大正から昭和にかけて活躍なさった小早川秋聲[こばやかわしゅうせい/本名・盈麿(みつまろ)/1885-1974]さんの作品で、これまで私が知っていた作品はただ1つ。従軍画家として戦地に何度も赴いた末に終戦間近に描いたこちらの作品(写真向かって左)です。
《國之楯(くにのたて)》1944年(左)、右側は《國之楯》の下絵
尊厳に満ちつつも深い悲しみに包まれた絵。。。小早川さんというともっぱらこの絵が出てくるので、どうしても暗いイメージを持ってしまっていたのです。
ところが、10月から東京ステーションギャラリーで開催中の『小早川秋聲 旅する画家の鎮魂歌』展を訪れて、イメージは一変!
あらゆる武術に精通しつつ、饒舌で旅と冒険が大好き、そして僧侶でもあるお方。なかなかハンサムです♪
北海道、山陰、紀州など日本各地を絵に描き、国外では複数回の中国渡航に加え、1922年から23年にかけてアジア、インド、エジプトを経てヨーロッパ十数ヵ国へ遊学。1926年には北米大陸を横断し、日本美術の紹介にも努めました。(東京ステーションギャラリーより)
というのですから驚きです👀 戦前からこんなに多様な国々を巡っている!しかも「絵を描くために留学しました」みたいなマジメな感じではなく、まるまる1年気の赴くままに「遊学」しているのです。
30代後半で、そんな「グランドツアー(Grand Tour)」をしただなんて、イギリスの裕福な貴族の子弟みたいだな~。
そんな異国体験を自由に描いた日本画やスケッチに徐々に魅了されていきます。
旅の途中では、先住民の秘境を訪ねたり、武装集団にとらわれたけど馬術と武術の腕を認められて勧誘されたり、アルプス山脈へ登山して遭難しかけたり。。。(河野沙也子さんによる秋聲の生涯を紹介する漫画4ページから引用)とにかく、ワイルドに冒険したみたいですね。
おっと、ちょっと時代が前後しますが、30代前半には、日本各地を旅してまわったこんな小品群も!
おじいさんが樽で入浴しているシーンがなんともいえない!
同じ時期に、かわいらしい十二支の絵巻も描いています。
十二支の絵巻が写った展示風景 ©若林勇人
従軍画家として戦地に何度も赴くようになったのは、40歳くらいから。
青白い月明かりの下、戦士した兵士を葬る様子の悲しい静けさがみなぎる《護国の英霊》(写真左)1935年
小早川さんの戦争画は、寝食を共にした戦友たちの様子を、ありのままに描いているものが多いように感じます。そして、彼の戦争画の中でも特に人々の心を打ったのが、最初にご紹介した《國之楯》です。
《國之楯》1944年、1968年改作 京都霊山護国神社(日南町美術館寄託)
でも、小早川秋聲の代表作というと、なぜこの作品ばかりが繰り返しでてくるのでしょう?小早川さんは、1974年に88歳でお亡くなりになっていますが、これだけの方ですから、戦後にも名作を多数残していても良さそうなのに!
それについては、この展覧会図録や、河野沙也子さんによる漫画を読み、ちょっと謎が解けたような気がします。「従軍中の疲労から内臓を病んでしまったため、1947年以降は画壇への出品を控え」て「雑誌への絵と文の執筆を盛んに行った」ということが理由の1つとしてありそうです。
それでも、71歳の時にこんなにパワフルな、金色の大作を描いています。
笑顔づくしの人々が、仲良く踊りながら太陽へ向かう☀その絵のタイトルは《天下和順》。
小早川秋聲《天下和順》1956年 鳥取県立博物館蔵(写真左)
小早川さんの平和への祈りに感謝☀
【開催概要】
会期 :2021年10月9日(土)〜2021年11月28日(日)
会場 :東京ステーションギャラリー 住所 東京都千代田区丸の内1-9-1
休館日 : 月曜日
※ただし、11月22日(月)開館
観覧料 : 一般 1,100円
高校・大学生 900円
中学生以下 無料
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