仏像が何とたたかっているのかと考えた事はありますか?
私はありませんでしたが、威嚇するような表情をした仏像を見ると、「仏は悟りを開いた超越した存在のはずなのに、武器を持って怖い顔をしているなんて、俗世の人間みたいだな」と思った事はありました。
静嘉堂文庫美術館で始まった「たたかう仏像」では、甲冑を身にまとった「たたかう仏像」の彫刻や絵画を展示することで、「彼らは何とたたかっているのか?」と問う新鮮な視点を開いてくれました。その様子と考察をいくつかの仏像とともにご紹介します。

まずは、本展最大の見所の1つである、浄瑠璃寺旧蔵《十二神将立像》のたたかう姿に惹かれました。十二神将立像とは、薬師如来を守護する十二体の武装した武将の姿をした仏像群で、十二支と結びついて方向や時間を司り、人々を災いから守る役割を持つとのこと。子の神将、丑の神将と十二支分あり、静嘉堂には十二神将像が揃っていて貴重です。
まずは自分が寅年なので、寅の神将像に注目してみました。甲冑を着て振り上げた右手には独鈷杵を持ち、勇猛な姿です。

寅の方角東北東を守っていると思われますが、それでは何とたたかっているのでしょうか?独鈷杵は煩悩を打ち砕く法具だということを考えると、「煩悩とたたかっている」のかもしれません。物理的な敵と戦うのではなく精神的な敵とたたかうためであっても「武装する」とは興味深い!たたかうには、それなりの格好をする、要するに形から入ることも重要なのかなと思いました。それにしても、この神将が「寅」である事はどこからわかるのでしょうか?上から下までじっと眺めてもしばらくわからなかったのですが、頭上をよく見たときについに見つけました。被り物に寅の面が彫られています。ちょっとクマみたいに見えるところがご愛嬌。可愛らしいです。

という事は他の十二支も?卯(ウサギ)の面は長い耳があるのでわかりやすい。神将自身の髪もウサギの耳のように上にピンと伸びています。

今年の干支である「午(ウマ)」の神将は?杖に頬杖をついた姿勢でむすっとした感じですが。。。頭上のウマの面はなかなかキマッています。これらの浄瑠璃寺旧蔵《十二神将立像》は、運慶作であるという説も浮上しているとの事ですので注目です。


さて、この展覧会で嬉しいのが、「そもそも仏像がなぜ武装するようになったのか」というところにさかのぼれること。担当学芸員の大沼陽太郎さんは図録の中で、「現在確認できる最古の四天王像(紀元前2世紀末ごろ)は鎧をつけていなかったが、南北朝時代後期から隋〜初唐期(7世紀)には天王像が鎧をつけることが定型化したと記しています。それらは、墓室の入り口に設置される副葬品としての神将俑で、先ほどご紹介した、鎧を着た神将像のルーツと考えられるとのこと。その貴重な神将俑を、何点か展示作品から紹介します。まずは、中国唐時代(7世紀)の加彩神将俑の2点です。体にフィットした甲冑で上から下まできっちり覆い、ギョロリとした目と大げさな手振りで威嚇していることがわかります。仏様というよりは、唐時代当時の人間たちがこのような出で立ちで戦っていたのかもしれないと思わせるリアル感がありますが、彼らは何と戦っているのでしょうか?煩悩など内面的なものというよりは、物理的な外敵がいるように見えます。

さらに進んで、唐時代(8世紀)の神将俑になると、色も身振りもより派手な上に、足で邪鬼のようなのを踏みつけています。こうなると、彼らが何とたたかっているかが、俄然具体的になってきます。人間に悪さをする邪鬼そのもの、または外敵や災厄、煩悩などを邪鬼がシンボライズしていて、それらと戦っているのかもしれません。

同じく唐時代(8世紀)のこちらの神将俑はひときわインパクト大でした。髪を大胆に逆立てて、口を大きく開けています。緑と朱色の鎧がゴージャスで、しっかりとくびれたウェストに左手を押しあてて右手を表現豊かに肩のあたりまで持ち上げる姿は威厳たっぷり。「絶対敵にまわしたくないほど怖い!」と思いながら 頭上に目を向けた瞬間に目を疑いました。3つの小さな球体に、だんご3兄弟かと見まごうほどキュートな顔がついているではありませんか!「一体何と、どんな戦略でたたかっているのだろう?」。ギャップ萌えさせて骨抜きにする戦略なのかな?本当のところはわからないけれど、きっとすごい威力を発揮する神将なのだろうなと感銘を受けました。そしてそういえば、頭に面をつけて神将の特徴をシンボライズするという様式は、最初にご紹介した十二神将像の頭上に付いていた干支面にも見られましたね。両者の関連を納得させてくれた一体でもありました。


「仏像は何とたたかっているの?」と考えながら鑑賞することで、今までになく仏像に親しむことができました。ぜひ試されてみてはいかがでしょうか!
【展覧会基本情報】
「たたかう仏像」展
会期:2026年1月2日~3月22日
会場:静嘉堂文庫美術館(静嘉堂@丸の内)
住所:東京都千代田区丸の内2-1−1 明治生命館1階
電話番号:050-5541-8600
開館時間:10:00~17:00(1月28日、2月25日は〜20:00)(3月20日、3月21日は〜19:00) ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月、1月13日、2月1日、2月24日(ただし1月12日、2月23日は開館)
料金:一般 1500円 / 大高生 1000円 / 中学生以下 無料