新しい女性文化を育んだ化粧品会社「モダンガール-大正・昭和のモダンライフを愉しむ」クラブコスメチックス文化資料室 三木学評

新しい女性文化を育んだ化粧品会社

「モダンガール-大正・昭和のモダンライフを愉しむ」
会期:2022年4月1日(金)~2022年5月31日(火)
会場:株式会社クラブコスメチックス文化資料室
https://www.clubcosmetics.co.jp/museum/

クラブコスメチックスという会社をご存じだろうか?戦前の名前は中山太陽堂と言い、「西のクラブ、東のレート」と称されたほどの、化粧品会社の草分け的存在である。中山太陽堂が売り出した化粧品は「クラブ」というブランド名が冠されたので、戦後はクラブコスメチックスと改称された。

中山太陽堂は白粉から西洋式の化粧品に移行する過程で、日本人の肌の色や肌質、装いについて研究し、外出していく機会の多くなった女性に対して最適な化粧品を多数製造した。

創業者の中山太一は、「東洋の化粧品王」と称されたが、広告の世界でも有名な人物でもあり、新聞や雑誌などの最新のメディアや、自動車・飛行機などの交通機関を利用した、メディアミックスの先駆けともいえる画期的な広告戦略をうったことで知られている。

新聞では、当時まだ珍しかった写真入りの広告を制作するなど、創業からしばらくは、中山太一自身がアイディアやコピーにも携わり、「クラブ式広告」と言わる方法を次々開発した。近年、中山太一をモデルにした高殿円の小説「コスメの王様」が産経新聞で連載され、単行本化されたので、ご存じの方もいるかもしれない。

その中で、いわゆる「モダンガール」の登場と活躍に大きな役割を果たしたことが注目されている。クラブコスメチックスの本社1階に設けられた文化資料室では、毎年企画展が開催されており、今年は「モダンガール-大正・昭和のモダンライフを愉しむ」というテーマで展覧会が開催されている。本展では、大正・昭和初期のモダン文化の中で新しい生き方を模索した女性にフォーカスを当て、中山太陽堂のメディアや製品がどのように後押ししたか明らかにされている。

なかでも本展の序章に紹介されているように、中山太陽堂の子会社、プラトン社が発行していた文芸誌『女性』には、大正13年8月号に、「モダンガール」の名付け親とされるジャーナリスト、北澤秀一が「モダーン・ガール」を寄稿しており、同じくプラトン社が発行していた大衆誌『苦楽』誌上もあわせて、「モダンガール」のスタイルから内面まで、様々な記事が掲載されている。『女性』が創刊した1922年頃は、第一次世界大戦で多くの若い男性の働き手を失ったヨーロッパでは、多くの女性が外に出て働くようになり、いわゆる職業婦人のための化粧品・ファッションが盛んになった。

日本にもその影響は流入し、女学生・職業婦人らを中心に、アクティブに外で動くための新しい化粧品やファッションが求められた。そのような動向をいち早く察知し、積極的なイメージと情報、そして製品を提供したのが中山太陽堂といってよいだろう。

また、外面だけではなく、女性の教養や科学的な美容など内面についても力を入れていたことが中山太陽堂の活動の特徴でもある。クラブ化粧品では「近代美粧」を掲げ、「整容は心です。良き心の表れです。よき心はやがて美しき容姿です。即ち眞の美は清き心と美しき容姿を相俟つものです」と述べられているという。そのため本展は1章「モダンガールのよそおい」、2章「モダンガールのたしなみ」という形で構成されている。

1章では、百貨店、ダンス、音楽、観光・レジャー・スポーツ、ファッション、ヘアスタイルなど新しい都市文化を愉しむ女性を、中山太陽堂の広告デザインやプラトン社の雑誌、他社の雑誌などから紹介されている。

中山太陽堂は、広告部を業界内でいち早く立ち上げており、多くの優秀なデザイナーが集った。プラトン社でも、山六郎や山名文夫など日本のグラフィックデザインの黎明期から活躍した図案家がそろい、多くの「モダンガール」を描いている。彼らが描いた女性は、まだ街中にモダンガールが闊歩する少し前であり、ヨーロッパのファッション・プレート(高級ファッション誌)やハリウッド映画をモデルに日本風にアレンジしていたため、イメージを牽引する存在になっていたかもしれない。それを追うように、和装から洋装のモダンガールが登場していく。

化粧に関してもモダンへと変化していく。次第に和化粧から西洋風の和化粧へと進化し、白粉の種類や色展開も豊富になり、12色の色付き白粉が発売されたという。化粧品のパッケージもお洒落で洗練されている。その理由は、モダンガールたちは人前で化粧を直し、その華麗なデザインを周囲に自慢する意味もあったから、と担当学芸員にうかがった。まさに、化粧品までが外側の美しさを追求するようになったのがこの頃だったといえるだろう。

一方で、中山太陽堂は、中山文化研究所という今でいうメセナや文化事業を行う研究所を開設し、女性文化研究所や整容美粧研究所、口腔衛生研究所、児童教育研究所を擁した、今日の眼で見てもひけをとらない、科学的な美粧、口腔衛生、幅広い分野の識者による教養の研鑽が行われる場をつくっている。

中山太一の偉大さは、広告手法や営業手法の独創性、先進性だけではなく、単なるファッションとしての化粧品を販売するだけではなく、内面や心身の美しさを追求し、それを様々なメディアや研究機関を通して啓蒙し続けたことだろう。近年、ジェンダーバランスが叫ばれているが、戦前、大正・昭和の社会・文化の中にその萌芽があったことは、強調してよいと思う。

中山太陽堂、プラトン社が描いた「モダンガール」については、クラブコスメチックスの協力を得て『MOGA モダンガールークラブ化粧品・プラトン社のデザイン』(青幻舎、2021年)として刊行している。本書を読めば、中山太陽堂・プラトン社が多くのクリエイターが集い、関東と関西、西洋と東洋が出会う一つのプラットフォームとなっていたことがわかるだろう。是非ご関心のある方はご覧いただきたい。

評者: (MIKI Manabu)

文筆家、編集者、色彩研究者、ソフトウェアプランナーほか。
独自のイメージ研究を基に、現代アート・建築・写真・色彩・音楽などのジャンル、書籍・空間・ソフトウェアなどメディアを横断した著述・編集を行なっている。
共編著に『大大阪モダン建築』(2007)『フランスの色景』(2014)、『新・大阪モダン建築』(2019、すべて青幻舎)、『キュラトリアル・ターン』(昭和堂、2020)など。展示・キュレーションに「アーティストの虹─色景」『あいちトリエンナーレ2016』(愛知県美術館、2016)、「ニュー・ファンタスマゴリア」(京都芸術センター、2017)など。ソフトウェア企画に、『Feelimage Analyzer』(ビバコンピュータ株式会社、マイクロソフト・イノベーションアワード2008、IPAソフトウェア・プロダクト・オブ・ザ・イヤー2009受賞)、『PhotoMusic』(クラウド・テン株式会社)、『mupic』(株式会社ディーバ)など。
美術評論家連盟会員、日本色彩学会会員。

Manabu Miki is a writer, editor, researcher, and software planner. Through his unique research into image and colour, he has worked in writing and editing within and across genres such as contemporary art, architecture, photography and music, while creating exhibitions and developing software.
His co-edited books include ”Dai-Osaka Modern Architecture ”(2007, Seigensha), ”Colorscape de France”(2014, Seigensha), ”Modern Architecture in Osaka 1945-1973” (2019, Seigensha) and ”Reimaging Curation” (2020, Showado). His recent exhibitions and curatorial projects include “A Rainbow of Artists: The Aichi Triennale Colorscape”, Aichi Triennale 2016 (Aichi Prefectural Museum of Art, 2016) and “New Phantasmagoria” (Kyoto Art Center, 2017). His software projects include ”Feelimage Analyzer ”(VIVA Computer Inc., Microsoft Innovation Award 2008, IPA Software Product of the Year 2009), ”PhotoMusic ”(Cloud10 Corporation), and ”mupic” (DIVA Co., Ltd.).
http://geishikiken.info/

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