つぎはぎの島をつなぐ-三瀬夏之介『日本の絵』三木学評

つぎはぎの島をつなぐ

三瀬夏之介君は、奈良県にある公立高校美術部1年下後輩にあたる。そ三瀬君が、画家「三瀬夏之介」として浮上してきたは、2000年を過ぎてからことだろうか。最近では次代を担う日本画家として、メディアを介して彼目覚しい活躍を目にするようになった。

彼を覚えていたは「夏之介」という個性的な名前もさることながら、そ画風強烈さが忘却を拒絶するもだったということもある。混色を繰り返し泥ようになった具を塗り重ね、塑像を作るかような手法で、平面を岸壁ように「立体化」させていた。それは今日画風と印象は変わらず、高校時代から確固たるもを持っていたは間違いない。彼がなぜ日本画を専攻したか理由はわからない。少なくともポスターカラーでケント紙に描いていた頃は、そ画風から洋画家になると思っていた。

しかし、彼は日本画家道を歩み、20年後『日本』という画集を上梓することになった。こ本には、私が記憶している画学生・三瀬夏之介君と画家・三瀬夏之介連続性と亀裂が混在となっており、彼特有継ぎ接ぎようなによって脳裏をえぐられるような感覚になる。そ亀裂は彼画家として成長と、こ20年間に起きた出来事両方に要因があるだろう。

彼が転機となった出来事として本冒頭に上げている1995年阪神大震災と地下鉄サリン事件は、日本が安定した空間ではなく、むしろ、自然や人間社会が戦後ある期間、奇跡的に力が拮抗する安定状態にあったことを逆説的に明らかにした。奈良に育った人間にとって、それは二重に衝撃的な出来事であった。一つは「地震は関西では起こらない」、もう一つは「宗教は人間心を安らげるもである」という思い込みである。そ根底をひっくり返されると、安定性拠り所を喪失してしまう。そ衝撃と傷は私にとっても同様に深いもだった。

それでも、奈良山に囲まれた盆地風景は、心に安定性を与えるもであることは間違いない。それは災害多い列島で暮らていた古代倭人=後日本人が選んだ最もリスクが少ない土地であるから当然だろう。しかし、京都と違って早々に都ではなくなった奈良持つ歴史性はあまりに日常と離れており、大阪ベットタウン、新興住宅地街でもあるため日本で一番新旧分裂状態をもたらしている場所であるとも言える。

彼が奈良から日本起源を問う時、距離的な近さと時間的な遠さを埋めなければならず、さらにそれを日本画という明治以降作られた伝統で描こうとすると、矛盾を埋めるために様々な継ぎ接ぎを強いられることになる。しかし、彼モチーフ一つである奈良大仏が、地震による崩落や二度兵火を経て、継ぎ接ぎされながらも今日まで現存するように、彼は信心と疑念、過去と現在、西洋と日本に引き裂かれている状態を、 ギリギリでありながらも力強く繋ぎとめているようにも見える。

射程は、京都で学生生活、イタリアへ留学、東北へ移住、さらに東日本大震災を経て、日本全土に拡がっている。今日、彼描く「日本」は、破壊れさ続け、亀裂を生み続けることを宿命的に背負っている日本列島を、何度も何度も継ぎ接ぎしているように見える。時に泥ように浅黒く、岸壁ようにどす黒く塗り重ねられ、深く皺入った和紙「不連続面」中に散見される日本顔料、鉱物を砕いた色彩を帯びた光が僅かな期待や希望ようにも思えてくる。そして、それはこ列島で採れたり加工されたりした石や木が定着した地肌であり日本だ。

それが分野として日本画であるかかないか、という議論はあるかもしれない。あえて言うなら明治以降日本画ではなく、戦後日本画と呼ぶべきもであっただろうし、現在では、二つ震災を経て震災後日本画となっただと思う。しかし、それはいつでも「後」が「前」に変わるような不安定さを秘めたもだ。そ不安定さ起源を辿るため、彼は日本列島で描かれてきた様々な「古層を発掘しようとしているように思える。それら試みは逆説的に彼を日本画を牽引する存在にしている。

今となっては、高校時彼が描いていたは、今日不安(定)な時代を予言的に描いていたかもしれない。彼が本質的に変わらない部分があるとしたらそせいだろう。奈良という日本起源場所にいたからこそ、見えてくる日本姿があった。そして、今日、彼は移動と経験を重ねAmazonリンクを追加たことによって、地理として日本、社会として日本が混在した姿を捉えようとしている。それを掴まえたと思った瞬間、手からこぼれ落ち、バラバラに砕けてしまったとしても彼は継ぎ接ぎを続けるだろう。それが三瀬夏之介であり、日本日本似姿なだから。

初出『shadowtimes』Vol.38、2013年8月8日

 

評者: (MIKI Manabu)

文筆家、編集者、色彩研究者、ソフトウェアプランナーほか。
独自のイメージ研究を基に、現代アート・建築・写真・色彩・音楽などのジャンル、書籍・空間・ソフトウェアなどメディアを横断した著述・編集を行なっている。
共編著に『大大阪モダン建築』(2007)『フランスの色景』(2014)、『新・大阪モダン建築』(2019、すべて青幻舎)、『キュラトリアル・ターン』(昭和堂、2020)など。展示・キュレーションに「アーティストの虹─色景」『あいちトリエンナーレ2016』(愛知県美術館、2016)、「ニュー・ファンタスマゴリア」(京都芸術センター、2017)など。ソフトウェア企画に、『Feelimage Analyzer』(ビバコンピュータ株式会社、マイクロソフト・イノベーションアワード2008、IPAソフトウェア・プロダクト・オブ・ザ・イヤー2009受賞)、『PhotoMusic』(クラウド・テン株式会社)、『mupic』(株式会社ディーバ)など。
美術評論家連盟会員、日本色彩学会会員。

Manabu Miki is a writer, editor, researcher, and software planner. Through his unique research into image and colour, he has worked in writing and editing within and across genres such as contemporary art, architecture, photography and music, while creating exhibitions and developing software.
His co-edited books include ”Dai-Osaka Modern Architecture ”(2007, Seigensha), ”Colorscape de France”(2014, Seigensha), ”Modern Architecture in Osaka 1945-1973” (2019, Seigensha) and ”Reimaging Curation” (2020, Showado). His recent exhibitions and curatorial projects include “A Rainbow of Artists: The Aichi Triennale Colorscape”, Aichi Triennale 2016 (Aichi Prefectural Museum of Art, 2016) and “New Phantasmagoria” (Kyoto Art Center, 2017). His software projects include ”Feelimage Analyzer ”(VIVA Computer Inc., Microsoft Innovation Award 2008, IPA Software Product of the Year 2009), ”PhotoMusic ”(Cloud10 Corporation), and ”mupic” (DIVA Co., Ltd.).
http://geishikiken.info/

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