なぜ現代アートは時に争いや災いをテーマにするのか?「アルフレド・ジャー」展が、その1つの解を提示してくれた!東京オペラシティアートギャラリーにて 3月29日まで

現代アートの中にはなぜ、争いや災いをテーマにするものがあるのか?そのように思った事はありませんか?そのようなテーマを持つ現代アートは往々にして、ビジュアル的にも内容的にも「楽しい」ものではありません。それなのになぜ?
そんなクエスチョンに、1つの答えをくれたのが、東京オペラシティアートギャラリーにて始まった「アルフレド・ジャー あなたと私、そして世界のすべての⼈たち」展です。本展は、その目的を、ハンドアウトの中ではっきりと言葉にしてくれています。
「遠い国の災禍は他者の物語に見えかねない。しかし、同じ地球上に生きる人間である限り、私たちはそれらと無関係であるはずはなく、日常のさまざまな選択を通じて私たちは『当事者』であることを、展覧会を見終わった後に感じられるもにできないか」という思いです。
今回の展覧会で、そのようなジャーと美術館の意図をしっかりと受け取ることができました。そのような作品の中から、いくつかをご紹介します。

例えばこの「Other People Think (彼らにも考えがある)」という作品。

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《彼らにも考えがある》 2012  展示風景より

ジャーは、「人々は考えることができる。利口だし何が起こっているかもわかっている。それなのに政治家は、人々は何も考えていないと思っている。私はこの事実を重要なこととして強調したかったのでこの作品をつくりました」と語ってくれました。これはもともと2012年にジャーが制作したもので、北米のラテンアメリカに対する抑圧的な態度をほのめかしたものだと思われますが、決して過去のものではありません。まさにこの前起こったばかりの、アメリカによるベネズエラ襲撃という出来事に関連付けて、現代の私たちも思考を深めることができます。
「ラテンアメリカじゃないから関係ないな」と思いそうになったあなた、ちょっと待った!(笑)。こちらの衝撃的な展示作品を見てください。

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《明日は明日の陽が昇る》2025、写真右から2番目がアルフレド・ジャー氏

大きな日本の旗のライトボックスの上に、同じ大きさのアメリカの旗のライトボックスが浮かんでいます。真上にらんらんと発光するアメリカの旗が常にこんなふうに見下ろしてくるなんて。なんと息苦しいことでしょう。でも、このような関係性に慣れてしまったとすると、そのように感じなくなっているのかもしれません。ジャーからすると、「日本とアメリカの関係を考えるときに、日本がなぜこんなにアメリカに対して弱いのか、常に依存しているのか、なぜアメリカを突っぱねることができないのか、と非常に衝撃を受けてきました。その依存度や関係性についてはどうしても私の理解が及ばないところがあります」とのこと。
それでもこの作品は、位置関係や距離感など、見れば見るほど日本とアメリカの関係を細かいニュアンスまで絶妙に表現しています。
そして、ジャーの素晴らしいところは、この作品の中に、「希望」を含ませてくれていることです。「下方の旗は静かな抵抗の光を放ち、服従ではなく解放への兆しをほのめかしている」とのこと。日本の旗は、地面から日が昇るように立ち上がり、ついにはアメリカの旗とともに、地面に垂直に立つことができるのかもしれません。私たちが、当事者として考え行動することを続けていきさえすれば!

そしてその次の展示室では、1945年当時のアメリカと日本との関係、そして広島で起こったことへの新たな視点を体感させてくれます。

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《ヒロシマ、ヒロシマ》 2023  展示風景より

大きなスクリーンに、「ヒロシマ」という文字が出て、その後に写し出されるのは、広島市街を上空から眺めた映像です。だんだんと近づいてくるのは、原爆がターゲットとしていた橋です。

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《ヒロシマ、ヒロシマ》 2023  展示風景より

原爆は、ターゲットの橋を少し外してしまい、原爆ドームの真上に来てしまいます。ジャーによると、これは、世界で初めて原爆ドームを真上からドローンで捉えることを許された映像です。そしてここに来てハッと気づくのは、私たちの視点が、まさに原爆ドームの上に落ちようとしている「原爆の目」になっていること!

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《ヒロシマ、ヒロシマ》 2023  展示風景より

すると原爆ドームは車輪のようにぐるぐると回り始めて。。。

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《ヒロシマ、ヒロシマ》 2023  展示風景より

この後どうなるかは、ぜひ会場で体験してみてください。体へのインパクトがあります。それをどう捉えるかは皆さん次第!その体験は、単にその時起こったことを再現して体感させるということにとどまらず、私たちの内なる思考を目覚めさせ、未来に向けてのポジティブな原動力になるものだと私は感じました。

そしてここで敢えて会場をもう1周することをお勧めします。最後まで鑑賞した私たちには、1周目に見た作品達から、前回と違うメッセージを受け取る力が備わっているはずだからです。
例えばこの《エウロパ》という作品。6つの両面ライトボックスと30枚の額装ミラーによって構成される、1990年代初頭に勃発したボスニア紛争の情景を表すものです。

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《エウロパ》 1994 展示風景より

燃え盛る炎の向こう側に見えるのは、その渦中にある人間たちのドラマ。恐怖や悲しみの中にも、助け合う人間同士の温かみがある。
どうでしょうか?「国も時代も違うから関係ない」と思ったりしない、新しい自分に気が付くかもしれません。

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《エウロパ》 1994 展示風景より

【展覧会基本情報】
「アルフレド・ジャー あなたと私、そして世界のすべての人たち」
会期:2026年1月21日〜3月29日
会場:東京オペラシティ アートギャラリー ギャラリー1、2
開館時間:11:00〜19:00 ※入場は閉館の30分前まで
休館日:月(ただし、2月23日は開館)、2月8日、2月24日
料金:一般 1600円 / 大・高生 1000円 / 中学生以下無料・障害者手帳等をお持ちの方および付添1名無料

 

 

 

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アーティストと交流しながら美術に親しみ、作品の鑑賞・購入を促進する企画をプロデュースするパトロンプロジェクト代表。東京大学文学部社会学科修了。 英国ウォーリック大学「映画論」・「アートマネジメント」両修士課程修了。 2014年からパトロンプロジェクトにて展覧会やイベントを企画。2015年より雑誌やweb媒体にて美術記事を連載・執筆。 特に、若手アーティストのネームバリューや作品の価値を上げるような記事の執筆に力を入れている。 主な執筆に小学館『和樂web』(2021~)、『月刊美術』「東京ワンデイアートトリップ」連載(2019~2021)、『国際商業』「アート×ビジネスの交差点」連載(2019~)、美術出版社のアートサイト 「bitecho」(2016)、『男子専科web』(2016~)、など。 主なキュレーションにパークホテル東京の「冬の祝祭-川上和歌子展」(2015~2016)、「TELEPORT PAINTINGS-門田光雅展」(2018~2019)、耀画廊『ホッとする!一緒に居たいアートたち』展(2016)など。」