天才美食家と料理人の愛が極上の食と共に展開!映画「ポトフ」は大人の味

新たなるグルメ映画の金字塔!
この言葉を聞いただけで、「見てみたい」と心踊るのは私だけではないのでは?
生きるために食べなければならないのは、私たち動物のさだめ。どうせ食べるならとことん美味しい方がいいですよね。火を使えるようになり、どんどん知能を発達させてきた人類は、他の動物からしたらびっくりするような多様な食材とスキルを駆使して美味しい料理を生み出してきました。
この映画は、美味しい料理をとことん極めた美食家ドダン(ブノワ・マジメル)と料理人ウージェニー(ジュリエット・ビノシュ)の物語です。そしてその物語の根底には、美食の美学で固く結ばれた二人の深淵かつちょっとミステリアスな愛のストーリーも流れています。

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ドダン(ブノワ・マジメル)(中央)と料理人ウージェニー(ジュリエット・ビノシュ)(写真右)(c)Carole-Bethuel(c)2023 CURIOSA FILMS- GAUMONT – FRANCE 2 CINEMA

観ているとお腹がすいてくる

まず何と言ってもみどころは、スクリーンを埋め尽くす100年前(19世紀末、フランス)の極上メニューです。ミシュラン三つ星シェフのピエール・ガニェールが完全監修し、撮影前に全ての料理を試作したというこだわりよう。通常撮影の際は偽の食べ物を使うのですが、今作は本物を使っているので、美味しそうさがハンパない!ジュージュー焼ける肉の音、コトコトゆでられる野菜、オーブンから煙とともに出てくる魚介類など、良い香りを想像してお腹が空いてくる~。

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料理を監修したピエール・ガニェール(写真右)は、ユーラシア皇太子のお抱えシェフとして映画にも登場(c)Stéphanie Branchu(c)2023 CURIOSA FILMS- GAUMONT – FRANCE 2 CINEMA

ここでドダンとウージェニーの関係に触れておきましょう。突き抜けた味覚と食の知識を持つドダンがひらめいたメニューを、最適な食材と表現力で料理として実在させるのがウージェニーです。厚い信頼を寄せ合っている二人から生まれる極上料理はヨーロッパ各国を熱狂させ、“美食”を芸術にまで高めました。20年もの間片田舎のシャトーに共に暮らして料理してきた2人は相思相愛なのですが、ウージェニーはドダンの求婚を断り続けてきました。

驚きの料理 オンパレード

さて、映画はドダンの長年の美食仲間である4人の友人たちを招いての午餐会の日から始まります。ドダンとウージェニー合作の料理を、恰幅のいいおじさんたちがうんちくを織り交ぜながら楽しそうに食べまくる!なんなんだこの夢のような集まりは!
ひと皿目のスープを口にした友人は「喜びのコンソメだ」とうっとり。
私たちは、前の場面でウージェニーたちが野菜や肉を惜しげもなく使ってだしを取ったのを見ているので、「そうでしょうとも!」と思わずつぶやいたりして。
また、先ほどぷるるんと新鮮だった巨大な舌平目は、クリームソースとともにリッチな姿でサーブされます。

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舌平目のクリームソースオランデーズソース添え(c)2023 CURIOSA FILMS- GAUMONT – FRANCE 2 CINEMA

そう、100年前の最高峰の料理プロセスを、厨房に立ち会っているようなライブ感でつぶさに見ることができるのもこの映画の醍醐味です。

最後のデザートとして供される、ノルウェー風オムレツからは、ドダンが当時最先端を行く美食メニューの考案者であったことが分かります。驚く友人たちの目の前で、中にアイスクリームが入っているメレンゲを炎で熱しながら、メレンゲには耐熱性があるのでアイスが溶けないのは科学的に説明できると伝えます。実験的でありながら美味しく、パフォーマンスによるエンターテイメントにも余念のないドダンは、現代であればミシュラン星付きレストランのスターシェフになっていたかもしれません。

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ノルウェー風オムレツ(c)2023 CURIOSA FILMS- GAUMONT – FRANCE 2 CINEMA

本人たちも気づいていない恋愛プレイ?

このように天才で魅力あふれるドダンでも、ウージェニーへのプロポーズには20年間失敗し続けています。
ある夜、忙しい1日を終えたドダンとウージェニーは、シニャックの絵の中のように美しい月光の中で食後酒を飲みながらくつろいでいます。「今夜ドアをノックしても?」「いつも聞くが結婚しないか?」と、ドダンは初デートのような初々しさでウージェニーに問いかけます。既に結婚していたら感じられなかったかもしれないようなドキドキ感。その後、薄暗いシャトーの中を急ぎ足でウジェニーの部屋へ向かい、ドアノブに手をかけるドダン。鍵が開いている日もあれば閉まっている日もあるのでしょう。この日は開いていました。ボナールの絵の中の女性のようにタライの中で入浴するウジェニーが振り向いて微笑む……。厨房の彼女とはまた違った魅力を放つ瞬間。なんという悩殺!

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厨房のウージェニー(c)Carole-Bethuel(c)2023 CURIOSA FILMS- GAUMONT – FRANCE 2 CINEMA

そんな幸せな日々を送る中、ウージェニーが突然倒れてしまいます。「私は元気よ」と彼女は言いますが、日に日に弱っていくのは明らか。そこでドダンは、人生初の挑戦として全て自分の手で作る渾身のコース料理を彼女に振る舞います。フェルメールの絵の中の女性のようないでたちでお洒落したウージェニーの目の前に、ドダンの手料理が次々と運ばれてきます。中でも傑作は、薄い紙をくしゃくしゃとしたような繊細なクッキー生地の中に寝かされた梨のコンポート。しっとりとしたぬめりがなまめかしい梨の一皿に、ウージェニーが見つけたものとは?
その後、ウージェニーの部屋を訪ねたドダンの目の前には、全裸の後ろ姿でベッドに横たわる彼女が居ました。そのヌードの形は、先程の梨のコンポートとそっくりです。美食と愛がシンクロするこのシーンは、トラン・アン・ユン監督ならではのポエムとエロティシズムの真骨頂!

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ウージェニーに出された梨のコンポート。命を支える食べ物は、時にエロティシズムをはらんでいる (c)2023 CURIOSA FILMS- GAUMONT – FRANCE 2 CINEMA

さて、2人の運命やいかに?
結婚するのでしょうかしないのでしょうか?
結婚したとすると、このある種緊張感に満ちた恋愛関係は終わってしまうのでしょうか?
それともさらに永遠のものとなるのでしょうか?
続きはぜひ劇場にて!

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幸せそうなドダンとウージェニー(c)Stéphanie Branchu(c)2023 CURIOSA FILMS- GAUMONT – FRANCE 2 CINEMA

【映画基本情報】
タイトル︓『ポトフ 美⾷家と料理⼈』 (ポトフと美⾷家の間は半⾓アキ)
監督︓トラン・アン・ユン 脚本・脚⾊︓トラン・アン・ユン
出演︓ジュリエット・ビノシュ、ブノワ・マジメル
料理監修︓ピエール・ガニェール
配給︓ギャガ
原題︓La Passion de Dodin Bouffant/2023/136分/フランス/ビスタ/5.1ch デジタル/字幕翻訳︓古⽥由紀⼦
公式HP : https://gaga.ne.jp/pot-au-feu/ 公式Twitter : @Pot_au_Feu_1215
予告編URL︓https://youtu.be/-WGjyxVkPzo

◆上映予定:12 ⽉15 ⽇(⾦) Bunkamura ル・シネマ 渋⾕宮下
シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

☆映画に出てくる絶品の数々をリアルでいただける またとないチャンス!あの「ノルウェー風オムレツ」もメニューに!

【映画『ポトフ 美食家と料理人』公開記念特別コース】
「ムニュ・ドダン(Menu Dodin)」概要
■店舗名: ピエール・ガニェール(36FL.) Pierre Gagnaire
■期間/時間: 2024 年1 月6 日(土)~2 月29 日(木) ※但し、月曜・火曜を除く。
ランチ 12:00~15:30 (13:30 L.O.)/ディナー 18:00~23:00(20:00 L.O.)
■メニュー名/価格: 「ムニュ・ドダン(Menu Dodin)」 お1 人様 37,290 円(税・サービス料込み)
※下記メニュー内容の✦印の1 品を除いた「ムニュ・ポーリーヌ(Menu Pauline)」
(お1 人様 31,075 円/税・サービス料込み)もご用意しています。
■メニュー内容:
アミューズブーシュ
ホタテ貝/レタスのブレゼ/菊芋のロワイヤル/真牡蠣 赤ビーツ 熟成コンテチーズ
✦ ヴォル・オ・ヴァン
リ・ド・ヴォー 鶏のムース ラングスティーヌ 烏賊 シイタケ
ミルクの中でポッシェしバターでローストしたヒラメ ジュ・ヴェール 生ハムのクリスティアン
ドダンのポトフ(3皿)
仔牛のすね肉 牛頬肉 鴨肉 牛骨髄 冬野菜 ジャガ芋とバターで仕上げたポトフのブイヨン
コンソメのジュレ ピュイ産緑レンズ豆と大根
牛骨髄とパン・ド・カンパーニュ
ノルウェー風オムレツ(デザート)
小菓子/コーヒーまたは紅茶
※ワインのペアリングは18,645 円~(税・サービス料込み)ご用意しています。

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評者: (KIKUCHI Maiko)

アーティストと交流しながら美術に親しみ、作品の鑑賞・購入を促進する企画をプロデュースするパトロンプロジェクト代表。東京大学文学部社会学科修了。
英国ウォーリック大学「映画論」・「アートマネジメント」両修士課程修了。
2014年からパトロンプロジェクトにて展覧会やイベントを企画。2015年より雑誌やweb媒体にて美術記事を連載・執筆。
特に、若手アーティストのネームバリューや作品の価値を上げるような記事の執筆に力を入れている。

主な執筆に小学館『和樂web』(2021~)、『月刊美術』「東京ワンデイアートトリップ」連載(2019~2021)、『国際商業』「アート×ビジネスの交差点」連載(2019~)、美術出版社のアートサイト 「bitecho」(2016)、『男子専科web』(2016~)、など。

主なキュレーションにパークホテル東京の「冬の祝祭-川上和歌子展」(2015~2016)、「TELEPORT PAINTINGS-門田光雅展」(2018~2019)、耀画廊『ホッとする!一緒に居たいアートたち』展(2016)など。」

https://patronproject.jimdofree.com/

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