7月22日に、銀座(東京・中央区)のシンワオークションにて「近代美術/コンテンポラリーアート/近代美術PartⅡ」が開催されました。前日までの3日間に開催されていた下見会の様子も含めてレポートします。
オークション当日は、出品される作品の実物を見ることができないので、作品実物の状態に興味がある場合は、下見会でも見ておくことがおすすめです。下見会は、期間中どなたでも予約なしで入ることができます。
下見会場でまず目に入ったのは、川合玉堂の屏風「松籟潮聲秋山遊鹿」です。川合玉堂といえば、広尾の山種美術館でもよく展示される日本画の巨匠です。色数は少なくあっさりとした風合いですが、左隻に描かれた鹿が初々しく、二双合わせて清々しい情景が広がります。
キャプションに書いてあるエスティメイト(落札予想額)は、120万円から180万円。この巨匠の屏風にしてはお手頃なのでは?スタッフの方に伺うと、「川井玉堂をお好きだったりお持ちになったりしている方が高齢化していることもあり、最近は手放されることが多くなっています。値段も一時期よりは安くなっていますので買い時とも言えるでしょう。昔は高くて買えなかったけれど、10年越しで、この値段であればやっと買えると喜ばれる方もあります。良い方に持っていただき大事に飾ったり保管したりしていただくと作品の状態も良好に保たれますので、ぜひそのような方の手に渡ると良いなと考えています」とのこと。
オークション当日の落札価格は、エスティメイトの上値を超えて300万円でした。大事にされますように。
小ぶりながら、密度の高い質感が魅力的な千住博の原画2点も気になりました。「瀧図」と「タイドウォーター・ロンド」です。エスティメイトはそれぞれ300万円~500万円と600万円~900万円。結果はいかに?
「瀧図」は競って560万円で落札。「タイドウォーター・ロンド」はそれほど上がらず、600万円で落札されました。やはり、千住博といえば「瀧」というシグネチャー的な作品が人気なのでしょうか。
それほど大きくないものの、静かな存在感を感じたのが佐伯祐三の油彩「街角」です。
大正・昭和初期に活躍した洋画家。大阪、東京、パリの3つの街に生きましたが、画家としての短い活動期間の大部分をパリで過ごし、30歳で客死したというドラマ性も手伝って人気です。2023年には、「東京ステーションギャラリー」と「大阪中之島美術館」にて大規模な回顧展「佐伯祐三自画像としての風景」が開催されて、再度注目を集めています。
展示されていた作品は、佐伯が亡くなる3年前の時のものです。パリの曇り空のもと、渋めの赤と黄色と青で塗られたアパルトメントが描かれています。
第一次パリ時代に描かれたこの作品のポイントは、右上に書かれたサインと年記!
第二次パリ時代に花開いた、佐伯独自のパリ風景の中に描かれた乱舞する文字たちを予感させます。値段もエスティメイト上値の1800万円を大幅に超えて競り、2700万円での落札となりました!
なんとヴァイオリンも弾いたこのドラマチックな画家についてもう少しお知りになりたい方は読売新聞「美術展ナビ」の記事もおすすめです⇒【探訪】「佐伯祐三 自画像としての風景」⇒
https://artexhibition.jp/topics/news/20230208-AEJ1230279/
対して、佐伯が25歳でパリに渡った際に作品を見せたところ「このアカデミック!」と彼に怒声を浴びせたというエピソードが有名なヴラマンクのこちらの作品は?
エスティメイト上値の500万円は上回ったもののそれほど競ることはなく、520万円での落札となりました。
天国では、「アカデミック、君もやるじゃないか」(ヴラマンク)、「いやーそれほどでも」(佐伯)などという会話が繰り広げられていたりするのでしょうか。
60年代の作品ながら、素材と制作方法が極めてユニークで気になったのがこちらの作品です。最初、焼き物の陶板のようなものかと思ったのですが、なんとボンドによって制作したレリーフでした!謎めいた代物ながら、エスティメイトは500万円から800万円とあります。作者は松谷武判。
松谷武判は、前川強、向井修二とともに「3M」と呼ばれ、具体美術協会の第2世代を代表する存在としてグループに新風を吹き込んだ美術家とのこと。1966年にフランス政府給費留学生として渡仏して以来、現在に至るまでパリを拠点に制作活動を行い、近年はポンピドゥー・センターで個展を開くなどインターナショナルにご活躍の作家さん。
落札価格は、620万円でした。
日本で27年ぶりとなる大型個展が東京都現代美術館で開催されていて話題のデイヴィッド・ホックニーのリトグラフ(版画)もありました。
落札価格は、エスティメイト高値の600万円でした。
現役中堅アーティストで目立っていたのは今井麗。青い大きな目をした人形とバレエシューズがちょっと不気味な作品で、エスティメイトは15万円~25万円。
オークションではみるみるうちに値が上がり、220万円で落札されました。
大学院在学中の2006年頃より個展を中心に作品を発表。食卓に並ぶバタートーストや果物、室内に飾られたぬいぐるみやフィギュアなど、何気ない日常の一場面を切り取り、油彩で描いているとのこと。虎屋の広告や植本一子のエッセイの挿画なども手掛けるなどご活躍です。
バンクシーのスクリーンプリント作品も出品されていました。2021年には、シュレッダー付きのフレームによって切り刻まれた彼の作品《Love is in the bin(愛はごみ箱の中に)》がサザビーズのオークションに出品され、予想落札価格400万〜600万ポンド(約6億円〜9億円)を大幅超える1858万ポンド(約28億8000万円)で落札されて話題になりましたが。。。今回は不落札。あらら。
近年人気上昇中の若手画家・井田幸昌の作品も 2点 出品されていました。
井田は、東京都術大学大学院在学中の2017年、レオナルド・ディカプリオ・ファウンデーションが主催するチャリティーオークションに最年少のアーティストとして参加し、翌年には「Forbes JAPAN』の「30 UNDER 30JAPAN」に選出されるなど、早くから国内外で注目を集めてきた作家です。本オークションの開催日と同じ7月22日には、「自身初となる国内の美術館での巡回展が出身地の鳥取県、米子市美術館でスタートするなど、歴史にその足跡を刻みつつあります。(シンワオークションのカタログ参照)
下見会を案内してくださったスタッフは、「シンワオークションのお客さまは、近代アートに慣れ親しんでいる方が多いですが、若手の現代作家の価値もこれから力を入れて伝えていきたいと思います」とのこと。確かに、カタログでも6ページを割いて、美術雑誌のように井田幸昌の作品を紹介しています。
スイスの高級機械式腕時計ブランド、リシャール・ミルのチャリティーオークションの一場面を描いていると言われるこの2点からは、「自分の目で見たもの、頭の中にあるものも、忠実に描きたい」としている井田の試みを読み取ることができます。背景が黒い「Richard Mille Family」は、写真(または画像)に忠実、背景がピンクの「Family of Richard」は、頭の中で 抽象化されたイメージのようです。
さて、オークションの結果はいかに?
「Richard Mille Family」は、エスティメート1500万円~2500万円のところ1500万円での落札。
「Family of Richard」は、エスティメイト1500万円~2500万円のところ、1600万円での落札となりました。 あまり競ることはなかったものの、高額での落札。
今後、シンワオークションがどのように若い現代アーティストの作品の魅力をコレクターたちに伝えていくのかにも注目していきたいと思います。
【シンワオークションに関するお問合せ】
Shinwa Auction株式会社
〒104-0061 東京都中央区銀座七丁目4番12号 銀座メディカルビル2F
フリーダイヤル:0120-01-1135(固定電話のみ)
TEL:03-3569-0030(代表)
FAX:03-3569-0023
URL:www.shinwa-auction.com
#シンワオークション #ShinwaAuction #佐伯祐三 #井田幸昌 #アートオークション