アメディオ・モディリアーニ《髪をほどいた横たわる裸婦》1917年
橋下徹大阪市長が言及した、大阪市立近代美術館建設計画の白紙化が話題を呼んでいる。
大阪市立近代美術館は、1983(昭和58)年に大阪市制100周年記念事業として構想され、1990(平成2)年に建設準備室を設置。1998(平成10)年に、中之島の大阪大学医学部跡地が建設予定地として購入され、同年基本計画が策定された。
収蔵品としては、大阪市出身の佐伯祐三《郵便配達夫》等の約3500点の寄贈を受け、アメデオ・モディリアーニ《髪をほどいた横たわる裸婦》(19億3000万円)、サルヴァドール・ダリ《幽霊と幻影》(6億3000万円)等、既に153億円の美術品を購入し、約4500点の作品を所有している。
しかし、バブル崩壊を経て、2004(平成16)年に、当時の関淳一市長が財政難等を理由に計画を凍結。2007(平成19)年に計画を再開した当時の平松邦夫市長も、2010(平成22)年に発表した「大阪市立近代美術館整備計画(案)」で、延床面積を2万4000平米から1万6000平米へ、整備費を280億円から122億円へ縮小し、さらに2011(平成23)年5月に事業費を追加で一割削減する方針を決めていた。
これに対し、同年12月に徹底した財政改革を掲げて新市長に当選した橋下氏が、建設計画の一からの見直しを表明。不建設の場合の国への用地購入契約上の違約金約48億円の支払いや、所蔵作品の売却も辞さない姿勢を示したため、全国的に大きな注目を集めた。
ただし、橋下氏の大阪市立近代美術館建設計画の白紙化は、「大阪市単独での建設」についてであり、「美術館の建設」自体についてではないことに注意したい。
事実、橋下氏は2011(平成23)年2月2日に自身の公式ツイッターで次のように述べている。「僕は美術館が要らないと言っているわけではありません。こんな290億円の事業をまた大阪市が単独でやるの? これこそかつて誤ってきた二重行政の典型例なんです。大阪府は現代美術品を抱え込んで、現代美術センターを作りたい。そしたら大阪全体のことはまとめてやったらいいじゃないの」。
大阪市立近代美術館の建設の是非や具体的内容はともかく、初めに建設ありきではなく、より良い美術館を目指して建設の文化的意義や経済的合理性を広く議論の俎上に載せた点では、橋下氏の建設計画の白紙化は高く評価できる。今後の展開を、期待を込めて見守りたい。
既に大阪市には、市の大阪市立美術館、東洋陶磁美術館、旧サントリーミュージアム、府の大阪府立現代美術センター、国の国立国際美術館等が存在する。これらが個々に特色を発揮しつつ相互に連携すれば、大阪市は一大ミュージアム・コンプレックスとして大きな可能性を秘めている。もし芸術作品を通じて人々の心を豊かにし、文化的・経済的にも地域や国際社会に貢献できるならば、大阪市立近代美術館は決して不要ではないだろう。
ぜひ大阪に、パリのオルセー美術館やニューヨーク近代美術館に並ぶ、素晴らしい近代美術館を!
※秋丸知貴「時評 大阪市立近代美術館は不要か?」『日本美術新聞』2012年3・4月号、日本美術新聞社、2012年2月、20頁より転載。
追記 なお、この記事でいう「大阪市立近代美術館」は、2022年2月2日に「大阪中之島美術館」として無事に開館し、現在大阪のみならず関西、さらには全国でも最もホットなアートスポットの一つとして賑わっている。一アートファンとして、長年設立準備に携わられた関係者諸氏の労を多としたい。
また、現在中之島美術館では、その歴史的・文化的立地条件を最大限に生かした「決定版! 女性画家たちの大阪」展が開催中である。この展覧会について、明治以前の「日本美術」のリアルな伝統を最も継承したのは大阪ではないかという瞠目すべき指摘が下記のレヴューによりなされたことを付記しておく。