アーカイヴ「展評『帰ってきた江戸絵画 ニューオリンズ ギッター・コレクション展』」秋丸知貴評

 

松坂屋美術館 2010年9月11日~10月17日
千葉市美術館 2010年12月14日~2011年1月23日
静岡県立美術館 2011年2月5日~3月27日
京都文化博物館 2011年9月3日~10月16日
福島県立美術館 2011年10月29日~12月4日

 

アメリカ人眼科医カート・ギッター博士が約40年にわたり収集した江戸絵画を紹介する、「帰ってきた江戸絵画 ニューオリンズ ギッター・コレクション展」が、名古屋、千葉、静岡、京都、福島を巡回した。

同コレクションは、禅画を中心に、文人画、円山四条派、琳派、浮世絵、奇想の画家、近代絵画等で構成され、白隠、円山応挙、伊藤若冲、曽我蕭白、長澤蘆雪、俵屋宗達、酒井抱一、神坂雪佳、中原南天棒等の良品を多く含むことで知られる。

展示は、アメリカ人の見た日本美術という視点から、「若冲と奇想の画家たち」「琳派の多彩」「白隠と禅の書画」「自然との親しみ」「理想の山水」「楽しげな人生」という6つのセクションからなり、選りすぐりの107点が出品されていた。会場では、まず民間の一個人のコレクターがこれほど数多くの名品をバランス良く収集できたことに驚かされる。

アメリカ人収集家と聞くと、大味で派手好みなコレクションが想像されるかもしれない。確かに陳列品には、若冲の《白象図》や南天棒の《托鉢僧行列図》等、誰もが一目で笑いを誘われる明快な優品も多かった。しかし、特筆すべきは、蘆雪の《月に竹図》や山本梅逸の《四季草加図》等のように、ほぼ全ての作品の筆遣いや構図には、紛れもなく繊細で瀟洒な日本的美意識が強く感じられたことである。ギッター博士自身は、日本美術の持つ「純粋で、シンプルで、素朴な」美しさに惹かれたと表現している。

近年の若冲評価が、同じくアメリカ人収集家のジョー・プライス氏のコレクションに支えられたところが大きかったように、日本的美意識は日本人にしか分からないということは決してないのである。むしろ、外国人の眼を通すことで、日本的美意識の普遍性を確認できるところもあるのかもしれない。

絵画作品には、学術的な調査研究がもちろん必要である。しかし、時には難しく考えずに、見たままに画家の想像力や技量の冴えを楽しむ喜びも求められている。そこにこそ、収集家の美意識が前面に出る個人コレクションの展覧会の醍醐味もある。作品を見て回る観覧者に笑顔の多かったことが、それを示していよう。

 

※秋丸知貴「展覧会評『帰ってきた江戸絵画 ニューオリンズ ギッター・コレクション展』」『日本美術新聞』2012年1・2月号、2011年12月、日本美術新聞社、21頁より転載。

 

 

 

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美術評論家・美学者・美術史家・キュレーター。1997年多摩美術大学美術学部芸術学科卒業、1998年インターメディウム研究所アートセオリー専攻修了、2001年大阪大学大学院文学研究科文化表現論専攻美学文芸学専修修士課程修了、2009年京都芸術大学大学院芸術研究科美術史専攻博士課程単位取得満期退学、2012年京都芸術大学より博士学位(学術)授与。2013年に博士論文『ポール・セザンヌと蒸気鉄道――近代技術による視覚の変容』(晃洋書房)を出版し、2014年に同書で比較文明学会研究奨励賞(伊東俊太郎賞)受賞。2010年4月から2012年3月まで京都大学こころの未来研究センターで連携研究員として連携研究プロジェクト「近代技術的環境における心性の変容の図像解釈学的研究」の研究代表を務める。主なキュレーションに、現代京都藝苑2015「悲とアニマ——モノ学・感覚価値研究会」展(会場:北野天満宮、会期:2015年3月7日〜2015年3月14日)、現代京都藝苑2015「素材と知覚——『もの派』の根源を求めて」展(第1会場:遊狐草舎、第2会場:Impact Hub Kyoto〔虚白院 内〕、会期:2015年3月7日〜2015年3月22日)、現代京都藝苑2021「悲とアニマⅡ~いのちの帰趨~」展(第1会場:両足院〔建仁寺塔頭〕、第2会場:The Terminal KYOTO、会期:2021年11月19日~2021年11月28日)、「藤井湧泉——龍花春早 猫虎懶眠」展(第1会場:高台寺、第2会場:圓徳院、第3会場:掌美術館、会期:2022年3月3日~2022年5月6日)等。2023年に高木慶子・秋丸知貴『グリーフケア・スピリチュアルケアに携わる人達へ』(クリエイツかもがわ・2023年)出版。 2010年4月-2012年3月: 京都大学こころの未来研究センター連携研究員 2011年4月-2013年3月: 京都大学地域研究統合情報センター共同研究員 2011年4月-2016年3月: 京都大学こころの未来研究センター共同研究員 2016年4月-: 滋賀医科大学非常勤講師 2017年4月-2024年3月: 上智大学グリーフケア研究所非常勤講師 2020年4月-2023年3月: 上智大学グリーフケア研究所特別研究員 2021年4月-2024年3月: 京都ノートルダム女子大学非常勤講師 2022年4月-: 京都芸術大学非常勤講師