アーカイヴ「時評 ルーヴル美術館と東芝製LED照明」秋丸知貴評


東芝製LED照明に照らされるルーヴル美術館
(写真提供・株式会社東芝)

 

2010年6月から、株式会社東芝とルーヴル美術館はパートナーシップ契約を締結して、同美術館の照明改修プロジェクトに取り組んでいる。その内容は、既存の環境負荷の高いキセノンランプ等を、環境負荷の低いLED照明に置き換えることである。

LEDとは、発光ダイオード(Light Emitting Diode)の略で、これを利用した照明は、供給電力の多くを発光に使うため発光効率が高く、白熱灯や蛍光灯等の従来の照明に対し、電力の消費が少ない。また、真空やフィラメントを必要としないので衝撃に強く、高寿命で保守費用も安い。さらに、環境や人体に有害な鉛や水銀も使用しない。そして、低発熱で紫外線や赤外線をほとんど発しないので、芸術品や文化財の保護に向いているという特徴がある。

同プロジェクトの第一弾として、まずルーヴル美術館の外観照明に東芝製のLED照明が適用された。まず、2011年12月に、ピラミッド、ピラミディオン、パビリオン・コルベールに同社製のLED照明が設置され、2012年5月12日には、ナポレオン広場全体の改修が完了した。

この改修では、建築の美観に厳しい基準を持つルーヴル美術館が、建物外観に初めて採用したLED照明が日本製であったことが特に注目される。東芝製のLED照明の環境的・経済的効果は高く、今回新たに同社とルーヴル美術館が協力して開発した専用のLED照明350台を用いると、従来比で消費電力が73パーセントも節約されるという。また、その美的効果も優れており、最新技術により適切な光の量と色温度を実現したことに加え、照明器具自体の建物と調和するデザインがフランス関係者に高く評価されている。

この「環境負荷の低減と芸術性の両立」の成功を受けて、2012年5月24日に、さらに東芝はルーヴル美術館と、同プロジェクトの第二弾として、同美術館の館内照明の一部も同社製のLED照明に置き換えることで基本合意したと発表した。

これにより、2013年5月末までに、レオナルド・ダ・ヴィンチ作《モナ・リザ》専用の展示照明や、ジャック=ルイ・ダヴィッド作《皇帝ナポレオン一世と皇后ジョゼフィーヌの載冠》や、ユジェーヌ・ドラクロワ作《民衆を率いる自由の女神》等の大型作品が多数展示されている「赤の間」の天井照明が、東芝製LED照明に改修されることになった。さらに、2014年前半には、全ての来場者を迎える同美術館の顔とも言えるメインエントランスの「ナポレオン・ホール」も、東芝製LED照明に改修される予定である。

このように、《モナ・リザ》を初めとする人類の貴重な芸術的財産である名画群を、日本製の明かりが照らすことは文字通り明るいニュースである。こうした繊細で卓越した美的感受性と技術的創造性こそ、これからの日本が特に世界文化に貢献できる分野ではないかと期待される。

 

※秋丸知貴「時評 ルーヴル美術館と東芝製LED照明」『日本美術新聞』2012年9・10月号、2012年8月、日本美術新聞社、10頁より転載。

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評者: (AKIMARU Tomoki)

美術評論家・美学者・美術史家・キュレーター。1997年多摩美術大学美術学部芸術学科卒業、1998年インターメディウム研究所アートセオリー専攻修了、2001年大阪大学大学院文学研究科文化表現論専攻美学文芸学専修修士課程修了、2009年京都芸術大学大学院芸術研究科美術史専攻博士課程単位取得満期退学、2012年京都芸術大学より博士学位(学術)授与。2013年に博士論文『ポール・セザンヌと蒸気鉄道――近代技術による視覚の変容』(晃洋書房)を出版し、2014年に同書で比較文明学会研究奨励賞(伊東俊太郎賞)受賞。2010年4月から2012年3月まで京都大学こころの未来研究センターで連携研究員として連携研究プロジェクト「近代技術的環境における心性の変容の図像解釈学的研究」の研究代表を務める。主なキュレーションに、現代京都藝苑2015「悲とアニマ——モノ学・感覚価値研究会」展(会場:北野天満宮、会期:2015年3月7日〜2015年3月14日)、現代京都藝苑2015「素材と知覚——『もの派』の根源を求めて」展(第1会場:遊狐草舎、第2会場:Impact Hub Kyoto〔虚白院 内〕、会期:2015年3月7日〜2015年3月22日)、現代京都藝苑2021「悲とアニマⅡ~いのちの帰趨~」展(第1会場:両足院〔建仁寺塔頭〕、第2会場:The Terminal KYOTO、会期:2021年11月19日~2021年11月28日)、「藤井湧泉——龍花春早 猫虎懶眠」展(第1会場:高台寺、第2会場:圓徳院、第3会場:掌美術館、会期:2022年3月3日~2022年5月6日)等。2023年に高木慶子・秋丸知貴『グリーフケア・スピリチュアルケアに携わる人達へ』(クリエイツかもがわ・2023年)出版。

2010年4月-2012年3月: 京都大学こころの未来研究センター連携研究員
2011年4月-2013年3月: 京都大学地域研究統合情報センター共同研究員
2011年4月-2016年3月: 京都大学こころの未来研究センター共同研究員
2016年4月-: 滋賀医科大学非常勤講師
2017年4月-2024年3月: 上智大学グリーフケア研究所非常勤講師
2020年4月-2023年3月: 上智大学グリーフケア研究所特別研究員
2021年4月-2024年3月: 京都ノートルダム女子大学非常勤講師
2022年4月-: 京都芸術大学非常勤講師

http://tomokiakimaru.web.fc2.com/

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