象を想起させるかもしれない。

では、既存の日本の慣用色名では何に一番近い色なのだろうか?

日本の慣用色名

一番近いのは空色、スカイブルーということになる。彩度はアヤナミブルーの方がやや高いが、色相・明度はほぼ同じといっていい。つまり、アヤナミブルーは、やや彩度の高い空色ということになる。

この理屈で言うと、空に冷たさと暖かさの両方を感じるとしたら、水と氷の中間的な色であるからかもしれない。綾波レイのイメージもまた、水のアナロジーではなく、空で考えた方がしっくりくるのかもしれないが、皆さんはどうであろうか?

ともあれ、このような色名を作る文化はもっと活発になってよい。色名がその文化に増えると色の識別能力が上がり、色彩文化は確実に豊かになる。フランス語にブルーが増え続けているのは、芸術家が特徴的な青を使うたびに、色名になるからである。

クライン・ブルーやブルー・モネ、ブルー・ドゥ・ピカソ、ブルー・ドゥ・マティスなど枚挙にいとまがない。タケシ・ブルーもその一環だろう。アヤナミブルーというのは芸術家の名前ではないが、アニメのキャラクターの色というのがいかにも日本的で新たな可能性を感じる。

初出『shadowtimesβ』2015年7月28日

三木 学
評者: (MIKI Manabu)

文筆家、編集者、色彩研究者、美術評論家、ソフトウェアプランナーほか。
独自のイメージ研究を基に、現代アート・建築・写真・色彩・音楽などのジャンル、書籍・空間・ソフトウェアなどメディアを横断した著述・編集を行なっている。
共編著に『大大阪モダン建築』(2007)『フランスの色景』(2014)、『新・大阪モダン建築』(2019、すべて青幻舎)、『キュラトリアル・ターン』(昭和堂、2020)など。展示・キュレーションに「アーティストの虹─色景」『あいちトリエンナーレ2016』(愛知県美術館、2016)、「ニュー・ファンタスマゴリア」(京都芸術センター、2017)など。ソフトウェア企画に、『Feelimage Analyzer』(ビバコンピュータ株式会社、マイクロソフト・イノベーションアワード2008、IPAソフトウェア・プロダクト・オブ・ザ・イヤー2009受賞)、『PhotoMusic』(クラウド・テン株式会社)、『mupic』(株式会社ディーバ)など。
美術評論家連盟会員、日本色彩学会会員、大阪府万博記念公園運営審議委員。

Manabu Miki is a writer, editor, researcher, and software planner. Through his unique research into image and colour, he has worked in writing and editing within and across genres such as contemporary art, architecture, photography and music, while creating exhibitions and developing software.
His co-edited books include ”Dai-Osaka Modern Architecture ”(2007, Seigensha), ”Colorscape de France”(2014, Seigensha), ”Modern Architecture in Osaka 1945-1973” (2019, Seigensha) and ”Reimaging Curation” (2020, Showado). His recent exhibitions and curatorial projects include “A Rainbow of Artists: The Aichi Triennale Colorscape”, Aichi Triennale 2016 (Aichi Prefectural Museum of Art, 2016) and “New Phantasmagoria” (Kyoto Art Center, 2017). His software projects include ”Feelimage Analyzer ”(VIVA Computer Inc., Microsoft Innovation Award 2008, IPA Software Product of the Year 2009), ”PhotoMusic ”(Cloud10 Corporation), and ”mupic” (DIVA Co., Ltd.).
http://geishikiken.info/

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