アーカイヴ「展評『細川家の至宝 珠玉の永青文庫コレクション展』『肥後松井家の名品「武家と能」「武家と茶」展』」秋丸知貴評

■細川家の至宝
東京国立博物館 2010年4月20日~6月6日
京都国立博物館 2011年10月8日~11月23日
九州国立博物館 2012年1月1日~3月4日

■肥後松井家の名品
「武家と能」展 承天閣美術館 2011年10月1日~12月4日
「武家と茶」展 茶道資料館 2011年10月1日~12月4日

 

旧熊本藩主細川家の700年に及ぶ歴史資料や美術品を後世に伝えるために16代当主細川護立により設立された、財団法人永青文庫の所蔵品を紹介する「細川家の至宝 珠玉の永青文庫コレクション」展が、東京、京都、福岡を巡回中である。展示内容は、前半が細川家に伝来する武家道具、文書、書画、工芸品等で、後半が自身希代のコレクターであった護立の収集した刀剣、中国美術、近代絵画等で構成されている。8万点を超える所蔵品のうち、国宝・重要文化財を含む厳選された名品が多数出品されている。

また、京都ではこれに合わせて、細川家の筆頭家老であり、将軍家及び自家の代替わりには将軍御目見えも特別に許されていた、松井家に伝来する名品を紹介する「肥後松井家の名品」展も2会場で開催された。展示内容は、相国寺承天閣美術館の「武家と能」展が武家道具や能道具を中心とし、茶道資料館(裏千家センター)の「武家と茶」展が茶道具を中心としていた。「武家と能」展では、松井家とゆかりの深い宮本武蔵の書画の展示等も注目を集めていた。

熊本の名家として知られる細川家・松井家ともに京都にルーツがあり、両家に関する展覧会が京都で同時開催されたことは、展示品同士の歴史的奥行きを一層増すように感じられた。こうした展覧会及び展示施設の相互連携は、鑑賞者の知的・美的好奇心を強く刺激するものであり、今後も積極的に試みられることが期待される。

いずれの展示も、両家が文武両道を重んじ、激動の乱世を生き抜くと共に、和歌、能、茶の湯等の日本の伝統文化を守り伝えてきたことがはっきりと伝わる内容であった。一つの家系が伝承してきたものが、時を経て郷土や日本全体の文化財となり、またそこで培われた有形無形の美意識が、新しい文化的・美術的伝統の創造へと繋がる可能性を示唆しているように思われた。

 

※秋丸知貴「展覧会評『細川家の至宝 珠玉の永青文庫コレクション展』『肥後松井家の名品「武家と能」「武家と茶」展』」『日本美術新聞』2012年1・2月号、2011年12月、日本美術新聞社、21頁より転載。

 

 

 

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美術評論家・美学者・美術史家・キュレーター。1997年多摩美術大学美術学部芸術学科卒業、1998年インターメディウム研究所アートセオリー専攻修了、2001年大阪大学大学院文学研究科文化表現論専攻美学文芸学専修修士課程修了、2009年京都芸術大学大学院芸術研究科美術史専攻博士課程単位取得満期退学、2012年京都芸術大学より博士学位(学術)授与。2013年に博士論文『ポール・セザンヌと蒸気鉄道――近代技術による視覚の変容』(晃洋書房)を出版し、2014年に同書で比較文明学会研究奨励賞(伊東俊太郎賞)受賞。2010年4月から2012年3月まで京都大学こころの未来研究センターで連携研究員として連携研究プロジェクト「近代技術的環境における心性の変容の図像解釈学的研究」の研究代表を務める。主なキュレーションに、現代京都藝苑2015「悲とアニマ——モノ学・感覚価値研究会」展(会場:北野天満宮、会期:2015年3月7日〜2015年3月14日)、現代京都藝苑2015「素材と知覚——『もの派』の根源を求めて」展(第1会場:遊狐草舎、第2会場:Impact Hub Kyoto〔虚白院 内〕、会期:2015年3月7日〜2015年3月22日)、現代京都藝苑2021「悲とアニマⅡ~いのちの帰趨~」展(第1会場:両足院〔建仁寺塔頭〕、第2会場:The Terminal KYOTO、会期:2021年11月19日~2021年11月28日)、「藤井湧泉——龍花春早 猫虎懶眠」展(第1会場:高台寺、第2会場:圓徳院、第3会場:掌美術館、会期:2022年3月3日~2022年5月6日)等。2023年に高木慶子・秋丸知貴『グリーフケア・スピリチュアルケアに携わる人達へ』(クリエイツかもがわ・2023年)出版。 2010年4月-2012年3月: 京都大学こころの未来研究センター連携研究員 2011年4月-2013年3月: 京都大学地域研究統合情報センター共同研究員 2011年4月-2016年3月: 京都大学こころの未来研究センター共同研究員 2016年4月-: 滋賀医科大学非常勤講師 2017年4月-2024年3月: 上智大学グリーフケア研究所非常勤講師 2020年4月-2023年3月: 上智大学グリーフケア研究所特別研究員 2021年4月-2024年3月: 京都ノートルダム女子大学非常勤講師 2022年4月-: 京都芸術大学非常勤講師