Photo report 菅木志雄「ものでもなく場でもなく」@小山登美夫ギャラリー六本木 見た人:勝又公仁彦

2023年7月6日観覧

巨匠、と呼ばれる大家が齢80歳を前にして、角材を組み合わせたり、色を塗ったり、紙を折って並べたりして試行錯誤されている様子を想像すると、アーティストって可愛らしい存在だな(失礼!)とつい思ってしまった。そう思った皆さんは、アーティストを可愛がってください。あなたのやり方で、永久に。

以下ギャラリーのwebより

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

http://tomiokoyamagallery.com/exhibitions/suga2023/

 

2023.6.24 [Sat.] – 7.22 [Sat.]  11:00-19:00 日月祝休

この度小山登美夫ギャラリーでは、菅木志雄の新作展「ものでもなく場でもなく」を開催いたします。

本展は作家にとって当ギャラリーにおける11回目の個展となり、とくに2017年からは毎年精力的に個展を開催、新作を発表し続けています。今年もインスタレーションと壁面の立体作品、全て新作にて展示いたします。

菅木志雄(1944-)は、60年代末~70年代にかけて起きた芸術運動「もの派」の主要メンバーとして活動。その後50年以上も第一線で活躍し、ものの多様な存在性によって表わす本質的な作品世界で、現代アートにおける独自の地平を切り開いてきました。

またインドの中観哲学「空の思想」に共鳴した「もの」の見方を根本から問い直す視点は、作品に普遍性を与え続け、その深化と制作への情熱はとどまることがありません。

戦後日本美術を代表するアーティストの一人として、すでに国際的な評価を確立しており、今までに400を超える国内外の展覧会に参加。作品はポンピドゥ・センター、テート・モダン、ニューヨーク近代美術館、M+や、東京国立近代美術館、東京都現代美術館をはじめ、国内外40以上の美術館に収蔵されています。

主な展覧会歴、作家についての詳しい情報はこちらをご覧ください:
http://tomiokoyamagallery.com/artists/kishio-suga/

【(本展「ものでもなく場でもなく」、および新作について
―ものと全体、ものがつながる果てしない世界】

本展に際し、菅は次のステイトメントを書きおこしました。

****************
「ものでもなく場でもなく」 菅木志雄
〈もの〉があるということは、まさにそこに実体性が知覚されるからである。〈作品〉は〈もの〉であるとすると、このあとにくるのは、たいがい〈どのようなもの〉という問いかけである。実際に〈もの〉を見ている状況であれば、簡単に〈このようなもの〉と説明することもできるだろう。が、〈作品〉が眼前にあり、その説明と寸分ちがわないというのは、どこまでが〈もの〉の状況であるか不明である。とすれば、ものは本来的にそういう状況であり得るだろう。もともと作品は〈もの〉であって、説明できるようなものではなく、見た本人がそれぞれに知覚したところで、それがある〈存在〉を認めるということである。しかし、このような状況は、〈もの〉の世界を疑わないことが前提になっていると思われる。〈もの〉があるということは、それにつながる世界や状況があるからである。〈もの〉がある世界は、全体としてつながりを想起させる。このつながりが欠けると、〈もの〉の世界は見えにくい。

****************

作品制作において、菅は木や、石、金属、ロープなどの「もの」を集め、選び、「もの」同士や、空間、人との関係性に対してささやかな様々なアプローチで、「もの」の持つ多様な存在の深淵を引き出し、顕在化してきました。

「わたしは、世界は個々のものがそのちがいをきわだたせながら、レンメンと連続しているものと考えていた。だから、個的でリアルなものが、そうでなくなる思考優先の概念化は、とうてい許容できるものではなかった。」
(菅木志雄「潜在無限」、『KISHIO SUGA』東京都現代美術館個展カタログ、2015年)

菅は活動初期からその個々に散在する「もの」の存在が連なり、全体が生まれるということを常に意識してきたといいます。幼少期から森や林、川など自然の中の石や木をながめ、自然もものも人も、全ては対等で一続きであることへの気づき。「すべては分断できない。あらゆるものは存在することによって、それぞれの位置を得ている」という感覚を、作品に反映しています。

本展の新作「渡縁柱」では、白い板に多くの小さい木片が点々と配置されています。その2点の木片の上に青い細長い角材が渡り、さまざまな2点が選びとられていることで、そこに渡る角材が斜めに複雑に交差し、不安定なような、それでいてなんとも美しい、不思議な光景が現れています。

また新作インスタレーションは、ギャラリー奥スペースの床全体に、二つに折られた四角い白い紙をたくさん配置。その一つ一つが空間をとりこみ、またそれぞれの置かれている位置関係のちょっとしたずれや、折られ方の差異が影響しあってまるで見えない無限のリズムやエネルギーを放つように存在し、私たちが知っている普通の紙が初めて見るような状況を生み出しています。

多摩美術大学学長の建畠晢氏は、菅作品を「そこに見えていないものとの関係によって感知されるハーモニー」と称しました。

「ひとつのものは果てしない相互依存の関係によって他と関わっていて(私はどこで終わり、あなたはどこから始まるのか?)、その限りでわたしたちも作品の一部にほかならず、私たちもこの世界に存在する以上、終わりはどこにもない。」
(サイモン・グルーム「菅作品をフレーミングする」、『KISHIO SUGA』東京都現代美術館個展カタログ、2015年)

世界はもっと果てしないが、見えない繋がりを認識しないと世界は見えない。菅は、私たちの狭まった知覚に新たな気づきをあたえ、アートを通じて豊かに世界とどう向き合っていくかを指し示しています。この貴重な機会にぜひお越しください。

—————————————————————————————–—————————————————————————————–
プレスに関するお問い合わせ先:
Tel: 03-6459-4030 (小山登美夫ギャラリー オフィス)
Email: press@tomiokoyamagallery.com
(プレス担当:岡戸麻希子)
—————————————————————————————–—————————————————————————————–

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

アバター画像
評者: (KATSUMATA Kunihiko)

早稲田大学法学部卒業、インターメディウム研究所修了。幼少時より音楽と文章制作に注力。大学在学中からさらに絵画、写真、映像などの作品制作に移行。国内外で様々な職業に従事した後、発表を開始。インスタレーションから出発し、主に写真を中心とした映像メディアで作品を制作。多様な被写体と実験的な手法により、日常の内に現象しながらも知覚されることのなかった世界を掬い取ることで、観る者を新たな認識へと誘う。歴史・社会・文明への批評的な暗喩を込めた作品展開を続けている。近年は医療や環境をテーマとしたインスタレーションの一方でパフォーマンスも行う。
主な展覧会に「写真の現在2 —サイト— 場所と光景」(東京国立近代美術館、2002年)「都市の無意識」(同、2013年)「あいちトリエンナーレ2016」(岡崎康生会場、「トランスディメンション —イメージの未来形」2016)。主な受賞に「日本写真協会新人賞」(2005年)。主な作品集及び編著に『Compilation of photo series until 201X Vol.1』(Media Passage、2018)、『写真2 現代写真 行為・イメージ・態度』(京都芸術大学東北芸術工科大学出版局、2021)。

http://www.kunihikokatsumata.com

この評者を支援する