「東日本大震災と文化財レスキュー展」代官山ヒルサイドフォーラム会場(パンフレット)
2011年3月11日に発生した東日本大震災では、国の文化財保護法に定められた文化財だけでも700件以上が被災した。現在、そうした被災文化財の救援事業が官民一体となって進められている。
文化庁は、2011年4月1日から、被害を受けた文化財等を緊急保全し、損壊建物の撤去作業等による廃棄・散逸を防止するために、「東北地方太平洋沖地震被災文化財等救援事業」を実施している。
この通称「文化財レスキュー」事業では、「被災文化財等救援委員会」が設置され、独立行政法人国立文化財機構や、全国美術館会議や、文化財保存修復学会等の関係団体が参加し、各都道府県の教育委員会等と協力して活動を行っている。
その内容は、被災した絵画、彫刻、工芸品、書跡、典籍、古文書、考古資料、歴史資料、有形民俗文化財等の動産文化財及び美術品に関する、学芸員等の専門職員の派遣や、被災状況の調査、応急処置、保存機能のある施設での一時保管等である。
また、2011年10月からは、「東日本大震災と文化財レスキュー展」(震災からよみがえった東北の文化財展実行委員会等が主催)が岩手・東京・新潟を巡回し、被災文化財とその救援活動に対する関心を一般に喚起した。
こうした被災文化財に対する救出保護や経済支援は、数多くの民間団体や教育機関等にも広がっており、海外にもその輪が広がっている。
例えば、2011年9月9日には、日本サムスンと文化財保護・芸術研究助成財団が「平山郁夫・文化財赤十字プロジェクト――東日本大震災被災文化財修復支援事業」を立ち上げ、被災地域の有形文化財の救援と修理保存等に取り組んでいる。
また、2011年10月5日には、米ニューヨークに本部を置くワールド・モニュメント財団が、緊急に保護が必要な世界中の文化遺産について国際的に支援の必要性を訴える、2012年版「ワールド・モニュメント・ウォッチ」を発表し、東北や関東の被災地域の文化財を広く選定した。ここでは、有形文化財のみならず、神事や祭事等の伝統行事として継承されてきた無形文化財も対象とされている点が特筆される。
今回のような未曾有の大災害の場合、まず優先されるのは人命の救助であり、生活の再建である。しかし、美的・歴史的伝統に基づく文化財の保護継承もまた、個人や地域社会のアイデンティティーの復興のためには重視されるべきであろう。
※秋丸知貴「時評 東日本大震災と文化財」『日本美術新聞』2012年1・2月号、2011年12月、日本美術新聞社、20頁より転載。
追記 2024年1月1日に発生した能登半島地震により、日本が地震列島であり、現在も引き続き活動期であることが改めて認識された。被災された方々に心からお見舞い申し上げると共に、改めてライフラインの復旧強化及び、忘れられがちな心のケアの一つとして文化財への保護に世間の関心が高まることを祈念したい。