Kawaiiによる抵抗と連帯のムーブメント「増田セバスチャン展 YES, KAWAII IS ART」三木学評

Kawaiiによる抵抗と連帯のムーブメント「増田セバスチャン展 YES, KAWAII IS ART」

《Colorful Rebellion -Seventh Nightmare》(2021)展示風景

Kawaii文化の牽引者として知られる増田セバスチャンの大規模な展覧会「YES, KAWAII IS ART」が、大阪・北加賀屋にある3か所の会場で開催されている。増田は、「裏原宿」で独特な色彩のアイテムを集めたショップ、6%DOKIDOKIを運営し、きゃりーぱみゅぱみゅのPVのアートディレクションなどで知られているが、前衛的な演劇や現代美術からキャリアをスタートしている。本展は増田の原点回帰であると同時に、Kawaii文化のリサーチやコロナ禍で世界のコミュニティとオンラインを通じて行った対話の記録、大型インスタレーションを含む、現時点での集大成的な内容となった。

増田は、原宿が歩行者天国の時代から原宿に通い、前衛的なパフォーマンスを行っていたが、常設の展示空間として1995年に6%DOKIDOKIを開設した。現代美術のマーケットが脆弱な日本で、1990年代当時、現代美術や演劇の興行のみで生活するのは困難で、一部のアーティストは世界に飛び出し、国内に残ったものは、大学や高校の教員になって兼業したり、2000年代から勃興する日本各地の芸術祭などで活動を行ってきた。その意味で、「常設の個人ギャラリー」に見立て店舗を経営する、という増田の選択肢は極めて珍しかった。後に「裏原宿」と言われて観光スポットとなる原宿の裏通りの2階に店舗を構えたが、経営の経験はなく、運営は難航したという。その後、西海岸のドラッグストアで、毒々しいまでの色彩の玩具などのアイテムを買い付け、自身の世界観を店舗に築くことで、店の評判が噂で広まり、次第に軌道にのっていく。

それらはセンセーショナル・ラブリー、センセーショナル・カワイイとして打ち出された。「カワイイ」という感性や価値観は、もともと清少納言の随筆『枕草子』の章段「うつくしきもの」で例に挙げられているように子供に代表される幼いもの、小さいもの、可憐ものであり、色彩で言えば、明度が高く、彩度が低い淡い色、いわゆるパステルカラーで表されるものだった。

増田らの活動もあり、90年代から、カワイイ色は変容していくが、おそらく80年代のファンシーカラーの一部に、海外から輸入された、高彩度の色や黒、濁った色が混じっていって出来たものだろうと思われる。原宿の歩行者天国で踊っていた「竹の子族」の服装は、まだファンシーの範囲を出ないものだったように思える。それが今日のKawaiiカラーに変異するには、増田が西海岸のドラッグストアで買い付けた毒々しい色のアイテムのように、直接、あるいはSNSを通じた世界の人々との交流は欠かせなかっただろう。もちろん、そこに90年代のガングロ/ヤマンバと言われた過剰なメイクも混ざっていると思われる。ともあれ、基調色にパステルカラー、主要色にピンク、その上に極彩色を織り交ぜていくという今日のKawaiiカラーとなり、世界的なモードとなった。

増田は、今までにないKawaiiカラーを打ち出し、人々と積極的に交流し、牽引したといえるが、最初からファッションやメイクなどの外側だけではなく、心の問題を扱っていたと思える。もともと6%DOKIDOKIに集まる若者、あるいはそれに惹かれる世界の若者は、学校や友人関係、親との関係に問題を抱えていることが多い。それでも、日本の若者の場合、幼児性を残し、カワイイものを身にまとったり、集めていても、それほど社会との軋轢はないが、西洋のような成熟を求める社会では、より抑圧は強くなる。それが逆に、海外で受け入れられた理由だろう。自身の心とは違う大人びた格好、態度をするのではなく、自分の心、趣味に従っていいのだ、ということを示すことになった。

幼児性を抱えた「大人」が、それを隠すのではなく、ある種の「開きなおり」として、ファッションやメイクで過剰に表現し、社会的抑圧に態度で反抗するのが、Kawaiiのスピリッツといってもいいかもしれない(それは少しドラァグ・クイーンの経緯に似る)。日本語のカワイイという言葉が、Kawaiiとなり、色彩と精神が分かちがたいものとなり、態度表明となって表れたのが、Kawaiiムーブメントといってよいだろう。それを幼児退行と指摘する人はいるだろうが、「退行」ではなく、むしろ自覚的に幼児性を維持し、拡張させているのだ。また、その反抗性は外に対して攻撃的なわけではなく、あくまで自身の精神を維持させる、防衛的なのものである。

キリスト教やイスラム教のようなメジャーな宗教文化の土壌がなく、仏教といっても神道や民間信仰と強く結びついている日本の感性や価値観が、変異した形で世界に普及している状況は非常に興味深い。だからこそ世界の隙間に浸透したともいえる。禅もまた日本から発信された精神性といえるが、ファッションとの関係は薄く、色彩もわびさびの感性と近く質素で枯れた色が主である。カワイイは、室町時代以降に醸成されたわびさびのような価値観よりも、さらに古層の平安時代からの感性や価値観を継承し、そこから現在の世界の文化と融合し、変容した。もっとも古く、もっとも新しいところに特徴があるし、可能性がある。

2011年、増田は、6%DOKIDOKIの常連だったきゃりーぱみゅぱみゅのPVにアートディレクターとして抜擢され、それがYouTubeで公開後、爆発的な再生数となったこともあり、様々なジャンルでアートディレクションを依頼されるようになる。特にプロデュースしたKAWAII MONSTER CAFÉは、極彩色の配色と独特な世界観で評判となり、ケイティ・ペリーら海外の著名人が訪れ、Kawaii文化のスポットになった。

2014年からは原点回帰として、アーティストとしての活動を再開し、ニューヨークのチェルシーで部屋型インスタレーション作品《Colorful Rebellion -Seventh Nightmare-》を発表している。この時、ギャラリーを室内に見立て、壁面に世界中から集めた玩具などの原色や飾りなどを貼り付けた。邦題では、「反抗的色彩」と訳されており、Kawaiiが反抗的な意味があることが明らかになっている。反抗的と言っても、「フラワーチャイルド」のような非暴力的な平和運動に近く、社会制度や抑圧に対する反抗といっていだろう。実際、原宿の歩行者天国や増田が初期に買い付けをしていた西海岸にも、多かれ少なかれヒッピー・ムーブメントの影響があるといえる。

副題のSeventh Nightmare(7つの悪夢)は、カトリックでいう「7つの大罪」を意味している。「7つ大罪」とは、カトリックにおける人間の罪の源となる想念のことで、傲慢・強欲・嫉妬・憤怒・色欲・暴食・怠惰のことである。ただし、それは仏教においても三毒のような近い概念はあり、地獄につながる煩悩を排除して心を安寧に維持するのが、禅などの瞑想のテクニックといってよい。増田は、反抗的な色彩、幼児的なアイテムで包むことで、「罪」が生じる自身の心の中を表し、同時に、それがKawaiiの根源にあるものだと示している。人間である限り、すべての欲を捨てることはできないし、心の根幹となる個性を明らかにしようとしているのだ。この作品は、極寒のNYで1000人以上の人々が並ぶほど評判となり、その後、フロリダ、ミラノ、アムステルダム、アントワープに巡回展示された。

今回の展覧会では、最初にNYで発表した「色の部屋」に加えて、「光の部屋」と名付けられた明るい部屋と、「音の部屋」と名付けられた「暗い部屋」の3つからなる巨大インスタレーションとして構成されている。元家具屋の廃墟を改装した吹き抜けの空間には、3つの部屋が並んでいる。全体は暗いが、それぞれの部屋まで、足元に蝋燭のような電灯が等間隔に照らされている。左の一番高い階段の上にある「音の部屋」に入ると、下から弱くライトが照らされているが、暗闇になっており、抑揚のある壁面には水が流れている。右の低い階段の上にある「光の部屋」は、入った瞬間、白い綿があり、全体が明るく照らされている。中央の「色の部屋」と併せて、明暗と色彩が構成されており、増田の心の中に潜入するようになっている。同時に、それらは鑑賞者自身の色であり、それらを体験して、自分自身の心を見つめ直すことになる。

もう一つの移動式のベッドによる体験型のインスタレーション作品、《Fantastic Voyage, Prototype II》は、コロナ禍の非常事態宣言が発出され、家に閉じ込められた時に考えたことを元にしている。増田は、比叡山に行き、常に社会から隔離されて籠る環境で、修行したり、社会のために祈ることの行為を参考にしたという。2021年2月、東京の北千住「BUoY」で、3日間のみ発表され、今回、大阪・北加賀屋用に内容が更新されている。今後もスペースによってバージョンアップされていくという。

観客が、ベッドに乗ると透明なビニールのカプセルのカバーで閉じられ、ベッド自体が移動する。天井には映像が上映されていたり、様々な飾りが吊るされていたり、モニターが設置されていたりする。顔の部分が四角くくり抜かれており、息がしやすいようになっているが、それ以外は、透明なカプセルで光が複雑に反射しており、歪んだ風景を見ることになる。また、ヴァイオリンやピアノと電子音によるドローンをベースにした環境音が流れている。

体が固定され、自身の意思として身動きがとれないが、ベッドによって移動し、映像や飾り、音楽によって、感情を揺り動かされる。おそらくそのようにベッドを動かされるのは、入院したときか、亡くなったときだろう。実際、筆者も入院時に天井を見ていたことを思い出し、様々な過去のことが走馬灯のように現れては消えて行った。それはある種の臨死体験といってよい。

実際、比叡山を含め、山に籠って修行することは、「擬死再生」と言われ、一度、母なる山の母胎に帰って、生まれ変わることを目的としている面がある。同じように隔離社会を経て創造性を発揮するには、根源的な自分自身の欲望の確認を行い、抑圧されている何かに気付くことが重要だろう。増田の装置は、自分自身を見つめ、抑圧から突破する生命力や精神を取り戻すきっかけになるのではないか。

カワイイという、幼きもの、小さきものに向けていた感性が、自分自身の心の根幹にあるものであり、それを表現することで、社会的な抑圧に非暴力的な形で反抗し、人々とつながっていくというKawaiiへと変容し、ムーブメントになったのは増田の影響が大きいだろう。ただし、どのような人々にも社会の人々にも心の古層があり、誰もが無関係ではない。大人の中には子供の記憶が眠っている。そして、Kawaiiは、今日、悲劇的な地球環境が迫る中、大人の利己主義的な行動に、いらだつ若い人々の心にもつながっているともいえる。

Kawaiiの感性と思想が確実に共有されていることが、本展で展示されているリサーチで明らかになっている。そこでは、増田がコロナ禍で行った声明文「Kawaii Tribe」が自主的に世界のコミュニティに訳されて伝播した記録や、コミュニティとのZOOMを使った対話「Kawaii Tribe Session」の記録映像があり、国、宗教、性別などの異なる人々が驚くほど共通の認識に立っていることがわかる。下記にあるセッションに参加した人々のコメントをあげておきたい。

「Kawaiiは普段言いにくいことを外に出せる出口でもある。ふつうにはとても暗くて人々が話題にしたがらないようなことでも、Kawaiiパッケージに包めば状況も変わってくる。Kawaiiなら人々は受け入れてくれる。」

「わたしがKawaiiと思って着ているものに対して、誰も「あなた間違っているわよ」なんてことは言えないの。これってすでにとてもポジティブなことだと思う。わたしが信じるKawaiiに対して人々は止めることはできないから。」

「典型的な可愛いものだけではなく、いまやたくさんのことをKawaiと呼べるのがいい。~中略~誰かを怖がらせるプラスチックのゴキブリだって、わたしがKawaiiと思えばKawaiiになる。」

「僕のハートをあたたためてくれるものなんだ。ラブリーであたたかくとてもいいエネルギーとスピリットを持ちあわせたものなんだ。」

コロナ禍で、Black Lives Matter(BLM)のムーブメントが、世界に波及し、多くのアーティストも声を挙げたが、日本人のアーティストが色彩をメタファーに、多様性を呼び掛けた点も特筆すべきだろう。これはアートではない、自分自身には関係がない、と思う人ほど体験すべき展覧会であろう。

 

増田セバスチャン「Yes, Kawaii Is Art」
第1会場「kagoo(カグー)」
展示作品:Colorful Rebellion -Seventh Nightmare- 他
会期:2021年10月30日(土)〜11月21日(日) *月・火・11月17日(水)休廊
時間:12:00〜18:00
住所:大阪市住之江区北加賀屋5-4-19

第2会場「音ビル」
展示作品:Fantastic Voyage
会期:2021年11月5日(金)、6日(土)、7日(日)、12日(金)、13日(土)、14日(日)
時間:13:00〜14:00/15:00〜16:00/17:00〜18:00 *11月14日(日)は17:00〜18:00のみ
鑑賞予約:https://sebastianmasuda.com/works/osaka/voyage/
住所:大阪市住之江区北加賀屋5-5-1

第3会場「千鳥文化」
展示作品:Colorful Rebellion -WORLD TIME CLOCK- 他
会期:2021年11月12日(金)〜11月21日(日) *月・火・水 休廊
時間:12:00〜18:00
住所:大阪市住之江区北加賀屋5-2-28

https://sebastianmasuda.com/works/osaka2021/

評者: (MIKI Manabu)

文筆家、編集者、色彩研究者、ソフトウェアプランナーほか。
独自のイメージ研究を基に、現代アート・建築・写真・色彩・音楽などのジャンル、書籍・空間・ソフトウェアなどメディアを横断した著述・編集を行なっている。
共編著に『大大阪モダン建築』(2007)『フランスの色景』(2014)、『新・大阪モダン建築』(2019、すべて青幻舎)、『キュラトリアル・ターン』(昭和堂、2020)など。展示・キュレーションに「アーティストの虹─色景」『あいちトリエンナーレ2016』(愛知県美術館、2016)、「ニュー・ファンタスマゴリア」(京都芸術センター、2017)など。ソフトウェア企画に、『Feelimage Analyzer』(ビバコンピュータ株式会社、マイクロソフト・イノベーションアワード2008、IPAソフトウェア・プロダクト・オブ・ザ・イヤー2009受賞)、『PhotoMusic』(クラウド・テン株式会社)、『mupic』(株式会社ディーバ)など。
美術評論家連盟会員、日本色彩学会会員。

Manabu Miki is a writer, editor, researcher, and software planner. Through his unique research into image and colour, he has worked in writing and editing within and across genres such as contemporary art, architecture, photography and music, while creating exhibitions and developing software.
His co-edited books include ”Dai-Osaka Modern Architecture ”(2007, Seigensha), ”Colorscape de France”(2014, Seigensha), ”Modern Architecture in Osaka 1945-1973” (2019, Seigensha) and ”Reimaging Curation” (2020, Showado). His recent exhibitions and curatorial projects include “A Rainbow of Artists: The Aichi Triennale Colorscape”, Aichi Triennale 2016 (Aichi Prefectural Museum of Art, 2016) and “New Phantasmagoria” (Kyoto Art Center, 2017). His software projects include ”Feelimage Analyzer ”(VIVA Computer Inc., Microsoft Innovation Award 2008, IPA Software Product of the Year 2009), ”PhotoMusic ”(Cloud10 Corporation), and ”mupic” (DIVA Co., Ltd.).
http://geishikiken.info/

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