空間の発見と場所の連続性を生むパビリオン「藤本壮介《アメノシタ・パビリオン》」三木学評

空間の発見と場所の連続性を生むパビリオン

藤本壮介《アメノシタ・パビリオン》(2021) ©Masaki Iwata+Sou Fujimoto Architects

藤本壮介《アメノシタ・パビリオン》
会期:2021年12月18日(土)~12月26日(日)

場所:ロームシアター京都ローム・スクエア

藤本壮介は、現在において日本を代表する建築家といっていいだろう。しかし、藤本をいわゆる建築史的な系譜に置くことは難しい。例えば、丹下健三研究室からは磯崎新やメタボリズムの建築家が輩出されたとか、その後、磯崎新の設計事務所からは青木淳、青木の事務所からは永山裕子、菊竹清訓の設計事務所からは伊東豊雄、伊東の事務所からは妹島和世等々、一応、大学の師弟や事務所の系譜がある。藤本は東京大学で学んではいるが、学部を卒業してすぐに独立しているため、どの系譜にもつながらず、独自性を貫いてきたといってよい。安藤忠雄のように大学での高等教育も受けていないというほどではないが、そのキャリアのユニークさは近いものがあるかもしれない。2025年の大阪万博では会場デザインプロデューサーを担当することになり、1970年の大阪万博で丹下健三を中心として設計された会場計画案や基幹施設という役割を継承することになる。ここで何が継承され、何が更新されているか考えるのは、戦後の日本建築史の一つの課題にもなるだろう。

また、藤本らが登場する以前の建築界では、みかんぐみやアトリエワンなどのユニット派と言われる、ヒエラルキーのない新しいタイプの建築コレクティブが注目されていた。そのような複数の建築家による設計者集団の潮流の中で、一人で設計をはじめたことも藤本の特徴かもしれない。ただし、ユニット派が活躍する時期は、長引く不況や2000年の「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」の開始とも重なり、各地で芸術祭が勃興し始めたため、芸術と建築の中間にある仮設的な作品に多くの建築家が取り組み始めている。また、同じく2000年から、サーペンタイン・ギャラリーの夏季限定の仮設のカフェ兼休憩所「サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン」が開始され、第1回目のザハ・ハディッドをはじめとした著名な建築家が設計を手掛けるようになる。そういう意味では、屋外の仮設的な建築は、2000年代以降の大きなジャンルといえるだろう。

ロームシアター京都ローム・スクエアに設置されている。 ©Masaki Iwata+Sou Fujimoto Architects

今回、藤本は、「KYOTO STEAM -世界文化交流祭-」全体のシンボルとして、2021年12月18日(土)~12月26日(日)まで、ロームシアター京都ローム・スクエアに、仮設のパビリオン《アメノシタ・パビリオン》を展示した。開かれたスペースにおける、屋根のない開放的なパビリオンであり、必然的に空や大気が意識される。古来、日本では「宇宙」のことを、「アメノシタ」と訓読していたことから命名されたという。また、「天下」等もアメノシタと訓読される。ローム・スクエア周辺一帯が、平安時代後期から室町時代にかけて、六勝寺と言われる6つの御願寺が建っていたことも、重ねられているかもしれない。

藤本の「パビリオン」は、2013年に設計されたサーペンタイン・ギャラリーの作品《サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013》がよく知られている。また、恒久設置ではあるが、2015年には、「瀬戸内国際芸術祭2016」の新作として、《直島パヴィリオン》(2015)を展示している。ステンレス製の三角形の金網、約250枚を使用した多面体であり、中に入ることが可能な建築とアート、遊具の中間的な建造物である。その他にも上海やパリなど海外で幾つかのパビリオンを制作している。今年2021年は、「パビリオン・トウキョウ2021」でもパビリオンを制作しており、藤本にとってもパビリオンは重要な仕事であることは間違いない。

「KYOTO STEAM」は、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Art(芸術)、Mathematics(数学) の頭文字をとった「STEAM」を冠しており、京都賞が先駆的に示してきた科学・技術と芸術という3分野を掛け合わせることにより、文化芸術の新たな可能性と価値をワールドワイドに問う事業として位置付けられている。京都市を中心とした芸・産学官連携による事業であり、自然災害や戦乱に巻き込まれながらも、1200年の時を超えて継承してきた京都の文化資源を基に、新たな未来に向けて現在の営みや源泉となるものを耕し、磨くこと(CULTIVATES)とするKYOTO CULTIVATES PROJECTの理念を体現するものとされている。KYOTO CULTIVATES PROJECTは、文化庁補助事業「文化芸術創造活用プラットフォーム形成事業」を活用して京都・日本を世界の文化・芸術の交流のハブへと進化させていくことを目的に、2017年から5か年かけて推進されてきた。2021年は、その最後となる年だ。

「KYOTO STEAM」は、もともとオリンピックイヤーである2020年春に開催することが想定されており、「創造人材の育成や国際交流・ネットワーク構築・情報発信」などを取り組むことが掲げられてきた。そのため、中核となるアート×サイエンス・テクノロジーのフェスティバル開催だけではなく、「人材育成(LABO)」、「ネットワーク構築(NETWORK)」を合わせた三位一体の事業となっている。つまり、一過性のイベントではなく、フェスティバルを開催する過程で、アーティストと企業がコラボレーションしたり、ネットワークを形成したりすることによる、将来につながる交流と協働の場づくりがその狙いといえるだろう。

では、藤本にパビリオンの設計を依頼した狙いはどこにあるのだろうか?アート・ディレクターの山本麻友美にその点を聞くと、「アート×サイエンス・テクノロジーというテーマだと映像や最新機器を用いたメディアアートの祭典だと受け止められやすいが、それらも含んだ多様な可能性をKYOTO STEAMは提示したい。もともと建築はジャンルの中にアート×サイエンス・テクノロジーを内包している。加えて、目に見える物体を展示して、『KYOTO STEAM』を開催していることを体感できる場をつくりたかった」と述べる。たしかに、バウハウスの例を挙げるまでもなく、建築は総合造形芸術であり、常に最先端のテクノロジー、サイエンス、アートの融合がみられる。産学連携に関しても、丹下健三を例に挙げるもなく、大学で教鞭をとりながら、建築設計を行っているケースは多く、自然な形で産学連携、あるいは産学官連携が行われてきた。その建築の持つ原点をシンプルな形で提示することが目的の一つだといえるだろう。また、パビリオンをつくってもらいたかった理由としては、KYOTO STEAMのテーマの一つでもある異なる分野のものをつなぐ場を可視化したかった。屋外で多くの人が見る場所にあると同時に、実際に使用してもらいたかった」からだという。コロナ禍ということもあり、集まると同時に、密集せず換気がいいということが条件のこともあり必然的に屋外になったということもあるだろう。ただし、仮設のものを使ってもらうのは、危険を伴うので、建築家が構造計算を入れながらつくるのがもっともふさわしい。

パビリオンの内部 ©Masaki Iwata+Sou Fujimoto Architects

今回の設営の責任者である藤本壮介建築設計事務所の設計部長である岩田正輝氏は、「パビリオンはアートと建築の間の表現であり、そのまま常設の建築として適応するのは難しいが、一つの新しい建築の可能性を示唆するモデルとなる。すり鉢状の形態は、アンフィシアター(円形劇場)をモチーフとしており、今回は、観客自体が様々な空間を体験し、発見できるように考えた」と述べる。

縦横120mm、長さ4mの角材を620本使ったという楕円形のパビリオンは、約15m四方、高さ約4mある。角材を寝かして積み上げられており、屋根や柱、壁、床、椅子といった、建築や家具における固定した役割はなく、「未分化のまま立ち現れ」、組み合わせによって近い機能を果たすということが試みられている。庇状のものはあるが、すり鉢状のため内部に屋根はなく、「天の下」らしく、上にはそのまま空が見える。外側から中は見えにくいが、隙間から見えないことない。中から外もまた同様である。すり鉢状でありながら、周囲の空気の流れを物理シミュレーションで形にしたような、細かなうねりがあり、南東に開口部がある。そこから人々は出入りするようになっている。

藤本は、「小さいながらも人々の身体に呼応した、ローム・スクエアのもう一つ内側のような空間」と記しており、入れ子の広場であると同時に、「広場の中にある劇場」といってもいいかもしれない。「アンフィシアター」というように、身長に応じて、積まれている様々な高さと角度の角材に座ることできる。安全上、登れる高さは3段目までと決められているが、構造的には最上段まで登れるという。制限をかけなければ、子供なら上まで登って遊ぶだろうことは想像に難くない。形は複雑であるが、一つの角材を積み上げているだけなので考え方はシンプルであり、構造が可視化されている点も童心を誘う点だろう。「鳥の巣のよう」と称しているのはメタファーかもしれないが、皿形やお椀形をしている鳥の巣は、卵を産み孵化する場所であると同時に求愛の場所でもあり、動物的な直感もそこにはあるかもしれない。

広場の中にある巣のような形態。©Masaki Iwata+Sou Fujimoto Architects

結果的に、完成されたパビリオンは、適度に開放的で、適度に閉鎖的であり、それぞれが憩いの場や空間を発見できるようになっている。「空間の発見」は、藤本の初期の建築から見られることだ。連結する部屋の角度を変えることで、プライヴェートとセミプライヴェートの空間を生む、《伊達の援護寮》(2003) や《T House》(2005 )など、コロンブスの卵的な発明的な要素がある。その後、藤本は、2次元的な操作から3次元的な操作を加えるようになり、「空間の発見」、「空間の発明」はより微分的になっていった。《サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013》もその延長線上にあるものだろう。近年のコンピューターシミュレーションの進化がそれを後押したともいえる。ただし、それらが「机上の空論」にならないように、模型を使ってスタディをした上で、コンピューターに取り込み、物理計算や修正をかけていくという気の遠くなる作業をしているという。

今回の《アメノシタ・パビリオン》に関しても、小さな木材を使いながら、60分の1の模型と3Dのコンピューターモデル、最終的にはVRを使って、形がつくられている。しかし、今回の発想の基は、2001年に構想された床をずらしながら積み上げることで様々な機能と空間を生む「Primitive Future House」が起源にあるように思える。また、その原理を角材を用いた立方体の空間を作って、部分的に実現したくまもとアートポリス 《「次世代モクバン」Final Wooden House》(2008)の延長線上にもある。そこに《サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013》で得た「アンフィシアター」という、人が集まる、公共性を備えた場所の原形というコンセプトを加味し、展開させたものだといえるだろう。そのようなアンビルドのプランやコンセプトモデルと、仮設的なパビリオンは相性がいい。

ロームシアター京都と京都市美術館別館に形態的な連続性を生んでいる。 ©Masaki Iwata+Sou Fujimoto Architects

いっぽう、実際に建てられる場所との関係はどうか。藤本事務所では、場所のサーベイも綿密に行われるという。もともと六勝寺の跡地ではあるが、現在は前川國男が設計し、1960年に竣工した、戦後モダニズム建築の傑作とされる京都会館(ロームシアター京都)と、京都市営繕課が設計し、1930年に竣工した、千鳥破風を備えた和洋折衷様式の京都市美術館別館(旧京都市公会堂東館)の前にある長方形の広場(スクエア)に設置されている。

戦前の和洋折衷と戦後モダニズム建築の代表作に囲まれているわけだが、京都市美術館別館の千鳥破風や庇の三画と曲線は、逆三角形のすり鉢状の形態と視覚的な連続性があり、ロームシアター京都の水平のラインは、寝かされた角材の水平のラインと連続性がある。つまり両方の形態をブリッジし、連続性を生むように計算されているといえよう。この連続性、グラデーションは、「空間の発見・発明」に加えて、藤本の建築を構成するもう一つの重要な要素であろう。岩田氏も、「家具から都市までの役割を分節化するのではなく、連続的にみている」と指摘する。さらに、その視野は自然と人工という人間と生態系の連続性にまで広がっている。

©Masaki Iwata+Sou Fujimoto Architects

藤本の建築のユニークさは、今まで当たり前であると思われていた建築の機能、役割を解体し、一から原理的に考えることで、異なる方法を見出していることにあるだろう。新素材や3次元曲線、アルゴリズミック・デザインのような技術の進化に伴った、従来の建築の機能を拡張する形で使っているわけではない。旧来の素材や構造、技術でも、新しく発明的に考えて、使っているところがもっともイノベーティブといえるだろう。

もちろんこれを施工するためには、CADにしたデータから図面に起こし、1本1本の木材を組み合すために200か所に烏口で線を入れ、ビスで止めていくという緻密で膨大な作業があり、それを可能にする施工業者の技術がある。1本1本に目印をつけていくのに5日程度かかったという。施工は計算より早くできたとのことだ。それはまさに構想と実践、科学技術と工学、アートの交わる形だといえる。

藤本の《アメノシタ・パビリオン》は、「KYOTO STEAM」の最後を飾るのにふさわしく、アートやテクノロジー、サイエンスの奥にある、考えること、発想すること、実践することの重要さを示す象徴的なパビリオンになったのではないだろうか。また広場の中で人が集えるシアターという考え方は、1970年万博から2025年万博をつなぐヒントになるかもしれない。

 

※本記事は、「KYOTO STEAM -世界文化交流祭-」の公式記録のために制作された。

評者: (MIKI Manabu)

文筆家、編集者、色彩研究者、ソフトウェアプランナーほか。
独自のイメージ研究を基に、現代アート・建築・写真・色彩・音楽などのジャンル、書籍・空間・ソフトウェアなどメディアを横断した著述・編集を行なっている。
共編著に『大大阪モダン建築』(2007)『フランスの色景』(2014)、『新・大阪モダン建築』(2019、すべて青幻舎)、『キュラトリアル・ターン』(昭和堂、2020)など。展示・キュレーションに「アーティストの虹─色景」『あいちトリエンナーレ2016』(愛知県美術館、2016)、「ニュー・ファンタスマゴリア」(京都芸術センター、2017)など。ソフトウェア企画に、『Feelimage Analyzer』(ビバコンピュータ株式会社、マイクロソフト・イノベーションアワード2008、IPAソフトウェア・プロダクト・オブ・ザ・イヤー2009受賞)、『PhotoMusic』(クラウド・テン株式会社)、『mupic』(株式会社ディーバ)など。
美術評論家連盟会員、日本色彩学会会員。

Manabu Miki is a writer, editor, researcher, and software planner. Through his unique research into image and colour, he has worked in writing and editing within and across genres such as contemporary art, architecture, photography and music, while creating exhibitions and developing software.
His co-edited books include ”Dai-Osaka Modern Architecture ”(2007, Seigensha), ”Colorscape de France”(2014, Seigensha), ”Modern Architecture in Osaka 1945-1973” (2019, Seigensha) and ”Reimaging Curation” (2020, Showado). His recent exhibitions and curatorial projects include “A Rainbow of Artists: The Aichi Triennale Colorscape”, Aichi Triennale 2016 (Aichi Prefectural Museum of Art, 2016) and “New Phantasmagoria” (Kyoto Art Center, 2017). His software projects include ”Feelimage Analyzer ”(VIVA Computer Inc., Microsoft Innovation Award 2008, IPA Software Product of the Year 2009), ”PhotoMusic ”(Cloud10 Corporation), and ”mupic” (DIVA Co., Ltd.).
http://geishikiken.info/

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