肉体と精神の限界に迫る「パフォーマンス・アート」の先駆者マリーナ・アブラモヴィッチさんの驚異的な若々しさはどこから?「高松宮殿下記念世界文化賞」記者会見にて

世界の優れた芸術家に贈られる高松宮殿下記念世界文化賞(公益財団法人日本美術協会主催)第36回の受賞会見が2025年10月21日、オークラ東京で行われました。
高松宮殿下記念世界文化賞では毎年、世界の芸術家を対象に絵画、彫刻、建築、音楽、演劇・映像の5部門において受賞者が選ばれ、賞金は1500万円です。
2025年の受賞者も、ヒラリー・ロダム・クリントン(元米国務長官)らそうそうたる国際顧問達の推薦リストに基づいて、日本の選考委員会が候補者を選び、日本美術協会理事会で最終決定しました。

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今回の受賞者は、絵画部門=ピーター・ドイグ(66)<イギリス>、彫刻部門=マリーナ・アブラモヴィッチ(78)<セルビア>、建築部門=エドゥアルド・ソウト・デ・モウラ(73)<ポルトガル>、音楽部門=アンドラーシュ・シフ(71)<イギリス>、演劇・映像部門=アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル(65)<ベルギー>の5部門5氏です。

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受賞者のみなさん

例年この受賞会見では、合同記者会見の後、それぞれの受賞者が各個室に移り、より詳しい取材の機会を得られる受賞者個別記者懇談会が実施されます。 実はこの個別記者懇談会、受賞者と少人数の記者たちが向かい合い、場合によってはざっくばらんな本音トークも聞けたりして貴重な期待なのです。

私は、自らの身体を使って表現し、時に観客も作品の一部となる「パフォーマンス・アート」の先駆者である、マリーナ・アブラモヴィッチさんの個別記者懇談会に参加することにしました。
実験対象として観客に自身の身体を委ねた《リズム0》(1974年)では、装填された銃を頭に突き付けられたり、別のパフォーマンス作品《リズム5》(1974年)では、酸欠で意識不明になるなど何度も命を落としかけたりし、レジェンダリーなパフォーマンスを続けている彼女に惹かれたから。

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マリーナ・アブラモヴィッチ The Artist Is Present, 2010 ニューヨーク近代美術館(MoMA)

そして、初めて生身の彼女を目の前にしたのですが、78歳には全く見えず、すれ違ったときのオーラからは、40代、いや、30代とも言えるエネルギーを感じたから!身体と精神の限界に挑んできたアグレッシブなパフォーマンスは、時に、心と体を痛めつけて劣化させてしまうのではないかと思えるものもあるのになぜ?とにかくもっと彼女のお話を聞いてみたいと思いました。

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個別記者懇談会でのアブラモヴィッチさん

さて、約20名ほどの記者たちが集まった個室での記者懇談会は、いつも通り改まった雰囲気で、当たり障りのない質問から始まったのですが。。。

一通り丁寧にそして情熱的に答えたアブラモヴィッチさんは、「ところであなたはまだ質問していないでしょ?何か質問してちょうだい」と、記者を指名し始めたのです。

あ、あたらしい!!!

そしてその方の質問に答え終わると、また「あなたもまだ質問してないでしょう?」と言って指名しました。「私は全員の方に質問していただいてからここを去ります」とのこと。

きゃー!ちょっと怖いけど、ステキ。。。という事は、私も指名されるということ。。。ずっと待っているのも嫌なのでこの際手を挙げて自分から質問しました。

「アブラモヴィッチさんは、現在の78歳という年齢を気に入っていて、若い年齢になりたいとは全然思わないとおっしゃっていましたが、しかしながらとてもお若く見えて40代や30代とも思えるほどです。厳しいパフォーマンスに挑んでこられたからこそ、それに耐えうる身体、精神を鍛えるトレーニングをなさってきたのでしょうか?もしそうであればどのようなものか教えていただけますか?」

クスッと笑ってから伝えてくれたアブラモヴィッチさんの答えは次の通り!

「みなさんは、私がいろいろなことをやるので、普段特別なことをやっているのだろうと思われるようなのですが、むしろそういうことができるように、普段は普通にしています。毎日を普通に過ごすということが重要なのです。睡眠時間は8時間、睡眠薬も何も使わずに眠ります。アルコール類は一切飲みません。でもチョコレートが大好きです(笑)。1箱もらうと全部食べてしまいます(笑)。本当は気をつけないといけないのですが!そして普通にセックスライフを楽しむことです。年をとりすぎただとか閉経だとか、そんなのは馬鹿げています。現在の私のパートナーは31歳年下です。同年代なんて全然だめです。歳だからとかそんなことはできないからとか言われるので。そして何よりハッピーでいることです。私は朝起きると馬鹿みたいにエネルギーに満ち溢れています(笑)」。

なんてチャーミングなんでしょう!完全に共感&魅了されました♪

そして今日の個別記者懇談会でわかった事は、アブラモヴィッチさんは突き抜けて寛容で優しいということ。パフォーマンスが「過激」と表現されたりするので、人にも怖いのかと思いきや全然違う。過激なのは「自分の体に対して」であって、「人に対しての攻撃ではない」ということがとてもよくわかったのです。アブラモヴィッチさんは、すべての質問を柔らかいクッションのように受けとめ、温かい言葉で丁寧に答えてくれました。

そして最後に、この記者懇談会は、インタラクティブなパフォーマンスになっていた!!!
空前のすばらしい会見に感謝!!!

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アーティストと交流しながら美術に親しみ、作品の鑑賞・購入を促進する企画をプロデュースするパトロンプロジェクト代表。東京大学文学部社会学科修了。 英国ウォーリック大学「映画論」・「アートマネジメント」両修士課程修了。 2014年からパトロンプロジェクトにて展覧会やイベントを企画。2015年より雑誌やweb媒体にて美術記事を連載・執筆。 特に、若手アーティストのネームバリューや作品の価値を上げるような記事の執筆に力を入れている。 主な執筆に小学館『和樂web』(2021~)、『月刊美術』「東京ワンデイアートトリップ」連載(2019~2021)、『国際商業』「アート×ビジネスの交差点」連載(2019~)、美術出版社のアートサイト 「bitecho」(2016)、『男子専科web』(2016~)、など。 主なキュレーションにパークホテル東京の「冬の祝祭-川上和歌子展」(2015~2016)、「TELEPORT PAINTINGS-門田光雅展」(2018~2019)、耀画廊『ホッとする!一緒に居たいアートたち』展(2016)など。」