秀吉も愛でた醍醐寺の桜が山種美術館に植えられた🌸ちょっとSFな美術と愛と科学のストーリー🌸

豊臣秀吉が京都の醍醐寺三宝院において「醍醐の花見」を催したのは、1598年。現在も京都屈指の桜スポットとして知られる醍醐寺には、「太閤しだれ桜」という、樹齢約170年の名木があります。
その「しだれ桜」から組織培養により増殖した苗木が、2021年11月15日に山種美術館(東京・広尾)にやってきました。植樹式も、秋晴れに祝福されて華やか。それにしても、なぜここに「太閤しだれ桜」が遠路はるばるやってきたのでしょう?ここに至るまでの、壮大な美術と愛と科学のストーリーをお伝えします。

(差し替え希望)植樹の様子

植樹式での山﨑妙子・山種美術館館長(左)と市川晃・住友林業株式会社 代表取締役会長(右)

なぜ「太閤しだれ桜」が山種美術館に?

ここには、日本画の巨匠・奥村土牛(1889-1990)の存在があります。
まず、山種美術館創立者・山﨑種二(1893-1983)が、奥村土牛の才能を早くから見出して支援していました。種二さんが、土牛さんの家を訪ねた際に電話がないことに気づき、すぐに電話の設置を手配したエピソードから始まり、約半世紀にわたって家族ぐるみで親しく交流したとのこと。種二さんのお孫さんで現・山種美術館館長の山﨑妙子さんも共に交流していらっしゃり、現在、山種美術館には、135点もの土牛コレクションが!

中でも春に私達を楽しませてくれる名品が、土牛さんが描いたこちらの《醍醐》!ジャーン🌸

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奥村土牛 《醍醐》 1972(昭和47)年  紙本・彩色 山種美術館

「土牛の桜」

勘の良いみなさんは、もうおわかりですね!
これが、今回の「しだれ桜」植樹の理由です。
実は「太閤しだれ桜」、土牛さんが描いて《醍醐》という代表作になったことから「土牛の桜」ともよばれているのです。

確かに、土牛さんの《醍醐》が美術館に展示される春に、外では本物の《醍醐》が咲いてたらステキだよな~とは思うのですが、実現させてしまうのが山﨑館長のすごいところ。

ここには、1人ポンと肩を押してくれた方の存在があります。
それは、文化庁長官や文部科学大臣を歴任された遠山敦子さん。
館長のご両親が親しくお付き合いを始めてから25年以上とのことですが、彼女のお気に入りが土牛さんの《醍醐》。「美術館前に醍醐の桜が咲いていたら素敵ね」とのお言葉を聞き、近隣の方々にも絵とともに楽しんでもらいたいとの思いがつのった館長が、「太閤しだれ桜」の組織培養による苗木増殖に成功していた「住友林業」の会長さんに相談したところ、寄贈してくれることになったとのことです!
このエピソードを、植樹式で訥々と語る山﨑館長がとても印象的。
いざという時に、さらっと会長さんに相談できるということもすごいし、こんな大がかりなことを実現するにあたって、おじい様や土牛さんとの様々な思いがたくさんつのっていたと想像できるのですが、訥々と語られるのです。でも、なんか雄弁に抑揚豊に語られるより、そんな素朴な語り口のほうが、むしろ本当の愛と誠実さが感じられるなと思いました。
「そのままの環境では植樹できなかったので、①必要な工事一式を私から寄贈しました。②周りがコンクリートだったので大きな鉢植えを用意しました。③また、建物の照り返しが桜に当たらないようにグリーンウォールを整えました」とさらりとおっしゃっていましたが、山種美術館の未来への夢を桜に託しているのですね!

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桜の木の後ろの網に絡んでいる植物がグリーンウォール。

感謝状贈呈後の記念撮影

(左から)遠山敦子・山種美術財団理事(元文部科学大臣)、市川晃・住友林業株式会社 代表取締役会長、山﨑妙子・山種美術館館長

美術と共演した住友林業さんの科学技術

住友林業株式会社は「太閤しだれ桜」の樹勢回復と後継樹増殖に取り組み、2000年組織培養による苗木増殖に成功しました。増殖した苗木は2004年11月に総本山醍醐寺境内に移植し、翌年4月に無事開花しました。(住友林業HPより)
※組織培養の流れについて写真付きの詳しい説明もあります。⇒https://sfc.jp/information/news/2021/2021-10-28.html

この技術は、当時世界で初めて成功したのだそうです。日本、かっこいい!
おかげで、伝統的な日本画である土牛さんの《醍醐》と最先端科学技術のシナジー効果で、新しい鑑賞法方が生まれましたね。
数年後から、1970年代に土牛さんが見た「太閤しだれ桜」の遺伝子を持った本物の「しだれ桜」を私達が見て、美術館内の土牛さんの《醍醐》との間を行き来することで時空を超えた立体的な鑑賞ができます。
訪れた人それぞれのミニSFの世界がいくつも繰り広げられそうで楽しみですね。
実は、今回気づいたことがもう1つ。土牛さんの《醍醐》は、あまりにも代表作で見慣れていた気がしていたこともあり、結構いつもさら~っと通りすぎてしまっていました。でも、今回植樹をきっかけに、近づいてじっくり見てみたら。。。描かれた桜の花の表情、花びらが全て違い、白やピンクや縁取りだけの透明なものなどが幾重にもかさなっていて満開のピンクが出来上がっていることがわかりました♪

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桜の花へのクローズアップ。写真だと立体的な重なりがよくみえなくてスミマセン。。。

《醍醐》のエッセンスが和菓子に!

そしてもう1つ、忘れてはいけないのが和菓子。
山種美術館1階「Cafe 椿」では現在、《醍醐》をモチーフにした麗しい和菓子「ひとひら」もいただけます。

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奥村土牛 ―山﨑種二が愛した日本画の巨匠 第2弾―会期:2021年11月13日(土)~2022年1月23日(日)の期間中に「Cafe 椿」でいただける「ひとひら」

山種美術館の和菓子も実は、日本画の世界を一品に凝縮して表現したアートな宇宙なのです。詳しくはこちらの記事も読んでみてくださいね⇒
https://intojapanwaraku.com/gourmet/175447/

【展覧会基本情報】
■【開館55周年記念特別展】 奥村土牛 ―山﨑種二が愛した日本画の巨匠 第2弾―
会期:2021年11月13日(土)~2022年1月23日(日)
会場:山種美術館(〒150-0012東京都渋谷区広尾3-12-36)
主催:山種美術館、日本経済新聞社

開館時間:午前10時~午後5時
(入館は閉館時間の30分前まで)

休館日:月曜日[12/27(月)、1/3(月)、1/10(月・祝)は開館、1/11(火)は休館、12/29~1/2は年末年始休館]

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評者: (KIKUCHI Maiko)

アーティストと交流しながら美術に親しみ、作品の鑑賞・購入を促進する企画をプロデュースするパトロンプロジェクト代表。東京大学文学部社会学科修了。
英国ウォーリック大学「映画論」・「アートマネジメント」両修士課程修了。
2014年からパトロンプロジェクトにて展覧会やイベントを企画。2015年より雑誌やweb媒体にて美術記事を連載・執筆。
特に、若手アーティストのネームバリューや作品の価値を上げるような記事の執筆に力を入れている。

主な執筆に小学館『和樂web』(2021~)、『月刊美術』「東京ワンデイアートトリップ」連載(2019~2021)、『国際商業』「アート×ビジネスの交差点」連載(2019~)、美術出版社のアートサイト 「bitecho」(2016)、『男子専科web』(2016~)、など。

主なキュレーションにパークホテル東京の「冬の祝祭-川上和歌子展」(2015~2016)、「TELEPORT PAINTINGS-門田光雅展」(2018~2019)、耀画廊『ホッとする!一緒に居たいアートたち』展(2016)など。」

https://patronproject.jimdofree.com/

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