ムーンサルトレター第5弾「鎌田東二・一条真也『満月交心』現代書林・2020年」秋丸知貴評

ムーンサルトレター第5弾

鎌田東二・一条真也『満月交心』(現代書林・2020年)

秋丸 知貴

当代随一の博覧強記の哲人2人による、5冊目のWEB文通記録集である。

鎌田氏は、京都大学名誉教授で、日本を代表する宗教哲学者で、フリーランス神主で、神道ソングライター。一条氏は、冠婚葬祭互助会大手の株式会社サンレーの代表取締役社長で、100冊以上の著作を持つ作家で、儀礼文化イノヴェーター。現在、鎌田氏は上智大学グリーフケア研究所の特任教授で、一条氏は同客員教授を務めている。2人は、今年で28年目の師弟関係であり、「魂の義兄弟」でもある。

2人は丸15年、風流にも満月を迎える度に欠かさずWEB文通を交わしてきた。その紙媒体版として、前記録集『満月交感』上下巻、『満月交遊』上下巻に続き、5冊目の本書は第121信から第180信を収める。567頁の大著である。

内容は学問芸術から政治経済まで多岐にわたるが、語られるテーマの中心は儀礼・儀式とグリーフケアの重要性である。両者は共に、現代における宗教的精神文化の衰退を憂い、一貫して現実に即した健全な新しい信仰のかたちを模索している。それは、現世だけではなく来世も含めた人生の意味こそが真に人々の心に安寧と活力を与えることを確信しているからであろう。

時にどちらの文章か分からなくなるほど、両者の真摯な志と圧倒的な知性は共通している。相互に深くリスペクトしつつ、無理せず自然体で知的冒険心に溢れる意見を交わし合うところが、この風雅な様式美的文通が長続きしている秘訣であろう。

その時々の世相を的確に掘り下げた書簡体の文章は、平成から令和へ移り変わる時代の一つの歴史的な証言記録ともなっている。詩は全てその度ごとの感興を逃さない「機会詩」であるべきであると説いたゲーテに因み、この稀有な「機会思想文通」の継続と展開をこれからも末永く見守りたい。

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評者: (AKIMARU Tomoki)

美術評論家・美学者・美術史家・キュレーター。1997年多摩美術大学美術学部芸術学科卒業、1998年インターメディウム研究所アートセオリー専攻修了、2001年大阪大学大学院文学研究科文化表現論専攻美学文芸学専修修士課程修了、2009年京都芸術大学大学院芸術研究科美術史専攻博士課程単位取得満期退学、2012年京都芸術大学より博士学位(学術)授与。2013年に博士論文『ポール・セザンヌと蒸気鉄道――近代技術による視覚の変容』(晃洋書房)を出版し、2014年に同書で比較文明学会研究奨励賞(伊東俊太郎賞)受賞。2010年4月から2012年3月まで京都大学こころの未来研究センターで連携研究員として連携研究プロジェクト「近代技術的環境における心性の変容の図像解釈学的研究」の研究代表を務める。主なキュレーションに、現代京都藝苑2015「悲とアニマ——モノ学・感覚価値研究会」展(会場:北野天満宮、会期:2015年3月7日〜2015年3月14日)、現代京都藝苑2015「素材と知覚——『もの派』の根源を求めて」展(第1会場:遊狐草舎、第2会場:Impact Hub Kyoto〔虚白院 内〕、会期:2015年3月7日〜2015年3月22日)、現代京都藝苑2021「悲とアニマⅡ~いのちの帰趨~」展(第1会場:両足院〔建仁寺塔頭〕、第2会場:The Terminal KYOTO、会期:2021年11月19日~2021年11月28日)、「藤井湧泉——龍花春早 猫虎懶眠」展(第1会場:高台寺、第2会場:圓徳院、第3会場:掌美術館、会期:2022年3月3日~2022年5月6日)等。2020年4月から2023年3月まで上智大学グリーフケア研究所特別研究員。2023年に高木慶子・秋丸知貴『グリーフケア・スピリチュアルケアに携わる人達へ』(クリエイツかもがわ・2023年)出版。上智大学グリーフケア研究所、京都ノートルダム女子大学で、非常勤講師を務める。現在、鹿児島県霧島アートの森学芸員、滋賀医科大学非常勤講師、京都芸術大学非常勤講師。

http://tomokiakimaru.web.fc2.com/

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