山本聖子《darkness》三木学評

発光する暗闇

「白い暴力と極彩色の闇」展
2015年3月3月(火)~3月22日(日)Gallery PARC

先日、京都の三条にあるギャラリーPARCで開催されていた、山本聖子展「白い暴力と極彩色の闇」を見にいった。忘れないうちに私が注目した作品について書いておこう。ただし、本展のテーマとなっている色彩の持つ政治性や暴力性については、今回はあえてふれないでおく。色彩の象徴性や異文化における色彩観の違いは、それだけで大きなテーマなのでまた別の機会をもちたい。

現代アートの世界では、90年代後半から映像を使った作品が増え、2000年代からは急増したといってもいいかもしれない。それは明らかに映像を撮影するデジタルカメラ、デジタルビデオなどのデバイスが進化し、映像を編集するソフトが非常に安価で便利になったという理由が大きいだろう。90年代はデジタル映像を処理するためには、高額なカメラとソフト、PCが必要だった。今ではスマートフォンでも映像作品を作ることは可能だ。

さて、山本聖子もその例にもれることはなく、映像を使ったインスタレーションであった。しかし、それ以前は彫刻的な作品を作っていたとのことだ。現代アートにおける映像とは、YouTube等で見るようなものではなく、サイズや空間に意味がある。つまり、映像のコンテンツだけではなく、空間に展示することによって初めて意味を持つ。現代アートにおける映像とは空間の拡張だと考えた方がいいだろう。写真もそうであるが、空間を拡張するための作品が現代アートといってもいいかもしれない。もちろん、その展示場から切り離し、インターネットにコンテンツだけを流したとしても無意味であるということではない。

今回取り上げる《darkness》(2014)と題された作品は、会場の一番手前に巨大な薄い発砲スチロールを幕にして、プロジェクターで投影されていた。この作品は、メキシコの祝い事などに使用される紙吹雪を水槽の中に入れていく。そして、紙吹雪に着色された色が水に溶けながら、徐々に水槽の色が混じり合いくすんでいき、最終的にはほぼ光を通さない黒い状態になるまでの一連の状況を撮影し映し出したものだ。

この作品には幾つか興味深い点がある。まずは、アクション・ペインティングを想起させる着色方法である。アクション・ペインティングとは、ジャクソン・ポロックなどが巨大なキャンバス、支持体を床において、ドリッピング(ポーリング)という絵の具を垂らしたり、飛散させたりする技法で絵画を描くことだ。

山本の場合は、水槽を側面から撮影することで、定着されたものではなく、その過程自体が作品になっている。水の抵抗があるために時に逆流し、重力から解放されているようにも、スローモーションで見ているようにも感じ、ランダムに落ちる紙吹雪とそこから溶ける色の軌跡に注意を引かれる。端は見えないが3次元的な奥行きがあることも視覚効果がある。

その次に、ある種の顔料による水への着色であり、色が混ざることで徐々に反射率が低くなる減法混色といえるが、それを撮影して映しているプロジェクターは、色光による加法混色で像を作っているので、両方の要素が入り込んでいることが認識を揺さぶっている。

さらに、水を通して見える色は、光源色でも表面色でもなく、透過色であり、色がくすんでいくことで透過性を失っていくということも効果を生んでいる。ドイツの心理学者のカッツは、着色液が入っている透明グラスを見たときのような、ある容積を占める透明体の色の現われを「空間色」と分類したが、それに相当するだろう。

しかし、山本の作品はくすんでいく同時に徐々に「面色」に変わっていく。「面色」とは青空のような、距離感や質感、陰影のない色の現われのことだ。つまり、空間性を持つ色が、着色の追加によって、徐々に空間性を失っていく色の現われを記録しているのである。そういう意味で、山本の作品は、色彩をモチーフにしながら、優れて空間性の追求といえる。

この作品は、山本がメキシコに滞在していたときに感じた、景観や衣装や民芸品などの華やかな色彩の奥に感じる闇(かつてスペインに征服され、複数のルーツや複雑な混血の結果、常にアイディンティティを問われる)から着想されているとのことだ。そのようなテーマと作品の関係はともあれ、メキシコに滞在したことで、異文化における色彩の認識の違いや、色と空間の問題を新たに発見したのは間違いない。ポロックの絵画がネイティブ・アメリカンの砂絵がヒントの一つになっていると考えるとさらに興味深い。

また、山本のような試みを見ると、「美術の目的は脳機能の延長である」とする神経生物学者、セミール・ゼキの言葉を思い出す。画家は優れた神経科学者とし、独自の方法で視覚脳の機構に関して実験し、理解していたという仮説に基づき、モダンアートを最新の視覚脳の知見から解読していくゼキの方法は未だ刺激的である。

山本の視覚脳の実験は、現在の私の知識ではこの程度しか解読できないが、まだまだ可能性が潜んでいるように思える。山本自身も何かを掴みかけていると思っているのではないか。さらなる実験の成果を楽しみにしたい。

初出『shadowtimesβ』2015年4月2日

三木 学
評者: (MIKI Manabu)

文筆家、編集者、色彩研究者、ソフトウェアプランナーほか。
独自のイメージ研究を基に、現代アート・建築・写真・色彩・音楽などのジャンル、書籍・空間・ソフトウェアなどメディアを横断した著述・編集を行なっている。
共編著に『大大阪モダン建築』(2007)『フランスの色景』(2014)、『新・大阪モダン建築』(2019、すべて青幻舎)、『キュラトリアル・ターン』(昭和堂、2020)など。展示・キュレーションに「アーティストの虹─色景」『あいちトリエンナーレ2016』(愛知県美術館、2016)、「ニュー・ファンタスマゴリア」(京都芸術センター、2017)など。ソフトウェア企画に、『Feelimage Analyzer』(ビバコンピュータ株式会社、マイクロソフト・イノベーションアワード2008、IPAソフトウェア・プロダクト・オブ・ザ・イヤー2009受賞)、『PhotoMusic』(クラウド・テン株式会社)、『mupic』(株式会社ディーバ)など。
美術評論家連盟会員、日本色彩学会会員。

Manabu Miki is a writer, editor, researcher, and software planner. Through his unique research into image and colour, he has worked in writing and editing within and across genres such as contemporary art, architecture, photography and music, while creating exhibitions and developing software.
His co-edited books include ”Dai-Osaka Modern Architecture ”(2007, Seigensha), ”Colorscape de France”(2014, Seigensha), ”Modern Architecture in Osaka 1945-1973” (2019, Seigensha) and ”Reimaging Curation” (2020, Showado). His recent exhibitions and curatorial projects include “A Rainbow of Artists: The Aichi Triennale Colorscape”, Aichi Triennale 2016 (Aichi Prefectural Museum of Art, 2016) and “New Phantasmagoria” (Kyoto Art Center, 2017). His software projects include ”Feelimage Analyzer ”(VIVA Computer Inc., Microsoft Innovation Award 2008, IPA Software Product of the Year 2009), ”PhotoMusic ”(Cloud10 Corporation), and ”mupic” (DIVA Co., Ltd.).
http://geishikiken.info/

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